第23話
ブクマや評価、感想等々大歓迎です。
評価等してくれた方々、本当にありがとうございます。
ただまぁ…お手柔らかに。心弱いので…
好きな人のタイプ、そんなもの…俺と合う人としか言えないだろう。だって、お転婆でも真面目でも、後輩でも先輩でも、俺が好きになったらタイプなんて関係ないよね…と思ったこの頃。なんだかんだで皆雑食だと思うよ。うん。
「それではまずこちらをお渡しいたします」
俺を呼んだのは俺が封筒を渡した受付嬢だった。そして彼女は俺に数枚の硬貨を出してくる。しかし、カリカリオ村で貰った硬貨とは材質や描かれているものが異なっていた。ひょっとすると、ひょっとしなくても…硬貨ごとに価値が違うのか。
「えっと…あの」
「はい?」
誰に聞くのが適切かを考えた時、接客を仕事としている人物に聞いた方が親切に教えてくれるかもしれない。
俺はまず周囲を確認して、右手を口に添える。それから受付嬢を怖がらせないようにゆっくりと、少し顔を近づけた。
「私、地図に載ってない超ド田舎から来た者でして…道中でカリカリオ村を通りかかったのですが…」
懐に忍ばせていたカリカリオ村で貰った硬貨を1枚、受付嬢が出した硬貨の横に並べる。
「お金、使ったことがなくて…」
とてつもなく申し訳なさそうな顔をして受付嬢に問う。すると受付嬢は営業スマイルのまま、それはもう…可愛らしく小首を傾げた。
「お金…知らないんですか?」
「いえその…本で。あの…本で読んだ知識としてはあるんですよ?ほら、売買に使ったりとか…物々交換しなくても、相応の額を支払えば…ってやつですよね?」
「はい」
「私が知りたいのはですね…」
俺はそれぞれ違う2枚の硬貨を左手で指し示す。
「この2つの硬貨の違いって…何なんですかっていうことで…はい」
「あーーーーーーー…」
ご理解いただけたようで何よりです。
受付嬢はカウンターの下から紙を取り出すと、そこにカウンターの上に置かれていた羽ペンで何かを書き始める。
「お金の仕組みはご存じなんですよね?」
「あ、はい。一応は」
「では、硬貨の違いだけ説明しますね」
やだ、すごい対応が早いわ…
「まず、クマノヴィッツさんがお持ちの硬貨はダルタイト硬貨と言いまして、ダルタイト王を象徴する薔薇が描かれているのが特徴ですね。そして1枚の価値は100タロンになります。あ、それとタロンというのが、一般的に使われるお金の単位ですね」
受付嬢は羽ペンを止め、紙を俺に見せると、そこにはさっき説明したことをまとめてくれていた。何と親切な対応だろうか。
「なるほど。1枚100タロン…100タロンで何が買えますかね?」
「え?あー…林檎とか露店で売ってる串焼き肉あたりなら買えると思います」
…物価をあまり知らないのにこれを聞いても意味がないな。林檎もピンキリだし。
「次に今回お渡しする硬貨ですが、これはベイルトシス硬貨と言います」
「ベイルトシス硬貨」
「はい、この硬貨は1枚で1000タロンになります」
「ダルタイト硬貨10枚相当ですか…なるほど」
そして、特別報酬金としてそれが…7枚も。7000タロンか。
「この硬貨はベイルトシス王の象徴である小麦が描かれています」
どうやら歴代国王が関係しているらしい。そういや、この国の名前って何なのだろうか?…さすがに自分で調べるか。
「そして実はあと5種類ありまして…」
受付嬢はカウンターの下から新しく3枚の硬貨を取り出す。
「こっちはエブライハ硬貨。エブライハ王の象徴の本が描かれています。1枚1タロンです。基本的にあまり使われませんね」
「それはなぜ?」
「代金を細々と請求する店があまりないからです。それにかさ張るじゃないですか」
「…なるほど」
「それで次がえっと……………よくわからない花が描かれたデザフォア硬貨です。1枚10タロン」
うん、可愛いな。俺も日本の硬貨に描かれているものなんてあんまし覚えてないし、その辺はわからなくても別にいいと思う。
「すみません。何の花だったかな…」
「まぁ他と区別できるなら問題ないですから」
「すみません。それで一応最後に残った硬貨が1枚10000タロンのユクトレヒト硬貨です。これは覚えてますよ。ユクトレヒト王の愛馬ワリアリアです。絵本にもなってるくらい有名な白馬なんですよ」
日本の貨幣は1、5、10、50、100、500、1000、5000、10000だったが、残り2種類は…5系の単位なのだろうか?
そう思っていると、少し予想外の言葉が続いた。
「ちなみにあと2つの硬貨は私も見たことがないんです。1つはガランブエラ硬貨といって1枚10万タロン、お金持ちとかが持っていると聞きます。噂では真理の盾が描かれているとか。商人間の大型取引等でしか使われないので、私達市民には縁がないですね」
そして最後の1枚に俺は驚くこととなる。
「最後に王族のみが持つとされるユンク硬貨。その価値は不明です。何せ市場には絶対に出回らない硬貨ですから」
「何が描かれているんですか?」
「ユンク王が持っていた龍の剣です」
……………ん?龍の剣だと!?
「龍の剣…」
あのゲームのタイトルと同じ。というかタイトルの由来となったあの伝説の龍殺しの剣か?ヤバい、物凄く気になるけど…
「以上になります」
「親切にありがとうございました」
探りを入れようにも…実はゲームの龍の剣には「伝説の龍殺しの剣」としか設定にないし、そもそもどんな形かも不明。確か運営の発表では「最強の剣ですから、簡単には登場させません」とのことで、詳細も一切不明な代物だった。そんなもの、どうやって探りを入れたらいい。これは神タロニッツに聞くべき案件だろう。
「こちら、まとめてありますから困った時にでも」
受付嬢は硬貨について綺麗にまとめた紙を俺に渡してくる。今更ながら…紙に書かれている文字は全て日本語だった。【龍の剣】の運営は日本に本社を置いてたし、大半が日本ユーザーだったのが影響しているのか。
「これはこれは、本当にありがとうございます」
俺は紙を受け取り、自分が出したダルタイト硬貨と特別報酬金のベイルトシス硬貨をしまう。
「いえいえ、何かお困りでしたら、いつでもご相談ください」
うん、俺ってチョロいな。目の前にいる受付嬢が天使に見える。
「あ、あの…お名前伺っても?」
なんかナンパしてるみたいだな。でも、親切な対応をしてくれた受付嬢の名前くらいは知っておきたい。今後、何かこのギルド会館に用がある時のためにね。
俺の言葉をどう受け取ったのか、受付嬢は笑顔で一礼してくる。
「ソランと言います」
受付嬢ソラン、茶髪ポニテ…よし、覚えた。
「それではもう1件、推薦状の方についてですが…」
推薦状?……忘れてた。
「ああはい。何でしょうか?」
危ない危ない。もう立ち去ろうとしてたわ。
俺は慌てて直立姿勢を取るが、ソランさんは俺の後ろを気にして首を傾げる。
「あの、お連れの…ベアリアさんは?」
「へ?ああ…えっと…今頃、訓練所?の方でギル君という冒険者と手合わせをしているかと」
正直に答えると、ソランさんは困った顔をする。
「推薦状の内容はお2人をCランク冒険者に認定するという内容でして、ベアリアさんにも説明と書面による手続を…」
「あー、それは…すみません」
Cランク冒険者…ギルより上なのか。すっげぇな。コロホロボスキの書く推薦状にはそんな権限があるのか。もっと媚びておくんだった…
俺はひとまず頭を下げるが、ソランさんは優しく微笑んで、首を横に振った。
「訓練所にいるんでしたね?」
「そのはずですが…」
呼びに行った方がいいよな。多分、もう決着がついているだろうし。ベアリア、怪我してないといいけど。
「呼んできます」
俺がそう言うと、何故かソランさんはまた首を横に振る。
「いえ、その必要はないですよ」
そして今度はソランさんが左右で冒険者とやりとりをしている他の受付嬢の様子を伺って、俺がしたのと同じように顔を近づけてくる。俺は背が高いので、少し前屈みになって右耳をソランさんに傾ける。
「私も行きますよ。訓練所の場所、わかりませんよね?」
俺はまた正直に頷く。するとソランさんはカウンターの上を手早く片付け、カウンターの下から『窓口閉鎖中』と書かれた木札を取り出して、真ん中に置いた。その様子は何やら嬉しそうで、喧騒とした中でソランさんの鼻歌がわずかに聞こえてきた。
果たして何がそんなに嬉しいのだろうか。
ーー龍の剣用語集ーー
【龍の剣】
伝説の龍殺しの剣。詳細が不明な剣だが、2つの仮説が論争を引き起こしていた。『伝説の龍を殺した剣説』と『伝説の龍殺しと呼ばれた人物の剣説』の争いである。真相は運営のみが知ることで、争う意味はあまりない。




