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第22話

ブクマや評価、感想等々大歓迎です。

評価等してくれた方々、本当にありがとうございます。

ただまぁ…お手柔らかに。心弱いので…


一応、ここからラスマの街編なのでしょうね。

「うわっはっ!」


 ラスマの街は【龍の剣】でお馴染みの城郭都市だった。高い城壁の上には何人もの見張りが立っていて、それっぽい旗がいくつも風に揺られている。そして中は石畳の道と煉瓦造りの建物…ああ、本当にゲームの中に紛れ込んだんだ。


「兄さん大丈夫かい?」

「クマノヴィッツ様…?」


 この辺の感覚を共有できる人間がいないというのも寂しいものだな。クマノヴィッツが活動拠点にしてた街もこんなんだったし…

「あーいや……失礼」

 俺は興奮を胸の内にしまうと、馬車は他より明らかに豪勢な造りの建物の前で停車する。


「冒険者ギルドはここさ」


 アレックスは話せば話すほどいい人だった。挙句、俺達の目的地まで運んでくれるとは…

「助かりました」

 俺達は荷台から飛び降り、御者台に座るアレックスに頭を下げる。すると、視界の外から笑い声が聞こえた。

「いいってことよ。いいってことよ。んじゃ、旅で何か入り用だったら、ペトラス商店をよろしく頼むぜ」

 頭を上げると、アレックスが右の拳を突き出してきたので、俺も拳を突き合わせる。

「ええ、必ずや」

「ありがとうございました」


 アレックスは最後に快活な笑みを見せてレクトを進ませる。俺達はアレックスが曲がり角で姿が見えなくなるまで見送った。

「良き出会いだったな」

「はい。予定より早く到着しましたね」

 俺はアレックスが経営する『ペトラス商店』という名を確かに記憶してから踵を返して、目の前の……武装した人々が出入りする建物を見上げる。


「入るか」

 自分達だけで入るには少々勇気が必要だったため、人の流れに合わせて中に入る。

「「うっ…」」

 冒険者ギルドの会館の中は、鼻がひん曲がりそうなほどの酸っぱい匂いが充満していた。俺は思わず真上を向いたが、ベアリアも俺の後ろで声を詰まらせる。


「次の依頼だけどな…」

「おい、準備できたら行くぞ」

「あいついねぇじゃねえか!」

「あー!依頼取られてる!」

「番号札67番の方!査定が終わりました!」


 とにかく広い会館の中には無数の円卓と椅子が並んでいて、汗臭い人々で溢れていた。

「多分、俺らが知ってるギルド会館だよな?」

「早く受付に行きましょう」

 珍しくベアリアの方が先導するように受付に向かう。さては用事を早く済ませてここから出たいというわけか。

 俺は仕方なくキビキビ歩くベアリアの背中を追いかけて、受付が見える位置まで行く。受付には5人の見目麗しい受付嬢が立っていて、偶然か…ちょうど暇そうにしていた1人の受付嬢と目が合う。

「こちらにどうぞ」

「え…ああ…どうも。はい」

 役所とか銀行とか、カウンター越しに何か話をする時って…妙に緊張しない?

 そう思いながら、俺はその受付嬢の前まで行く。こういう時にベアリアは自然と俺の後ろに控えるのだが、あまりに自然すぎて…ちょっと驚く。

「ご用件をお伺いします」

 俺はとりあえず、リュックの中から2通の封筒を取り出した。


「コロホロボスキさんから、この封筒を見せれば特別報酬金が貰えると。こっちは推薦状?…です」

「拝見いたします」


 受付嬢は俺から2通の封筒を受け取って、中身を確認していく。すると、受付嬢は表情を少し曇らせて俺を見てきた。

「カリカリオ村はどんな状況ですか?」

 なるほど。通信技術が未発達だから、まだあの村の惨状は伝わっていないのか。

「残念ながら、村長と女性、子供合わせて20人ちょっとが生き残りましたが、家々は燃え、村長の話では村を放棄するとのことです」

 俺の言葉に受付嬢の顔がさらに曇る。しかし切り替えは早くすぐに笑顔を見せた。まぁ…かなり弱っていたが。


「そうですか…わかりました。お預かりした書類につきましては1度、職員の方に回させていただきますね。こちらの番号札を持って、あちらで少々お待ちください」


 渡されたのは102番と書かれた番号札。俺はそれを握って、無数の円卓と椅子の中から空いている4人掛けの席に腰を下ろす。ベアリアは俺の右隣に腰を下ろしたが、眉間にずっとシワが寄っていた。

「ベアリア、ん」

 呼ばれるまで暇そうだし、何となく自分の眉間を指差して、ベアリアに指摘してみると、こちらもまた弱った笑顔を見せてきた。


「おい、あんたら新参者か?」


 そこへ俺達に声をかけてきたのは1人の青年だった。装備はアイアンダガーに皮鎧。おそらく駆け出し冒険者だろう。その青年は口角を上げて笑顔を見せると、普通に俺の向かい側に腰を下ろしてきた。

 ズイズイと他人のパーソナルスペースに踏み込んでくる人間は大嫌いなのだが…まぁ、絡まれた以上は仕方あるまい。

「いや何、ただの旅人ですよ」

「へぇ。どっから来たんだ?」

 どっから…てか、なんなんだこいつは?

「オリムシェから」

「初めて聞いた」

 そりゃお前…【龍の剣】で俺が拠点にしてた街だからな。世界が違うし。


「俺、ギルってんだ。これでもDランク冒険者なんだぜ?」

 ここで名乗るか。1番下のランクを知らんからDがすごいかどうかなんて判断できんぞ。

「それは将来有望ですな」

 ベアリアを見ると、ベアリアも僅かに嫌そうな顔をしてDランク冒険者ギルを見ているが、何に不満があるかは不明だ。

「私はクマノヴィッツと言います。こっちのベアリアと旅をしてまして」

「そうか、なぁクマノヴィッツ」


 あ、面倒事に巻き込まれそう。


 ギルはニヤリと笑って、腰に下げられたアイアンダガーを軽く叩く。

「あんたから強そうな匂いがする。1つ手合わせしようぜ」

 …………あーーーーーうん。どうしてそうなるのか。

「すまないが、私は荒事が苦手でね」

 俺は両手を顔のところまで上げて降参の構えを取る。

 おそらく駆け出し冒険者相手ならクマノヴィッツのポテンシャルで遅れをとることなどまずない。しかし問題は俺がそのポテンシャルを発揮できるかというところにあり、対人戦闘には自信がない。

「そんな連れねぇこと言うなよ。な?いいだろ?」

 この何でも自分の思い通りになると思ってる感じ、いじめっ子によくいるけど…嫌だね。本当に。

「いやいや、ギルドに用事があってね。今ここを動くわけにはいかないんだ」

「じゃあ待つよ。それならいんだろ?」

 よくねぇよ。馬鹿じゃねぇの?察しろよバーカバーカバーカ!

 小さく溜息をつく。大丈夫、切れてないっすよ。全然。


「クマノヴィッツ様」


 ベアリアに呼ばれてそちらに目を向けると、あらびっくり、ベアリアが相当不機嫌になっていらっしゃる。

「私にお任せを」

 これが殺気というものか。

「あ、うん…え、でもいける?」

「お任せください」

 言うが早いかベアリアは席を立ち、ギルの方を向いて…それはそれは大層冷たい目をして見下ろす。

「立ちなさい。私が相手をしましょう」

 一方でギルは途端にがっかりしたように俺を見てくる。

「俺はあんたと戦いたいんだけど?」

 ちょいちょい、ベアリアさんが怒りますよ?

「逃げるのか?」

 挑発してきて、さらに嘲笑うような顔をしてくるが…そういうやり口は本当に嫌い。なんで貴様の土俵にわざわざ上らにゃいかんのよ。

 俺は仕方なく、めちゃくちゃ深い溜息をついて、あえて笑った。


「ああ、私は逃げるよ」


 これでもかというくらい不敵に笑う。俺は元々競争社会に向いていない人間だと自覚しているし、勝った負けたと騒ぐほど無駄な体力を持て余らせていない。

「なっ…お前それでも男かよ…!」

「残念ながら男だよ。残念ながらね」

 男らしく、女らしく、個人的にはどうでもいい。それは議論する価値すらない。特に主観でしかものを語れない小童相手に…いや、俺も心は18歳の若者だけどさ。


「まぁ、うちのベアリアに勝てたら考えてやらんこともない。彼女も私と似たような実力の持ち主だからな」


 とはいえ、このままだとギルが引き下がりそうにないし、ベアリアが沸点まで達しようとしているし…妥協案としては妥当なところだろう。

「もちろん殺し合いはNG。どっちかが負けを認めるか、戦闘不能になったら、そこまでだ。場所は…」

「ギルド会館の裏に訓練所がある。本当に戦ってくれるんだよな?」

「私は嘘をついたことはないよ」

 それこそが大嘘だ。仮にベアリアが負けた場合、俺はドロンさせていただくつもりだ。そもそもラスマの街に長居するつもりないし。


「ベアリア、異論は?」

「クマノヴィッツ様に異論など」

「よろしい。勝ったら何か褒美を与えよう」


 うんうん、良きかな良きかな。


「番号札102番の方!用意ができましたのでお越しください!」

 そして見計らっていたかのような完璧なタイミングで呼び出しを受ける。俺は番号札を確認してから立ち上がって、やる気みなぎる若者達に親指を立てた。

「俺はお呼ばれだが…ま、頑張って」


 いや、俺も18歳よ。うん…38歳って設定だからあれだけど…

ーー龍の剣用語集ーー

【オーク】

よくファンタジーもので出てくる豚の頭をした人型の魔物。知能はそこそこ。パワーありあり。群れを成して人間の村々を襲うことがある。基本的には雑食だが、なぜか人間の肉を好む傾向がある。

ちなみにオークの肉はほぼ豚肉。だって豚だもの。しかし人型の生き物を食うことに対する倫理観が問題となり、一般的には普及していなかったりする。

オークは人間を食うのに、なぜ人間はオークを食わないのか…議論が絶えることはない。

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