第21話
ブクマや評価、感想等々大歓迎です。
評価等してくれた方々、本当にありがとうございます。
ただまぁ…お手柔らかに。心弱いので…
「クマノヴィッツ様」
揺すられて目を覚ますと、そこにはベアリアの顔が。そして控えめな胸も目の前に…
「いや、眼福眼福」
「はい?」
「いや、美女の膝枕を体験する機会なんて…金を払わないと味わえないと思ってたからさ」
大丈夫。俺はそんじょそこらの純情男子とは違う。
「もう着きそうなのか?」
俺はベアリアの膝の上から跳ね起き、揺られる荷台の外を見る。
「まだだよ。ぜーんぜん先だなぁ」
荷台の物音が聞こえたのか、荷台の前で馬車を御する商人アレックスが呑気な声で話しかけてくる。ちなみにアレックスが御する馬の名前はレクトというらしい。
「わざわざすみません。乗せてもらっちゃって」
「いいってことよ。おらぁ、困ってる人を助けるのが趣味なのさ」
カリカリオ村を出た俺達は小1時間ほど北に進み、そこで初めて人間が作った道らしい道に出た。そして村長が書いてくれた地図を頼りにラスマの街へ向かっていると、後ろから偶然にも「ラスマの街に帰る途中」だというアレックスが俺達を馬車で拾ってくれたのだ。
「いい趣味をお持ちだ」
「それほどでもねぇさ。まぁ…兄さん方が強そうだったから、道中、ちょいと護衛を頼もうかと思ってね」
「いい判断だ」
「へへへ」
そうそう。それで俺達は何も積まれていない荷台に乗せられて、青空の下を快適に移動していたわけだが…
寝てたのか俺は。ベアリアの膝の上で。
…待て、違うぞ。俺はちょっと目を閉じただけで、自分からベアリアの膝に転がったわけではない。
まさかベアリア自身が俺に膝枕を…!
俺は思わずベアリアの顔と膝を交互に見ると、ベアリアは頰を少し赤くして俺から目を逸らした。
ほほーん、ふーん、なるほどー………マジか。これは期待してもいいやつなのか?
「アレックスさん、ラスマの街とはどのような街ですか?」
俺はベアリアをチラチラと見つつ、アレックスの真後ろまで這っていく。景色はまだ森の中だが、アレックスののんびりとした様子を見る限り、特別警戒しなくてはいけない状況でもないらしい。
「兄さん方はラスマの街は初めてかい?」
「ええ、あそこの冒険者ギルドに用がありまして」
「ああなるほど。あそこは西ウィンデストで1番大きな街でな、とにかく人と物がよく集まるのさ。だから冒険者の依頼もたくさんあって、西ウィンデストの冒険者の8割がラスマの街を拠点にしてら」
村長曰く、道なりに行けばラスマの街まで3日はかかるとのことだった。しかしアレックスは森を抜けたところで1泊すれば、もう明日の昼には着いているという。それまでは情報収集だ。特に冒険者について。
「ラスマの街で1番強い冒険者と言ったら?」
「そりゃラスマ最強といやワイズマンだろうな。何せ国内でも数少ないAランク冒険者だもんでな」
「Aランク、そりゃすごい」
ランク付けがあるのか。コロホロボスキが書いた推薦状もそういうのに影響するのかね。
「そのワイズマンの武勇伝って知ってたりします?」
「有名なのはポンコドラゴン単独討伐かねぇ。俺も何度か護衛をお願いしたことがあったけど、若いのに優秀なこったな」
ポンコドラゴン単独討伐、そりゃすげぇ。あれってゲームじゃ50レベル中級職が3人集まってようやく勝てるって噂だったはずだ。43レベル初級職の俺には縁遠い話だわ。
「若いんですか?」
「ん?詳しくは知らねぇが、美男子だったぜ?ありゃ相当モテる。羨ましいねぇ。才能と美貌があるやつぁよ」
超わかる。俺の幼馴染にもスポーツ推薦で高校に入ったくせに、難関国立大学に部活しながら受かったイケメンがいた。昔はよく俺が咬ませ犬みたいな立ち位置で、ちょいちょい女子とも接点持ててたんだよな。そして「ついでにあげる」とか言って、バレンタインデーに義理チョコ貰ったりね。うん悲しくなってきた。
まぁ、あれは努力の天才でもあったのだろうが…常人には越えられない壁というのは確かにあって、それを越えていく連中は尊敬せざるを得ない。この世界でも俺は常人の部類らしいし…
「なるほど、それは是非ともお会いしたいところです」
何気なく言ったつもりだったのだが、アレックスは背中越しに俺を見てくるなり苦笑する。
「兄さん、あんたも美形だから気を付けた方がいいな」
「どういうことです?」
やだお上手。若さがないのは悔しいけど、否定はしないさ。
「ワイズマンは男色家らしい。しかも…な」
「あぁ…」
アレックスが言わんとしていることは何となく分かった。
「別に親しくするつもりはないさ。俺にはベアリアもいるし。な?」
この設定はいつまで有効なのだろうか。便利だから使い続けるけどさ。
「は、はい!」
「かぁーーーー、いいなこの野郎。俺の女房と代えてくれよ」
「遠慮しとくよ。ベアリアより優秀で、誰よりも愛らしいご夫人なら歓迎だがね」
「愛らしく思ってたら、こんな話しねぇよ!」
「んだな…っと」
森の出口が見えてくる。タロスに来て以来、ずっと森の中にいたから妙な緊張感を覚える。
「こっから先はウィンデス平原だ。魔物も滅多に見ねぇが、よろしく頼むぜ」
「はいよ」
これが観光と旅の違いなのだろうか。見知らぬ土地に踏み出す期待感。それはカリカリオ村を経て、どこか安心しているから出てきたのかもしれない。どうせなら、今はこの気持ちに乗せられよう。
「ベアリア、久しぶりの冒険だ」
俺は目の前に広がってくる平原に自然と頬を緩ませた。
ーー龍の剣用語集ーー
【ポンコドラゴン】
めちゃんこカッコイイ翼竜。そのかっこよさから、ゲームを知らない人々もスマホの壁紙などに頻繁に使用するほどである。龍の剣きっての有能な広告塔。しかし、戦闘になると攻撃パターンにバリエーションがなく、単調な攻撃しかしないため、上級者には容易く狩られてしまう。一方で初心者中級者にはその絶対的火力と防御力を活かして力の差を見せつける。それ故「ポンコドラゴンを倒せたら上級者」とされ、何気に強さの判断基準となっている。
決してポンコツではない。
そう、決してポンコツではないのだ。




