第20話
ブクマや評価、感想等々大歓迎です。
ただまぁ…お手柔らかに。心弱いので…
4日目の早朝、ついに武装した救援隊40名がカリカリオ村に到着した。当然、村人は大喜びだが、俺もようやくここを離れることができると喜んだ。
「クマノヴィッツ様、どうしたんですか?顔色が…」
「ん?ああ…想像以上に自分が年を取っていてな…」
「え?」
「気にするな。んなことより、早く村長に挨拶しに行くぞ」
俺はベアリアを連れて人と物が行き交う焦土を抜け、ノックした上で村長宅に入る。すると中には村長と救援隊隊長コロホロボスキが俺達を待っていた。こっちとしては早くリットランに向けて発ちたいのだが、
「君がクマノヴィッツ殿か」
コロホロボスキは俺達を頼もしい笑顔で握手を求めてきた。
「初めまして、適当に旅をしておりますクマノヴィッツと、供の」
「ベアリアです」
「私は冒険者ギルドの職員コロホロボスキという。今回の助力に感謝する」
コロホロボスキは壮年の無精髭が似合う強面の双剣士だ。左右の腰にはそれなりに値が張りそうな装飾が施された2本の剣が挿してあり、纏う風格も明らかに「歴戦の猛者」といったところだ。しかし、俺はそれ以前に気になることがあった。
「失礼コロホロボスキさん、年齢を聞いても?」
「今年で38だが?」
良かった。思ったより若い。
俺は笑顔でコロホロボスキの手を握り返す。
「奇遇ですね。俺も38なんですよ」
「それはそれは。まったく奇遇ですな。もっと上かと思いました」
「うっつ……老けているとはよく言われますよ。故郷では同世代がいなかったものですから、妙にはしゃいでしまって申し訳ない」
「いやいや、私も老け顔と言われますから、親近感がありますな」
本当は18歳なのだが、クマノヴィッツがまさか…あんなおっさん顔をしていたなんて。まぁ、コロホロボスキは怪獣映画とかで戦場を駆ける軍人さんみたいな凄味があるが、俺の顔はスーツとか…なんかフォーマルな服装が似合うおじ様だ。これはおそらく【龍の剣】の最初のキャラメイク時に、初期設定されている誠実そうな青年のアバターを無駄に老けさせたことが原因だろう。今は好印象を与えそうな顔で何よりと思うほかない。
「しかしお綺麗な夫人を連れて旅とは羨ましい限り」
コロホロボスキはベアリアとも握手するが、ベアリアはコロホロボスキの言葉に恥ずかしそうに俯いた。
「ああいえ、俺とベアリアは夫婦じゃありませんよ。それより、何もなければ…村長に挨拶をしてラスマに行こうかと思っておりますが…」
ベアリアよ、本気で照れているわけじゃないよな?
俺は後ろに控えているベアリアがコロホロボスキと握手している内に、コロホロボスキと入れ替わるようにして村長の前に立つ。すると村長は早速、1つの布袋を持ってくる。
「旅人殿、わずかばかりで大変申し訳ないが…これをお納めください。あなた方は我らの恩人です」
袋は右の掌にちょうど収まるほどの大きさで、中からは何やらコインが擦れる音が聞こえ、重さもずっしりとある。多分、金だ。しかし、お礼の相場はもちろんだが、タロスの金銭感覚を掴めていない以上、何とも言い難いな。受け取るか否か、値段交渉するか否か…
「こんなにも貰って…良いのですか?」
一応確認。しかし村長は大きく頷いた。そこへ後ろからコロホロボスキが肩を叩いてくる。
「その件だが、ラスマの街にこれを持っていくといい」
コロホロボスキが渡してきたのはなんかかっこいい紋章が描かれた封筒だった。
「それをラスマの街の冒険者ギルドに見せれば、特別報酬金が出るようになっている。1人でオークの群れを全滅させられたのですから、私の方からも是非お礼をさせていただきたい」
「なるほど」
臨時収入は大歓迎だ。
俺は布袋と手紙を村長から頂いたリュックに入れる。すると、コロホロボスキは口を半開きにして、何かを思い出したように真顔で瞬きをした。そしてベアリアに小さくガッツポーズをしていた俺に聞いてくる。
「クマノヴィッツ殿は冒険者なのですか?」
冒険者の意味が【龍の剣】の世界と同じなら答えはYesだが、ギルドという組織がありそうなため、何かしらの登録をしているかもしれない。あのゲームにはギルドカードとかあったし。
「冒険者が助けに来られないほど辺境の土地で暮らしていたせいか、俺やベアリアは自己防衛のために強くならざるを得なかったのです。今は観光と安全に暮らせる土地探しの旅をしております」
「左様ですか………もしかして身分証らしいものはお持ちでないと?」
「ない、ですね」
コロホロボスキが何か企むように笑った。
「ならば、特別報酬金を受け取るついでに冒険者ギルドに登録しておくと良いでしょう。私の方で推薦状もお書きいたします」
…強い人材の確保が狙いか。
面倒ごとに巻き込まれるのだけは御免だが、何かしら有益なことも期待できるし、この提案は乗ってもいいだろう。
「まぁ…書くだけ書いてもらえますか?」
冒険者について調べて、何かマズそうだったら、その推薦状を破り捨てればいい。ただ、働き口の確保はしていて損はないだろう。
「わかりました。すぐに準備しましょう」
コロホロボスキは満面の笑みで村長から筆を借り、何かを書き始める。すると村長は俺達を見て、胸の前で両手を組み、そこに額をつける。
「旅人殿に女神タロニエの加護があらんことを」
シンシアから聞いたが、おそらく神徒教のお祈りスタイルなのだろう。日本では特別何かを信仰することはなかったし、神の存在にも否定的だったから、普通に受け流しても良さそうだが…
「カリカリオ村の皆様にも女神タロニエの加護があらんことを」
タロニッツと会った以上は、タロニッツを信仰せねばなるまい。あの神次第で、俺は日本に帰られるわけだし、ご機嫌取りくらいはしてやらないと。
こうして俺とベアリアはカリカリオ村を離れることとなった。ここで見たこと、感じたこと以上に酷い環境に放り込まれることだけは回避したい。女神タロニエにこの願いが通じているのなら、是非とも加護というやつを…
ーー龍の剣用語集ーー
【ツノ兎】
好戦的な兎。人間を襲う理由は単純に縄張りに侵入したからというだけで、縄張りから出れば特別襲ってくることはない。頭についた1本角は非常に強固だが、ツノ兎自身の突撃がショボいため、極めて貫通力が低い。まさに宝の持ち腐れ。