第19話
ブクマや評価、感想等々大歓迎です。
ただまぁ…お手柔らかに。心弱いので…
村長は明後日には救援隊が来ると言っていた。しかし気づくと…そう聞いてから3日目の夜を迎えた。
夜に魔物の襲撃はないとのことだったが、油断してやられるわけにはいかないと、俺は村人と連携して見張りをしていた。基本的には戦える俺かベアリアのどっちかと村人数人を1組としてローテーションを組み、夜の警戒に当たる。
ちなみに大人は全員野宿で、子供は村長宅で寝かしている。雨が降っていない事に今は感謝だ。
「救援隊、来ませんね」
「それな」
俺は立って森の奥をずっと睨みながら、隣に座るシンシアと寝ないように会話をするものの、やはり孤立無援状態で過ごす3日目には不安感が出始めていた。
「村から逃げ出した人達も戻ってきませんし…」
シンシアは村長の孫娘で、オーク襲来以前に両親を亡くしており、家族を失うことの辛さを知っているという。現状、家族全員が無事だったという世帯はなく、シンシアがそんな村人達を心配しないはずがない。
俺はベアリアとツノ兎狩りに出かけた時に、森の中でぼっちウルフに喰われた人間の死体をいくつか見つけているが…
「だな」
わざわざ悲しませる必要もないだろう。
「実際のところ、ロンリ狼ってどれくらい危険なんだ?いかんせん、俺達は辺境の魔物が多い危険な地で暮らしていたもんだから…妙に価値観がズレててな」
代わりに嘘がポンポン出てくる。しかし傷心中の村人達よりシンシアの方が話しやすく、情報も引き出しやすいので…こればっかりは申し訳ないと思う。
「ロンリ狼は成人男性なら、問題なく撃退はできると思いますが、女性や子供は飛びつかれた時に果たして抵抗できるかどうか…それに噛まれたら傷口から感染症がですね…」
「ああ、そういうこと」
俺が頷くと、不意にシンシアが俺のオークの血がついたズボンの裾を引っ張ってきた。何事かと見下ろせば、月光に照らされたシンシアと目が合う。
「クマノヴィッツさん、安住の地を探していると言ってましたよね?」
言ったかそんなこと?………言ったわ。
「言った。それがどうかしたのか?」
シンシアは上目遣いで俺を見上げてくる。
「私も連れて行ってくれませんか?」
「は?」
一瞬、シンシアが何を言っているのかわからなかったが、すぐに俺はニヤつきそうになる。
全然いいよ。大歓迎さ。一目見た時から綺麗な顔立ちをしてるなって思ってたし、両手に花で旅ができるなら、嬉しいに決まってる。
しかしそう思っても俺は…首を横に振った。
「悪い。それは無理だ」
単純な話、安住の地は求めていない。人探しをして、一刻も早くタロスから日本に帰るのが目的の旅だ。ベアリアもあのゲームの世界、オルタードラゴニアに帰ることを考えているはずだ。そこにシンシアが入る余地はない。
「そう…ですか。すみません、気にしないでください」
シンシアは少し残念そうに俯いた。
「村長が村を放棄するって聞いたので、私も旅に出てみようかなって何となく思っただけですから」
「そうか…」
タロニッツは【龍の剣】に近い世界だと言った。つまり、どこに行っても魔物が出るだろう。そうなると、シンシア1人では旅をすることは難しく、俺達もシンシアを守りながらの旅はごめんだ。
「私の父は元冒険者でした」
シンシアに俺の顔がどう映ったのか、彼女は旅を思いついた理由を語り始めた。
「父はこの村に依頼の途中で立ち寄った時、村長の娘だった母に一目惚れしたそうです。それからこの村に移り住んで…だから昔はよく世界のことを色々教えてくれたんです。それで広い世界には憧れていたのですが…でもまぁ…私は非力ですからね」
「すまんな」
俺が謝ると、シンシアは顔を上げてからかうように笑った。
「ベアリアさんもいるなら、私、お邪魔ですものね」
…そっちの設定も生きているのか。
「あーーーー…うん。ベアリアは浮気を認めないからな。怒ると怖いし」
「でも好きなんですよね?」
「まぁな。彼女に似合う男になるのも一苦労さ」
…昨日あたりから気づいたけど、自分がキャラメイクしたベアリアはどこか自分の性癖と対峙しているようで、どうしても興奮できないんだよな。途中で絶対…萎える。何がとは言わんけど。
「クマノヴィッツさんは十分かっこいいですよ」
「マジで?」
「はい。私の父より断然男前ですよ」
シンシアの父親がいくつの時だよ。故人と比べられると微妙に喜びづらいものがあるな。
「クマノヴィッツさんは大人の色気がありますから、逆にベアリアさんが焦ってるかもしれませんね」
…オトナノイロケ?
「おいおい、俺はまだ18だぞ」
「え?」
待てシンシア。変な顔で俺を見るな。
「冗談、ですよね?」
俺は困惑した顔をするシンシアを見て、頭の片隅に残っていたヤックムの言葉を思い出す。
ーーなんで!?おじさん達はオークを倒せるんだよね!どうして行ってくれないんだよ!ーー
なんでヤックムは俺を見て「おじさん」と言ったのか。
思えば、この身体は本来の俺ではなくクマノヴィッツの身体なのだ。そして俺はクマノヴィッツをどうキャラメイクしたのかあまり覚えていない。初期設定の顔を適当にいじったことは覚えているが…まだ鏡とかで詳細を確認していない。
俺は右手を頰に当て、小さく首を傾げる。
「見えない?」
「えーっと…はい」
シンシアは苦笑する。
「そっか…」
明日…絶対に確認しよ。
俺はそう思うと…深い溜息を漏らすのだった。
ーー龍の剣用語集ーー
【ロンリ狼】
痩せ細った一匹狼っぽい魔物。非常に臆病で、強い魔物にはまず近寄らないため、ロンリ狼がいるところは雑魚しかいないエリアと言われる。
ネット掲示板などではその弱さと臆病さからぼっちウルフと呼ばれることが多い。




