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第16話

 タロニッツって…今更ながらクマノヴィッツと語呂が似てるよな。

「どうしたんだい?早くこっちに来て座りたまえ」

「あー…うん、ここで、大丈夫です、はい」


 似てるからなんだよ、となるわけだが、どうでもいいことを考えてないと…かなりキツい。だって、めちゃくちゃ高所を飛んでるから。めちゃくちゃ怖いもん。


 俺は雲の縁に座ったタロニッツの後ろに控える形で正座をする。その雲は魔法の力か、風も幾分和らいでいて、ゆっくりと水平に移動していた。

「さて、じゃあ何から話そうか」


 気を取り直して…質問責めの時間だ。まずは現状だな。

 俺はタロニッツの背中をじっと見つめて問い始める。


「タロニッツ、俺はどうやってここに来た?もとの俺は死んだのか?」

「僕がちょっとした力を使って君を呼んだ。日本にいる君はおそらく植物人間かな?魂を引き抜いたからね」


「そのちょっとした力で俺を帰してはくれないのか?」

「それは()()()()()()


「なぜ?」

()()が望む結果じゃないから」


「彼女ってんのは……………いや、帰られるんだな?」

「一応ね。神だから」


「よし、じゃあその彼女について教えて欲しい」

「できない。そういう約束だからね」


「ヒントくれないか?」

「本当にできない。神タロニッツの名に誓って」


「…その約束のため、俺はここに呼ばれたということか?」

「うん。そうだね」


「つまり…その彼女とやらを説得できれば、帰ってもいいわけだ」

「そうなるね」


 ……とりあえず、現在俺が巻き込まれている状況について整理すると、俺は俺が知らないところでなされた約束によって呼び出され、タロニッツと約束を交わした女次第では帰っていいと。

「傍迷惑な話ではあるな」

 どこの女だというのか。友達?母親?ゲームのフレンド?それともベアリア達NPC?

 考えても埒が明かない。次だ次。次はこの世界について。


「この世界は【龍の剣】の世界とは違う世界で間違いないか?」

「そういう認識で正しい。ここはオルタードラゴニアじゃない。名付けるのなら……タロスとでも」


「しかし限りなくあのゲームに似ていると?」

「僕も地味に君達が言う『運営』なる存在に関わりを持っているからね」


「雲に乗る前、仕様の話をしたな。他にもあるのか?」

「それは世界に繰り出して感じて欲しい。世界の理、その全てを知ろうというのは傲慢だよ」


「じゃあ1つだけ。レベルの概念はどうなっている?」

「どう、とは?」

「経験値を積むとレベルが上がり、レベルが上がれば勝手に強くなり、武技や魔法も勝手に習得されるのか?」

「そんなことはない。筋トレをして、素振りをして、戦闘を経験して、その全てに相応の力が与えられる。君がいた世界の理と同じと考えて欲しい。武技や魔法といったものは…自分で見つけるのも面白いと思うよ」

「何?」

「例えば『剛撃』。君が木を切り倒した技さ。しかしこの世界では『なんかすげー勢いで斬るやつ』と認識されているに過ぎない。要はオリジナルの武技を生み出し放題の世界なのさ。是非とも創造してくれたまえ」


「つまり俺の、クマノヴィッツの43レベルというのは…」

「君のステータスは僕がこの世界で『レベル43の戦士』として通用する程度に調整してある。安心してくれ。僕の調整は完璧さ。英雄を名乗れるほど強くはないけど、そこらの兵士よりは強いはずだよ」

「チート的なのくれよ。こっちは巻き込まれたんだぞ?」

「僕もそうしたいのは山々だけど、それだとすぐに飽きるよ。努力を怠ったが最後、人というやつは堕ちていくだけだからね」


 努力しろ、と。ああ、面倒な。それに所々答えてくれないとは、なかなかどうしたものか。

 タロニッツは上機嫌に鼻を鳴らしていたが、俺は最後の攻勢に出る。


「最後に、タロニッツ…運営と関わりを持っていると聞いたが、一体何者なんだ?」

「彼女に聞けば、僕の全てを語ってくれるさ」


 また彼女。面倒な。


「以上かな?」

 タロニッツがここでようやく振り向いてきた。

 正直、今聞きたいことは全てだと思う。しかし聞けるうちに聞いておかなければ…ああ、そうだ。

「いや悪い。もう1つ。タロニッツにはどうやったらまた会える?」

 接触方法さえわかってしまえば、いつでも聞けるではないか。

「リットラン大聖堂の女神像、そこが僕と唯一交信できる場所だよ」

 タロニッツもそれは笑いながら答えてくれるが、急に表情に影を落とす。

「昔は本物の預言者が僕の声を聞いてくれたんだけど、今ではエセ預言者しかいないから絶賛困ってる最中だよ」

 あーあー、聞いてない聞いてない。俺は別に宗教批判をするつもりはないぞ。だからそのエセ預言者に会っても「あー、こいつ平然と嘘ついてんだなぁ」とか思わないようにしなければ。

「でも、君には女神像で僕と話せるようにはしておくよ」

「ありがたい」

 リットランの名はシンシアから聞いた。行き方も知っている。よしよしよし。


 俺が満足して頷くと、タロニッツは立ち上がって俺に手を差し伸ばす。

「さて、あまりに短い会話となってしまったみたいなんだけど、そろそろ戻るかい?本当はもう少しお話ししたいのに、オークも全滅してしまっただろう」

 俺はその手を取って立ち上がる。

「また会えるのなら、今はこれで満足することにする」

 そこでタロニッツが1回手を叩くと、どこからともなく流れてきた風が俺の身体を持ち上げる。多分、どうにかなってクマノヴィッツの意識の中に戻るのだろう。


 そうだ。どうせなら、少し気になったどうでもいいことを聞いてみるか。


「ってか…タロニッツ」

「ん?」

「お前さん…女神像ってことは…どっちなんだ?」

 爽やかな青年だと思っていたのに、信仰される姿は女神像。どっちだ?

「ああ、なるほど」

 タロニッツは最後に俺の耳元までつま先立ちをして口を近づけると、衝撃的な事実を打ち明けてくれる。

「なっ…マジかおい」

「ふふん、マジマジ」


 この事実は女神像を見るまで、胸の奥にしまっておこう。


「俺、タロニッツを信用できなくなりそうだ」

「えぇー?もっと私を信用してくださいよー」


 身体がどんどん雲から離れていき、タロニッツは俺に満面の笑みで手を振ってくる。

「はっ、可愛いな…勘弁してくれよ」

 意識が遠のく中、俺はしっかりとタロニッツの顔を記憶に残すのだった。

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[気になる点] 「彼女ってんのは……………いや、帰られるんだな?」
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