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第13話

「おーおー、いるねいるね」

 100m以上離れた場所にオークの群れを確認する。やはり小休憩を取っているらしい。

「皆は!?」

「落ち着けシンシア。食料として運んでいる以上、簡単に食べたりはしないはずだ。食料を生み出す能力が欠けているオークが食料の重要性を理解していないなんてことはない」

 俺は今すぐにでも助けに向かわんとするシンシアを抑えながら、群れに接近を試みたベアリアが戻ってくるのを待つ。戦士の俺より狩人のベアリアの方が素早さも高いし…正しい偵察の仕方を知らない俺より適任だと思ったわけだ。


「戻りました」


 待つこと数分、俺達が隠れる大きな木の陰にベアリアが戻ってくる。

「報告してくれ」

「はい。オークが28匹、オーク将軍が4匹、計32匹の群れです。農作物等が入っていると思われる腰ほどの高さある立方体の木箱が3つ」

 どうやらベアリアは焦らしプレイがお好きなようだ。シンシアが最も知りたい情報を最後に回すとは…

「捕らえられている人間の数は13人。その中で子供は4人かと思われます。全員同じ木の檻に入れられています」


 後はオークの巣を見つければいいだけだが、おそらく…少しずつ近づいている小高い岩山にあるのだろう。


「さて、バレないようについていくか」

 偵察が俺達の仕事。そりゃ10匹未満だったら制圧も可能だったのだろうけど、32匹は…無理でしょうよ。


「あの…!」

 ほら、やっぱりシンシアはここで言うと思った。

「やだ無理。絶対に」


 シンシアが言おうとした続きは「ここで助けることはできませんか?」的なものだろう。悪いが俺はお人好しじゃないんだ。


「ベアリア、連中の警備体制は?」

「オーク将軍はオーク将軍だけで集まって何か話しをしているようでしたが、他のオーク達は木箱や檻を中心に、囲むようにして休息を取っています」

「よろしい。ではベアリア、君ならあそこからどうやって人間を救出する?この戦力で」

「それは……」

「っというわけだ。シンシア、理解していただけたかね」


 俺、かなり性格の悪いやつだな。抑えきれない感情を理屈でねじ伏せようとしているんだから。まぁ…何個か策は立てているんだが、それをシンシアの前で披露すると、いらない希望を持たせることになるので、正直発言したくない。


「うっ…」


 シンシアは100m先にいる村の仲間達のことを気にしつつも、悔しそうに押し黙った。


 そんな顔されたら、無理だとわかっていても…


「ベアリア」

「はい」


 俺はシンシアに聞こえないようにベアリアの耳に口を近づける。


「オークは一撃で倒せるか?」


 それを聞いたベアリアは意外そうな顔をして俺を見てきた。そして…すぐに真剣な表情を浮かべた。

「急所を外さなければ。しかし頭以外に骨弓で狙える急所はありません。オークの心臓などは分厚い脂肪と筋肉に包まれていますので」

「百発百中?」

「動かない的なら自信はありますが、不意を突かないと…無理です」

「不意打ちで何匹狩れる?」

「武技使用で3匹が限界です。自分の力不足に悔いるばかりです」


 そりゃ俺だって、こんなことに巻き込まれるとわかっていたら、戦士から転職したり、レベル上げたりしたわな。それを言ったところで仕方あるまい。


「じゃあ足を狙う場合は?」

「それは先のオーク将軍討伐時と同じく動けなくするということですか?…それも動かれると厳しいです」


 木の檻は俺が木を切り倒した剛撃を使えば壊せる。問題となるのはどうやって檻まで辿り着き、退路を確保するか。


「骨弓で自由に狙える距離は?」

「30mが私の腕では限界かと」

「木登りは得意か?」

「はい。足場があるなら狙撃もできます」


 もしこれがゲームなら、思いついた策を実行に移せる。失敗が怖くないからだ。ただ、今回の失敗は…自分の命の危機を意味する。そんな危険を犯してまで人助けしようとは思えない。


 シンシアはもちろんだが、ベアリアも助けたいと思っているみたいだし、相談はできない。したくもない。絶対にやりましょうと言うのがわかってるだけに。


「ああでも…勝算なしだな」

 なぜかって、俺が意気地なしだからだよ。


「あの…お2人で何を話しているのですか?」

「いや、ちょいと相談ごとをな」

 シンシアには悟られないように苦笑しつつ、ベアリアから離れて、オーク達の様子を伺う。


 しかし、こう言う時に限って俺の嫌な予感は的中する。


「クマノヴィッツ様、提案があります」


 シンシアにも聞こえる声でベアリアが俺に声を投げてきた。

 もしかしたら、というか…正義感強いシンシアとは人として合わないなと思った段階で気づくべきだったのかもしれない。

 提案してきている以上は無視することができない。


「ベアリア、お前な…」

「私なりに改めて助ける方法を考えました」


 俺は恐る恐るシンシアの方を見ると…危惧していた状況が始まった。

「ベアリアさん、私にできることがあれば、何でも言ってください」

 希望を持った。ベアリアめ、俺が何のために小声で聞いたのかを察せられなかったのか。


「これにはクマノヴィッツ様の協力が必要不可欠です。力を貸して頂けませんか?」


 …やはり主人公は【はい】としか言えないように作られているのか?目の前の出来事には必ず首を突っ込まなければいけないのか?


「き、聞くだけ聞こう」


 その言葉ではもう意味がない。


 そもそも無関心を装えば良かった。ベアリアに囁いた時点で間違っていたわけだ。なぜベアリアに聞いてしまったのか…いや、それについては心当たりがあるな。

 シンシアだ。彼女が俺をそうさせたのだ。俺は保身に走ったが、それでも良心を捨てたわけじゃない。可哀想だ、助けられるのなら、そこを突かれた。


「では提案します」


 果たして俺はここから良心を完全に殺し、偵察だけをして帰れるだろうか。

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