第12話
オークの群れが作った獣道のような道をベアリアが見つけ、俺は村長から借りたリュックサックを背負い、追跡を始めた。道は村から真っ直ぐ南に伸びており、行く先には小高い岩山が確認された。
「クマノヴィッツさん達は東から来たのですか?」
数歩先をベアリアが先行してオークを探す中、俺とシンシアは周りを見ながらついていくだけだったので、俺は情報の聞き出しを始める。ベアリアはなぜか不服そうだったが…今、俺達に必要なのは情報だ。
「おそらく。迷子になっていたんだ」
「東は本当に樹海ですからね」
「ラスマの街はどのようなところなんだ?」
「西ウィンデストで1番の都市ですよ」
次の目的地は確定だな。しかし西ウィンデストというのは地方名だろうか。旅人として、当たり前のことを聞いて不審がられても困る。
「俺達は中央に行きたいんだが…」
首都?王都?帝都?中央都市?…わからない以上は「中央」と聞くしかない。
すると、シンシアは俺の右隣でしばらく考えて、何かを思い出したかのような笑顔で俺を見上げた。
「ラスマの街からリットランに向かう乗合馬車があったと思います。でも何しに?」
リットラン、ね。マジで知らない世界にいるな。そんな都市の名前、絶対に聞いたことがない。
「友人がリットランに1度は行っておくべきだと」
「あー、なるほど」
「ただ、友人がオススメするものには苦い思い出があってな。リットランには何がある?」
「そりゃもちろん、王様が住まわれているパルサス・ルー・カルトフィア・ステプトロシアス宮殿は遠くから見ても美しい建物ですよ。個人的には隣にある神徒教のリットラン大聖堂もオススメです」
「パルサス・ルー・カ…カル?」
「パルサス・ルー・カルトフィア・ステプトロシアス宮殿。ご存知ないですか?」
ご存知ないです。神徒教も聞いたことがないが、国王がいるのか。何となくこの世界の雰囲気が掴めてきたぞ。
「えーっと…地図にも載らないほどの超ド田舎から安住の地を求めて旅しててな。どうにも疎いんだ」
「超ド田舎…」
ベアリアが何度も俺達をチラチラと確認してくるので、俺は自信を持って親指を立てた。
大丈夫だ。変なことは言っちゃいない。心配することなどないのだ。
しかし、隣でそのやり取りを見たシンシアは首を傾げる。
「あの…ベアリアさんとはどういう関係なんですか?」
「ん?」
「いえ、ベアリアさんがクマノヴィッツさんを様付けで呼んでいたので…その気になって」
…超ド田舎出身の旅人が超絶美人なお供を連れていたら、そりゃ俺でも気になるわな。なんて答えようか。
「ベアリアは…」
言葉を選んでいると、背中越しにベアリアが俺をガン見してくる。俺の発言がほとんど嘘であることを知っているはずなのだが、下手なことは言えないな。
いや、俺はあえて言ってやろう。そういう冗談は大好きだ。
「恋人さ。ちょっとした上下関係はあるけど」
うはっ!恥ずかしいな、おい!さぁベアリア、従者なら慌てふためいて訂正してくれたまえよ。
「え?そうなんですか?」
シンシアは少し驚いた顔をしてベアリアを見る。
シンシアの反応は予想通り驚いているな。後はベアリアが「ち、違います!そんな、クマノヴィッツ様と私は…!」みたいな感じで恥ずかしがってくれたら完璧だ。最終的に「冗談だ。ただ、ちょいと秘密の関係でね」とシンシアに大人ぶれれば…
「はい。私の方から告白させて頂きました」
………え?何乗っかってんの?
「すごいですね。恋人同士で旅をするなんて、憧れちゃいます」
「ふふふ。そうですか?」
「そうですよ」
大丈夫。俺は空気は読める男だ。
「いやいやまったく…恥ずかしいな…」
それでも俺は思わず視線を泳がせざるを得なかったが、不意にベアリアと目が合ってしまう。
「「あっ…」」
ヤバい。変に意識するな俺。
「ベアリア、前見て」
「は、はいっ」
必要のないところで緊張したものの、どうにかベアリアに前を向かせることに成功する。しかし、後ろから見えるベアリアの耳は真っ赤になっていて、それにはシンシアも気がついた。
「ラブラブなんですね」
シンシアは俺をからかうように見上げてくる。
「も、もちろん」
俺が思ってたのと全然違う!
話題を変えよう。恥ずかしい。
などと思っていると、それは幸か不幸か…俺とベアリアはほぼ同時にそれに気がついた。
「本日2回目の煙だな」
「え?」
シンシアだけが俺を見ていたため、それには気づいていなかったが、俺がそれ…遠くの空に上る細く白い煙を指さすと、シンシアの顔から笑みが消え去る。
「オークも火は使える。となると、休息してんのか?」
捕まえた人間などの戦利品を運ぶにはそれなりの労力が必要となるだろう。そしてオークは鈍重。カリカリオ村襲撃から多少の時間が経っていたようだが、どうにか追いつけそうだ。
「ベアリア、シンシア、ここからは慎重にいく。シンシアは危険を感じた場合、全力で村まで走るように」
「はい」
シンシアは俺の言葉に強く頷くも、身体は震えていた。これから自分の村を壊滅させた集団のところに行くんだ。怖いと思うのが当然なのだろう。
「ふぅ…行くか」
そういえば…クマノヴィッツになってから、恐怖心が鈍くなっている気がする。これはクマノヴィッツに転生した影響か?




