第11話
簡単に状況を整理すると、カリカリオ村は朝霧に包まれている中で奇襲を受けた。村の男衆が善戦するも、何の訓練も受けていない素人集団ではオークに太刀打ちできずに全滅。村を蹂躙される中で女子供の半数は村の外に脱出。逃げ遅れた人は自宅にて籠城戦を開始するも燃やされたらしい。村長宅には16人が避難していたため、彼女達の匂いを嗅ぎ当てたオーク達に狙われていたらしい。
なお、ヤックム少年の姉ミッヒラは彼を村長宅に避難させる中、自らを囮にオークから時間稼ぎをしたという。
で、俺はそのミッヒラ含め、さらわれた女子供を助けてと言われそうな雰囲気の中いるわけだが…問題がいくつかある。
「オークの規模は?」
「わかりません」
「オークの拠点は?」
「わかりません」
「どの方角に去って行った?」
「わかりません」
1つ、情報が足りない。追跡不能。
「ベアリア、残りMPは?」
「半分を下回っているほどかと」
「そうか。俺はすっからかんだ。武器投げすら今は使えない自信がある」
2つ、物資が足りない。継戦不能。
「ベアリア、俺は何と言ったか覚えているな」
「英雄志望ではないと」
3つ、意欲が足りない。行動不能。
村長宅以外全てが燃え、まともな報酬も期待できない以上、善意と勇気だけで救い出さなければならない。正直言って…
「村長、僕達はただの旅人です。助けたいのは山々なのですが、専門的な知識もない僕達ではさすがに荷が重すぎる。それはどうか分かって頂きたい」
無茶だ。人命救助など、ついこの間まで高校生だった俺には無理がある。ゲームとは違って失敗も許されないのだ。
「…そうですか。いえ、分かっておりましたとも」
村長はやはり理解してくれた。しかし、だ。
「なんで!?おじさん達はオークを倒せるんだよね!どうして行ってくれないんだよ!」
俺には兄がいる。ロクに勉強もせず、大した才能もなく、ただただイキっている兄がいる。正直、何かあっても助けようとは思わないかもしれない。しかし多分…それでも助けようと動くのだろう。ごく一般的な兄弟とは、家族とは…そういう存在だと思う。
そう思うと、ヤックムが叫び、俺に殴りかかってくるのも仕方がないことだった。
「姉ちゃんを助けてよ!早くしないと…!早くしないと…姉ちゃんが!」
こういう時、俺は少年に言葉をあげられるほど人生経験を積んでいない。
「何とか言えよ!」
「ヤックム!旅人さんを困らせないで。お願いだから…」
女性の1人がヤックムを俺から引き剥がし、彼を力強く抱きしめる。
「クマノヴィッツ様…よろしいのですか?」
「じゃあベアリア、君ならできると?」
「……いえ。ですが…」
後ろに控えていたベアリアはかなり苦しそうな顔をしていたが、俺にどうしろというのだ。
「だから主人公は嫌いなんだ」
「はい?」
「何でもない」
仕方ない。仕方ない。仕方ない。ああ、どうして俺が…
「村長、他の村には救援を要請しましたか?」
「え…ええ、若い衆から1人、足に自信のある者をラスマの街まで走らせていますが…」
「何日ほどで来ると思われますか?」
「明後日には救援が来るはずですが…」
「食料を少しばかり分けて頂きたい」
「はい?それは構いませんが…」
俺は村長に背を向け、俯いていたベアリアの額を右手の人差し指で突く。
「キャッ!?クマノヴィッツ様!」
あーやりたくない。死にたくない。ばっかみたい。くそったれ。
「ベアリア、一仕事、付き合ってくれるよな」
俺の言葉に場が固まる。
「クマノヴィッツ様…」
「旅人殿…」
「旅人さん…」
「おじさん…」
ベアリアと目が合うと、無駄にいい顔になりやがる。そこで俺はもう1回彼女の額を突いた。
「むかつく」
「はい…!」
俺は改めて村長の方に向くと、あえてめちゃくちゃ大きな溜息を漏らす。
「村長、やれることはやらさせていただきます。それで構いませんか?まだ連中もそう遠くには行ってないでしょうから」
どうせこうなる。だったら自分で納得して進むしかない。
「よろしいのですか?」
「期待はしないでもらいたい。俺達はあくまでも偵察しに行くだけ。情報を救援隊に回せば、必ずや助けになりましょう」
「おお…ありがとうございます」
「そういうのは全てが終わった後にでも」
さて、やらなければならないことは効率的に、だな。
「ベアリア、村の周辺にオークの痕跡がないか探してくれ。村1つ襲えたんだ。規模としてはそれなりに大きいはずだ」
「わかりました」
「村長は…水筒ってありますか?」
「スイトウ…とは?」
「あー、水を携帯したいのですが」
「水袋なら2つほど」
「じゃあそれを満タンにしておいてください」
「承知いたしました」
俺は装備調達だな。あとは…
「道案内を1人…」
偵察に行ったけど迷子になった、なんて恥を晒したくはない。そう思ったのだが、危険が伴う以上、誰も行きたくは…
「私がっ!」
…想像より圧倒的に早く、即座に手を挙げて応じてくれたのは、裏口を開けてくれた若い女性だった。何となく雰囲気が正義感強そうな感じの女性だ。
多分、俺とは分かり合えないタイプだろう。
「…名前は?」
「シンシアです」
「オーケーシンシア。よろしく頼む」
「はい!」
張り切るのは結構だが…まぁいいか。
「そいじゃ、各自行動開始。動いた動いた」
数や場所だけ確認して戻ろう。それでラスマの街とかいうところに行こう。こんな危険な場所にずっといられるか。
「お姉ちゃん…助けてくれるの?」
「期待はするな」
「…」
「えーっと…まぁ最善を尽くそう」
俺の嫌な予感が的中すれば…最悪も予想されるしな。できることはやるとしよう。




