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第10話

「オーク将軍、討伐。これでレベルアップしたかね…」

 俺は動かなくなったオーク将軍に近づき、トドメに首を斬り落とす。油断なんて絶対にしてやるものか。

 そこにベアリアもやってくると、俺達はオーク将軍の死体を転がして、オーク達が突破しようとしていた家の裏口の前に立つ。

「もし。オークは討伐した。中に人がいるのなら、開けてはくれないだろうか」

 そう言いながら俺は軽く裏口を叩く。しばらくして、中から泣き声や何かを崩す音などが聞こえてくる。


「籠城戦か。しかしなぜこの家だけ焼き討ちに合わなかった?」

「おそらくですが…いえ、見たらわかるのではないかと」

「そうか。ベアリアは博識なんだな」

「従者ですから」

「そういうものか?」

「そういうものです」


 家の中に築かれたバリケードを崩すのにはそこそこ時間がかかりそうだったので、ベアリアを残し、俺は近くに落ちていた武器を拾い集める。

 旅人の剣はさすがにもう使い物にならないほどボロボロになっていた。一方でオークのハンドアックスはオークの頭をかち割っても刃こぼれ1つなく、斬れ味は旅人の剣に劣るだろうが、丈夫な武器であることがわかった。


「悪くないな。さすがは握り斧」

「クマノヴィッツ様、そろそろ開く頃かと」

「了解」


 旅人の剣は雰囲気を出すためにまだ腰に携えた方がいい。しかしオークのハンドアックスは…

「手に持つと、相当に怖がられそうだ」

 ということで、裏口横に1カ所にまとめて置く。遠距離攻撃しかしていないので、服に血は付いていない。まずは安心させなければ。


 ゆっくりと裏口が開く。

「ベアリア、一応…中も警戒」

 実は立て籠もっていたのが賊でしたとか、外部の人間を受け入れない少数民族でしたとか、何にせよ助けた人が必ず味方というわけではない。

「はい」

 俺達は不意打ちに警戒して数歩距離を取る。ベアリアも骨弓を手放さない。


 すると、わずかな隙間から頭が出てきた。

「本当に…終わったんですか…?」

 生きている人間だ。しかも結構かわいっ…

「クマノヴィッツ様」

 おっといかん。勝手に警戒心が薄くなってしもうた。


「周囲にオークは見当たらない。ひとまずは安心してください」


 俺は可能な限り優しい笑顔をしてみるが…そういやクマノヴィッツの顔ってどんな顔だったかな。ベアリアは真剣に作ったけど、クマノヴィッツは適当なんだよなぁ…


 俺がさりげなく守護天使の盾を前で構えるも、その頭を出した若い女性は力が抜けたように、裏口を押し上げながら腰を落とした。いわゆる中世ヨーロッパの町娘みたいな格好をした女性だったものの、その床についた手には包丁が握られていた。

「大丈夫…ではないか」

「クマノヴィッツ様」

「うん、警戒する必要はなさそうだ」

 床に座り込んだ彼女の奥、家の中には同様の服装をした女性が5人。男性は杖をついた老人が1人。子供が10人。合計17人が俺達を見ていた。


 しかし、家の中の匂いに俺は一瞬顔をしかめてしまう。というのも、誰かがその…漏らしているのだ。色々と諸々と。

「ベアリア、これは…あー、うん。何でもない」

 こういう匂いにオークが反応したわけだ。それもオークが好きそうな女子供が多いし。


「俺…あー、僕達は旅の者でして…森から火が上がっているのを見まして…その…まだ村にオークがいたので退治した…次第でー…あります」


 とりあえず自分達は無害ですよアピールをしてみると、唯一の老人がゆっくりと1歩前に踏み出した。嫌味気がない上品なその老人は、曲がった腰をさらに曲げて頭を下げる。

「私はカリカリオ村で村長をしておる者です。この度は本当にありがとうございます」

「あ、いえいえいえ…お気になさらず!な、ベアリア」

 感謝慣れしてないな俺。隣に立つベアリアも俺を不思議そうに見てるし…

 などと思って必死に張り付いた笑みを保とうとしていると、少年が1人、泣きながら俺に抱きついてくる。


「これヤックム!」


 村長がすぐに諌めんと声を上げたが、少年ヤックムは俺から離れようとしない。

 これは抱きついているのではなく、しがみつき、すがっているのではあるまいか。

「ヤックム君。大丈夫かね?」


 何となく感謝される雰囲気じゃない。

 これはまた…嫌な予感がする。


「…ぇちゃんを助けて…」


 ほら、何か言ってるぞ。少なくとも俺にとっては都合が悪いことだ。

「どうしたどうした」

 やめとけ。頼む相手を間違えるな。


「お姉ちゃんを助けてぇ!」

「むっ……マジか…」


 思わず「無理だ」と言いそうになった。相手は村1つを潰せるほどのオークの群れなんだぞ。物資も不足している状態で群れにさらわれた人間の救出など、できるはずがないだろう。俺達はギリギリオーク将軍に勝てただけで…


「あー…うん…そうだよなぁ」


 ヤックムが俺を見上げてくる。その目は本気で助けを求める目であり、俺にとって初めて見る目だった。そんな切羽詰まった状況に身を置いたことがないのだから当然だ。


「ベアリア、どうする?」


 多分、俺も聞く相手を間違えている。


「指示に従います」


 これは「行かないとは言いませんよね?」という意味が込められている。ゲームの主人公は間違いなく助けに向かうに違いない。ベアリアも主人公クマノヴィッツの従者なのだから、普通にそう判断することだろう。


「村長…簡単に話を伺っても?」


 あーーーーーーーーーー、無理だぞ絶対に。

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