第四回・不審船団を撃破しうるか? その三
モットナリの航空艇群は三回の波状攻撃を仕掛けてきた。
自身のステータスを確認すると、サミダレの黒蓮時雨のヒットポイントはまだ八割も残っている。
一方のモットナリ所属航空艇群の損害は目視で確認するところ一割といったところだ。
「しぶといですわね……」
独りごちたサミダレだった。
けれども、口調などから己の焦りを感じ取り、深呼吸する。
そもそも、これはゲームである。
真剣を超えたのめり込みでプレイすると現実世界に影響が出る。
ゆえに、落ち着かなくてはならない。
「捨て奸役と言っておきながら、勝ちを取ろうとは少々焦りすぎましたわね。ともかく、あと六割の損害を与えるまでは粘りましょうか」
『なかなか燃えない(#^ω^) 腹立つ~ヽ(`Д´)ノプンプン』
送ってきたパンチカードを見ると、モットナリも苛立っているらしい。
装甲部分に脆さを抱えつつも、サミダレは幸運ステータスを適切に成長させていたので、損害が少なく済んでいるようだ。
ならば、これからは互いに苛立ちをどれだけ抑えられるかが鍵となるだろう。
「冷静に鴨撃ちしてやりましょうね。徹甲散弾の残りは?」
「まだまだありますよ。うまく行けば三本ノ矢も撃沈できるかもしれませんぜ」
黒蓮時雨の副官NPCの一人が言った。
クレイジー・スチームワークス・クロニクルでは、副官NPCを五人まで雇える。
その恩恵は様々で、ここでは説明しきれない。
ゆえに省こう。
「それなら安心ですわ。とはいえ、油断大敵ですわね。敵艦本体ではなく航空艇を三割まで沈没させます!」
サミダレが言った。
副官NPCたちは応答し、仕事に励む。
『はよ燃えろや!!(#,゜Д゜)』
モットナリのパンチカードである。
同じ内容が今までに五枚来ている。
かなり業を煮やしているのであろう。
これは精神戦上、有利になってきたかもしれない。
サミダレは確信した。
と、
「っ!」
艦橋近くで爆発が起きた。
蒸気鉱石焙烙弾がうまく作動したらしく、熱量と光の暴力を感じた。
一人の副官NPCが消火指示に走る。
敵方も確認したようで、一気に畳み掛けてきた。
航空艇二十艇、全てが再度発進して来る!
「危機にして好機! 全艇撃ち落とさずとも、できるだけ落としてやりましょうか!」
「了解! 全砲門、徹甲散弾を撃ちまくれ! 弾が尽きるまでぶっ放すんだぞ! 空にした隊には褒美をくれてやるからな!」
「……勝手に決めないでくださる?」
この副官NPCはノリが良すぎると思いつつ、サミダレは更に前進して三本ノ矢に張り付くように命じた。
航空艇を撃沈しやすくするためである。
散弾の轟音、焙烙弾の破裂音。
凄まじい音と光と熱の乱舞。
戦闘開始から十五分、ゲーム内における通常の戦闘から考えても長時間の部類に入る規模。
黒蓮時雨と三本ノ矢はまだ浮かんでいる。
前者は満身創痍でふらふらと、といった様相ではあるが。
各所で火炎が踊り、主砲も二つ潰されている。
一方の三本ノ矢はまだ戦える余地がある。
しかし、それも航空艇を満足に出せればの話である。
いまやモットナリの出撃可能な航空艇は六艇しかない。
『ぐぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ(#^ω^)』
何度も送ってこられたモットナリのパンチカードは、笑えるくらい蒼惶とした様子が見て取れる。
ふう、とため息をついてサミダレは、
「上首尾ですわね。ところで、兵団への損害は?」
「三割ってとこですかね。移乗戦闘も不可能じゃないです」
という副官NPCの返答を聞き、命令を下す。
「では、乗り移りましょう。略奪される側から略奪する側へ、華麗な転身を遂げましょうか!」




