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侵入

 ドラゴンが倒れ伏してからも、しばらくの間チマの指示で俺たちは結界を貼り続けた。

 初めのうちは胴と尻尾を時折痙攣させていたが、次第にそれも無くなる。

 この巨体の生命力がわからないため、たっぷり時間をかけて様子を見た後そろそろ大丈夫だろうということで離れる。念の為ユーマが動かなくなったドラゴンの喉を何度も斬りつけるが鱗に刃が立たず、結局とどめはイシルディンでどうにか気管を切り裂いた。やっぱり動いている中じゃ無理だったな……。



「か、勝った……」


 ドラゴンスレイヤー・チマが膝から崩れ落ち、そのまま土に顔を突っ込みうつ伏せに倒れる。大袈裟な……。


「……よくやった、お前たち」


 全員が安堵と疲れからか、その場に座り込む。

 さしもの傭兵長ですら片膝をついて大きく肩を上下させている。救援に来る前から魔物と戦っていたんだ、もう殆ど魔力は残っていないだろう。

 俺も、魔力はまだ残っているものの体力をかなり消耗していた。

 どの指かが折れたと思われるつま先がズキズキと痛みを増している。どうやら俺の場合、魔力が切れかけると勇者化が進行するせいか痛みをあまり感じなくなってくるらしい。足が痛いってことはまだ戦えるってことだな。


 森の封印の方もまだ終わってはいないが順調にいっているようだ。魔物はもう出てきてはいない。森の北、帝国領側は……わからん。今はどうしようもないな。


「あっ、シュゼー!」


 チマが突然跳ねるように起き上がると、さっきまで疲れてうつ伏せで寝転がっていた時とは別人のように、何かを期待する光を顔に湛えて俺を呼ぶ。


「さっきのドラゴンの角貰ってもいいかな!?」

「俺は構わんけど、そういうことは他の誰かに――」

「やったー! 研究材料ゲットー!」


 こいつ、まだ余裕ありそうだな……。

 俺は地面に手をかざし、地魔法で石の台座を作り出してから言った。


「チマ、ウィズに転移陣繋いでくれないか。あっちまで戻るより早い」

「わかった。少しだけ待って」


 その時、カズの「伝令だ! 通せ!」という声が響き、傭兵長の側に息を切らした女性が走り着く。


「報告します! ウィズに勇者侵入! 数は不明! 現在地下入り口と中央施設前を防衛しつつ迎撃中!」

「……わかった。戦力を割り振る! 手の空いている者は集合しろ!」



 ――やはり来た、勇者。そしてグラード。

 傭兵長が集まってきた者達の数をかぞえ割り振りを告げようとしたその時、ユーマが叫ぶ。


「ちょっと待って下さい。何か来る!」


 視線は街の方向。俺にはまだ何も……いや、小さく人影が見える。


「敵か」

「……多分そう。鎧を着てるよ」

「数は」

「見える範囲で二人……更に奥からもう一人。後ろにもっといるかもしれない」


 勇者、このタイミングでこちらに仕掛ける意味……狙いは森の結界。封印はまだ未完成だ。結界術士を殺されればまた魔物が溢れ出す。

 チマの転移陣は、もう少しかかりそうか……。


「傭兵長、俺とユーマで街へ向かいながら迎撃します」

「頼むと言いたいが、流石に二人では危険だ」

「オレも行くぜ」


 レコウ……三人か。剣を持った近接は他にも何人かいるが、俺たちが勇者を取り逃した時に結界術士を守る人員が必要だ。

 この三人が、最低で最高。


「よし、行くぞ。急ごう」

「へへ、随分と久し振りだなユーマ」

「うん、よろしく。レコウも昔とちっとも変わってないね」

「まぁな。……ちょっと待てどういう意味だ?」



 街へ向け地を蹴る。第二適正にレコウはスタイルアップを持っている。走る速さは俺とそう変わらない。

 傭兵長は近接から何人かとカズを結界術士の護衛に向かわせた。戦力はあまりない。俺たちがこいつらを逃すのはまずい。

 鎧を着た勇者が段々と大きく見えてきた。一番厄介なのはこちらを避けるようにして結界術士の元へ行かれることだが、そのまま真っ直ぐ向かってくる。どうやらやり合ってくれる気はあるようだ。狂戦士も考え物だな。


「ユーマ右を頼む! レコウは援護を!」


 並んで走る二匹の勇者の真ん中を狙うようにレコウが雷魔法を突っかける。


「その銀髪。貴様が王の仰っていた――」


 電撃を避けるように動いたうち左側の勇者へ右手で剣を――。

 剣撃は防がれた。同時に左手の中に隠し持っていた小石を砕き顔面に投げつける。


「ペネトレイトスパイン」

 

 飛礫が高速回転する無数の棘と化す。

 勇者はそれを屈んで避ける――が、読んでんだよ!

 俺は丁度頭が落ちる位置に既に蹴りを放っていた。


 渾身の蹴りを顔面に受けよろけた先にはレコウ。


「雷光纏神――心壊撃ぃ!」


 背中にレコウの拳を受け勇者は動きが止まる。

 その瞬間を見逃さず、俺はそいつの首を落とした。



「さすが、息ぴったりだね」


 ほぼ同時にそちらも終わったらしく、ユーマが爽やかな笑顔の頬に付いた血を袖口で拭いながら言った。

 レコウはよく合わせてくれる。

 昔から特訓していたが、完成してたんだな。四肢に電撃を纏って接近戦をする戦法。

 雷魔法は味方や自分を巻き込みやすい。弱点を補う理に適った良い術だ。独自に術を編み出せる才能、羨ましいもんだな。


 もう一匹の勇者とすぐ接敵するが、三人の一斉攻撃で難なく処理した。

 それにしてもこいつらは……。


「ユーマ、勇者ってのは疲れるのか?」


 まだしばらく距離のあるウィズへ向かい走り続けながら問う。


「一日中動き回っても寝なくていい程度には疲れないよ。でもこいつらは……」

「疲れている。よな」


 僅かだが反応が遅い、動きが鈍い。

 帝国からここまで森を真っ直ぐ南下してきた。何日かかったのか知らないが、その間眠ることもせず魔物を相手にしながら走り通しだったのだろう。流石に勇者でも疲れているのか。

 俺たちが魔物に対処している間息を潜めていたのも、少しでも体力を回復するため……。


「いいペースだな! やっぱお前らつえーわ!」


 背後からレコウが多少息を切らしながら言う。

 ……そうだろうか。正直俺は表面上落ち着いているように見せながらも、内心はかなり焦っている。

 クレナ達は先にウィズへ転移して勇者共と戦っているはずだ。奴ら弱っているとは言っても、遠距離型の術士が勇者に接近されたら対処法は無いに等しい。

 それに、グラード。この用兵が奴によるものだとすると、俺たちを殲滅するためのものとしては不自然だ。やはりこれすらも陽動、時間稼ぎ。

 本命は、世界樹。


 ……どうする。奴が何をするつもりなのかはわからないが、多分今の正解は勇者を無視してグラードを討つことだ。

 だけどもし、その間にみんなが殺されたとしたら……俺は一生後悔して生きるだろう。

 ……クソっ。駄目だ。グラードの思惑通りで癪だが、まずはウィズだ!

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