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休息の合間に3

「いったー。あーあ負けちゃった」


 尻もちをついたクレナが体についた汚れを払い落としながら立ち上がる。

 リフェルとの謎対決を制したあと、『せっかく持ってきたんだから』ということでクレナと剣術の訓練が始まり、なんとか勝利を収めた。

 もちろんスタイルアップは使用禁止。


「……まぁ、これでも、実戦で剣、使ってるからな」

「強くなったね。シュゼも、リフェルちゃんも」


 クレナは満足そうな笑みを浮かべる。

 こいつは昔から強さに異常にこだわるのには変わりないが、ここ最近意外なことに自分の勝ち負けにはそこまで執着が無くなっているようだった。むしろ俺たちがクレナに勝つと悔しがるどころか嬉しそうな顔をするくらいに。前からこんな性格だっただろうか……?

 爽やかで気持ちがいいと思う反面、俺と同じくらい歪んでいるなとも感じる。



 それにしても……正直、辛勝だった。

 魔法は強くて頭も良くて運動神経抜群で、おまけに剣術まで強いとかどうなってんだよこいつは。

 俺が両手で振った剣を普通に受け止めてたよな……。この小さな体のどこにそんな力があるんだ。

 まだまだ俺は弱いな。本当に、まるであつらえたように対勇者専用でしか活躍の場がない。もっと強くなって、せめてその仕事くらいでは役立てるようにならないと。


「じゃあ、そろそろ戻りましょっか。リフェルちゃんのパンツも探さなきゃならないし」

「そういうキャラにしないで下さい~!」

「あーほらまた泣くからパンツでいじるのやめてやれよ」




 静かな夜だ。俺は要塞の外へ出て月を見ていた。今夜は満月で随分と明るい。このあたりは夜でも虫の声がほとんどしないんだな。

 歩いていると砂地が隆起して少し月明かりの影が出来ている場所がある。そこまで行き腰を降ろした。

 少し寒いがいい気持ちだ。


 なにも考え事をしに来たわけでも、影のある男を気取っているわけでもない。ユーマを待っているのだ。

 腰にはミスリルを携えて。

 あいつは遊びの約束でもするように『じゃあまた』なんて言っていたが、どうやって会えって言うんだ。


 一度はこの要塞まで来たし、こうして人気のない場所で待っていればまた来るかもしれないと出てきたが、正直期待薄だろう。そもそも牢屋に忍び込んで来たときにしたってどうやったのか今でも不思議だ。そういえば全身濡れていたな……海から?

 よく考えれば勇者一人とはいえこんな近場をうろつかれていたらそれこそ問題じゃないのか。奇襲を警戒して各方面監視している人員もいるはずだ。……来るわけないな。帰って寝るか。


「なーにしてるんですか」

「うおっ! びっくりした」


 足音に気付かなかったらしい。丘になっている場所の上、頭上にリフェルがいた。

 わざと脅かしやがったな。こっちはこれでも、もしかしたらあいつと戦闘になるかもしれないと少し緊張していたのに。

 帰ろうと立ち上がったところだったのだが、リフェルはわざわざ降りてきて俺の隣に腰掛けた。仕方なく俺も座り直す。


「昼間の仕返しに闇討ちか?」

「出て行くのが見えたので気になっただけです。昼間のは……もういいです。シュゼさんが、その、もらってくれたら……」


 俺は女物のパンツを欲しがるような変態ではないぞ。失礼な。


「ユーマを待ってたんだよ」

「昔のお友達、でしたっけ」


 俺は肯定し、いくつか奴との小さい頃の思い出を語ってやった。

 木で作ったおもちゃで遊んでいたら壊してしまい、泣いている俺を見つけたユーマは何を勘違いしたのか、取り囲んで慰めようとしてくれていた奴らにいきなり殴りかかって大喧嘩になった話とか。

 あいつが野菜食えなくて全部俺に押し付けてくるから、一時期俺まで野菜嫌いになりかけたこととか。



 話を聞くたびにリフェルは本当に楽しそうに笑った。

 確か、田舎の村出身で同年代の友人がいなかったと言っていたな。兄弟もおらず、こういう子供同士の笑い話は珍しいのかもしれない。

 そして気が付くと完全に肩が当たるくらい密着してきていた。寒いのかと思ったが、久しぶりで忘れていた。こいつは前からやたら無意味にくっついてくる癖があるんだった……。


「ふぅ、おかしい……お腹痛くなりそう」

「笑ってもらえたなら何より」

「シュゼさん、ちょっと明るくなりましたよね」

「明るく? 俺がか?」


 明るくなったのだろうか。全く自覚がない。

 今でも殺されたヴェイグさんやカルドラさん、他の仲間全てのことを思うと勇者共を八つ裂きにしてやりたくなる。

 戦闘になれば奴らを殺すためにどんな非情な手でも迷わず使うだろう。

 そんな俺が明るいのだろうか。


「クレナさんも言ってました。明るいというか……吹っ切れた? 感じですかね」

「……前は暗かったって言いたいのかね」

「そっ、そうは言ってないですよ!」


 顔の前で両手をブンブンと振る。ちょっと思ってただろこいつ。まぁ自覚もあったけど。

 吹っ切れたか……。多分それは、心につかえていた一番の重りが……。


「冷えてきたな。そろそろ戻ろっか」

「はい。……あの、またお話聞かせて下さいね」

「そうだな。次は……いや、また今度続きを話すよ」


 次はユーマと一緒に、と言いかけてやめた。

 あいつは、まだ敵か味方かわかっていないんだ。しっかりしろよ俺。

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