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悪魔の樹4

 静かな病室に話は一段落といった空気が流れる。

 やたら面倒な話を整理共有しただけだが、そろそろ頭の容量がいっぱいだ。疲れた。

 だけど俺は、俺たちはもう一人話を聞かなければいけない相手がいる。


「みんな、ちょっと世界樹までついてきてくれないか。会わせたい人がいる」


 意味がよくわからないといった風に皆きょとんとしていたが、リサのことを言葉で説明するのは難しい。まだ日が高いがあいつは夜じゃなくても現れて話をするくらいなら出来るはずだ。力は出ないと言っていたが、ここでの会話もどうせ聞いていたのだろう。世界樹まで行って呼べば出てくるはず。いや、無理矢理にでも呼ぶ。

 歩くのが辛そうなレコウもいるが、こいつにも直接話を聞いて欲しい。おぶってやろうと手を差し伸べた時――。


「待て。駄目だ。許可出来ん」


 傭兵長が毅然とした口調で俺を制止した。


「……何故ですか」

「はっきり言おう。わたしは今のお前を信用できない」


 俺が、信用できない。

 そうか、先日グラードに操られた件で……。


「そんなっ! 酷いです傭兵長さん!」


 リフェルはこの人に対する畏怖が薄いなー。俺たちはガキの頃から遠目でこの眼光を見ているから、何をされたわけでもなく本能に恐怖が染み付いているんだが。


「待てリフェル、いいんだ」

「勘違いするなよ。シュゼのことは当然信用している。“操られたお前”が信用できないと言っているんだ」


 「世界樹に何かあれば大変なことになるのは今聞いての通りだ」と傭兵長は続けた。

 ふぅ、参ったな。正論だ。正直言って、俺自身が自分のことを信用出来るかどうかも怪しい。あの時完全に行動も思考も操られかけていた。今こうしているのが不思議なくらいだ。

 奴らの狙いが世界樹だとすれば、俺が世界樹に近付いた途端また精神を乗っ取られるような仕組みがないとも言えない。そもそもあの洗脳術が距離的にどこまで届くのかも不明……と。

 もしまた仲間を傷つけそうになったら自害する覚悟くらいはあるが……。


「……ですが傭兵長、俺が行かなければリサは姿を見せないかと」

「うむ。いつかはお前を頼らねばならんかもしれん。それまではわたしが呼びかけてみるが」

「なんなら世界樹に居る間、手足を縛ってもらっても構いません」

「意識さえあれば魔法は使える」


 グラードがあの状況で、あそこまで時間をかけ危険を冒してもたかが一匹の勇者である俺を帝国に欲したのは、利用価値があるからだ。

 利用価値。間違いなくこのウィズに近しいものという点だろう。

 たった一人で世界樹をどうにか出来るわけがないとは思うのだが、どんな仕掛けがされているかはわからない。客観的に見ても俺が世界樹に近付くのは確かに危険。だが、俺が行かなければリサが現れないのもおそらくそうだ。どうすれば……。



「シュゼ、あんたさっきの傭兵長の言葉聞いてなかったの?」


 クレナが椅子から立ち上がりコツコツとこちらに寄ってきたかと思うと、いきなりデコピンを食らった。

 痛い。相当痛い。デコピンの威力じゃないんだが。


「考えるのは傭兵長たちの仕事でしょ。信用してないわけ?」


 信用、とかではないんだが……。

 それを聞いて傭兵長は「ククク」と邪悪な笑い声を発する。


「そうだ。わたしはお前を信用していないが、お前はわたしを信用しろ。命令だ」


 この人も滅茶苦茶言うな。だが、今はそれしかない。はいはい、文句ありませんよと。


「了解」

「ユーマに会え。奴なら何か知っているんじゃないか」

「なるほど、そうか。ユーマからグラードの力の秘密を聞けば……」

「そのユーマ自体信用出来るとは限らんが、行動しないよりはましだ。それまでしばらくはウィズへの帰還を禁じる」

「わかりました」



 その後、俺達はその場で直接今後の指示をもらい解散となった。

 レコウは療養、チマはギハツ、俺とクレナとリフェルの三人は要塞で待機。ついでに俺には何故か“参謀”というよくわからない役割を与えられた。詳しくは後日到着する指揮官に聞けと。

 とにかく今はユーマに接触しなくてはならない。再び俺の元に訪れるかは期待薄だ。ユーマはあまり見た目に特徴がある方ではないから、みんなに彼を攻撃するなと言うのも難しい。何か手を考えないとな。

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