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転入生3

 今日は朝からリフェルと連れ立って街を歩いている。寒い。まだ朝はここまで冷えるか。

 始めに一番近くにある炎魔法学部に寄り、クレナから尻を叩かれた。急いで周れだと。

 だが待って欲しい、全部案内しろとは言われたけれど、本当に全部案内することはないだろう。ないはずだ。


 学部は座学ではカバーしきれない各属性毎の細かい部分などを、学年や指導員ごちゃまぜで訓練したり研究したりするためにある。それらがある場所は街全体にぽつぽつと散りばめられており、全部周って説明していては本当に日が暮れてしまうかもしれない。


 試しにそこら辺に立てかけてあった棒きれをリフェルに渡し、振らせてみる。えいえいと気合は良いのだが、まあ見るからに才覚は感じない。剣術は行かなくて良さそうだ。

 そもそも第二適正を持っている者はそう多くない。持っていたとしても、それを捨ててメインの適正一本に絞る人もいると聞く。が、一応聞いておくか。


「リフェルは水以外に何か魔法使えたりするのか?」

「いえ、特には……」

「じゃあー、例えば何か気になるとか、この自然が好きとか」

「ん~どうでしょう。風なんかは気持ち良いですよね」

「風ね……距離的に後回しだな」

「好きな自然が魔法に関係あるのですか?」


 雷魔法学部に着いたので話は後ほどということにし、建物の中に入る。レコウに見つかりデートだなんだと散々からかわれそうになったが、すぐにリフェルが顔を赤くしてうつむいたのを見て大人しくなった。こいつを黙らせるとはなかなか良い技を持っている。

 ここの指導員に事情を話すと、握手に見せかけて不意打ちでリフェルに軽い電気を流すというとんでもない方法で適正を調べてくれた。だが残念ながらどうやら才は無いらしく、電撃は涙の徒労に終わったようだ。聞いたこともない声を出してたなぁ。ぴゃっ! とか。


 挨拶を済まし外に出たところで、リフェルがまだ涙目で無言になっているのに気付いた。そりゃ電気流されるとか経験もないだろうしびっくりもするか。少し空気が重くなったので、ここで歩きながらさっきの話の続きとしよう。


「リフェルの適正は間違いなく水だろうけど、たまにもう一つ適正を持つ人がいるんだ」

「もう一つですかぁ……?」


 適正というのは才能と言い換えてもいい。親から受け継いだり、小さい頃の感覚、感性などで決まる。らしい。一部を除いてほぼ全ての人に何かしらの魔法適正がある。幼い頃に感じた好きな色や、好きな歌が大きくなってもあまり変わらないように、なかなか一度決まった適正を自分の意思で変えることは出来ない。

 第二適正も同様。ただし第一適正の才能が百だとすると、第二適正は頑張っても八十程度の才能しか発揮出来ない。今日省いた剣術や格闘術などはまた別で、この法則は魔法の才能にのみ適用される。

 とは言え接近戦を行うには肉体強化魔法――スタイルアップ――が必須みたいなところがあるので、関係ないとも言えないが。


「それを調べるためにさっきはビリビリと」

「そう……だけど、次からは挨拶だけにしておこうか。今日のところは」


 いちいち凹まれちゃな。第二適正が見つかったところで、多分試験までに使い物にはならないだろうし。でもクレナには怒られるだろうか。

 ……リフェルに笑顔が戻ったので良かったことにしよう。あいつもリフェルにはどうも甘いところがあるし、説明すれば大丈夫。よし。



 ところで機嫌が戻ったのはいいが、こいつはどうも距離感が近い気がする。物理的な。空間的な。

 昨日もそうだったが、一緒に歩いていると肩がぶつかりそうになる、むしろ実際に歩行の揺れに合わせてぶつけてくるぞ。

 それを避けようとするといつの間にか俺の方が壁際に追い詰められている。置いてある樽に突っ込みそうになり慌てた。これはなんだろう。実は嫌われているのか?

 レコウもスキンシップが多いところはあるが、あいつはわざとやっているのがわかるし、一緒にいても真っ直ぐ歩けている気がする。


 ふざけているのかと思い顔を横目で見ても、いつものようにニコニコしているだけだ。リフェルのこれが意図的な嫌がらせじゃないことを祈る。わざとなら怖すぎる。



 この街の道や施設について説明しながら歩き、いくつかの学部を周り挨拶をこなした。途中風魔法学部では、念のため少し指導員のレクチャーを受けながら適正があるか見てもらうが、どうやら今は見つからないらしい。今は、と言うのはやはり基礎が出来ていないから分からない部分も多いとのことだった。


「風魔法憧れますねー。ぴゅーんと飛んだり出来るのでしょうか」

「そこまで使える人がいるのかどうか……普通はちょっと浮いたり滞空したりくらいだよ」

「そうなんですか。もし飛べたら世界樹のてっぺんに登ってみたかったなぁ」


 聞いてみると、リフェルの村でもやはり神樹信仰が人気だったそうだ。大陸南部ではどこの国でもかなりの支持を得ている宗教だと学んだことがある。おかげでマナや魔法について見たことはなくとも、存在を疑う人はまずいないのだとかなんとか。


 さて残りも少なくなり、結界術の学部に到着――。したところで、くりくりと捻れた栗毛がうずくまっているのが見えた。少し離れた空き地でおそらく学部の人たちが訓練しているのが見えるが、こいつは一人で何をやっているんだ……。


「あっ、チマちゃ――」

「待った! 虫でも弄ってるのかもしれない」

「――っ!」


 警戒しつつゆっくりと近付き声をかける。


「おいチマ。何やってんだこんなとこで」

「んま? あ、シュゼ。リフェルも」


 じゅるりと口から透明の粘液をすすり袖で口を拭いながら立ち上がった。お前はモンスターか。

 そのまま何故かリフェルに抱きつく。いつの間にこんな仲良くなったんだよ。


「何してたんだよそこで」

「アリの巣によだれ流し込んでた」


 何をしていたのか聞いたはずが、答えを聞いてもさっぱりわからなかった。なに、なんの目的があってそんなことするわけ?

 いくら年下だと言ってもお前もうすぐ十四歳だろうが。


「抱きつくのをやめて話を聞きなさい」

「えーだってボクとリフェルは仲良しだもん。ねー」

「ねー」


 この組み合わせはまずい。いくら必死になっても話がどんどん逸れていき、惨めになるのはこっちだったという結果が見える。俺は伝家の宝刀を抜いた。


「クレナにチクるぞ」


 瞬間チマの首がもの凄い速度でこちらに振り向き、それだけは、それだけはと唱えだした。

 話を聞くと案の定さぼっていたようだ。本人は頑としてさぼりではないと言い張るが。


「さぼってはいないけどクレナには言わないで」

「さぁ、どうしようかな」

「ひ、人殺し……」


 どんな言われようだ。


「あのなぁ、あいつだって一応お前の為を思って厳しくしてるんだぞ」


 この言葉はどうやら少しは効果があったようで、途端にチマは大人しくなりぽつぽつと語りだす。

 本当は魔法があまり好きではないこと。将来はここで研究者になりたいこと。クレナは怖いけれど、大好きだということ。……最後のは機嫌取りに聞こえなくもないが。


 チマが飛び級してきて同じ教室で学ぶようになり二年のほどの付き合いだが、こういう話は初めて聞いた。多分、魔法が好きじゃないというのは怖いとか、そういうことなのだろう。前に何かあったのか。

 ……いや、聞かない方が良さそうだな。そういうのはクレナやレコウの役目だ。

 考えてみる。今俺が言えること。チマに必要なこと、必要な言葉。


「わかった。今日のところはクレナに黙っておいてやる」

「うん……」

「ただ、結界術だけはちゃんと学べ。それでいいから。迷って何もしないくらいなら、今は結界術だけ本気でやること」

「……ん。約束する」


 よし、と頭を撫でてやると耳を赤くしながらやめろやめろと喜んだ。

 少しおせっかいだっただろうか。まあ俺が言わなくても、いつかはクレナが言ったであろうことだ。あいつも事情を聞いておきながら、それでも怒鳴るほど鬼ではないだろう。あまり自信はない推測だけれども。


 チマから指導員を紹介してもらい、リフェルの挨拶を済ませてからそろそろ飯時だということで一旦三人で食堂まで戻る。三人で、と言っても食堂は男女別々なので俺は一人で食うのだが。

 戻り際リフェルに道は覚えているか聞いたが、どうも自信なさげだった。かなり歩いたしな。場所さえ把握しておけばウィズで生活していくうちに覚えるだろう、ということにしておいた。


 途中チマと別れ最後の目的地、水魔法学部へと向かう。明日からは一人だからここからの道順は今日覚えるように言ったが、何とも言えない顔をしている。大丈夫かよ。少し遠回りになってもわかりやすい道を選んで歩くか。


 時々人とすれ違うと皆こちらをちらちらと伺う素振りを見せる。思い返してみれば今日ずっとそんな感じだったかもしれない。どうもこいつといると目立つようだ。髪も珍しい色だし、見慣れないからな。


「あの、一ついいですか?」

「ん? なに?」

「シュゼさんの適正は何なのでしょう? 沢山学部も知っているみたいだし、水じゃないのですか?」


 俺か。……俺の適正は――。


「無いよ。俺は無能さ」

「えっ?」



 建物に入ると、何十人もいた結界学部と違い水は数人という寂しさ。水使いはレアだからな。適正が無い術士は初級のウォーターボールすらままならない。

 だが珍しければ良いというものでもなく、水魔法は基本的に遠距離戦で殺傷力が不足しており、一線で活躍出来る人はまずいないのだと言う。

 それでもこの属性が重宝されるのは、“魔法で出した水は飲める”ということだろう。近くに川も無いこの街で水が一切不足なく、風呂まで入れるのはこの人達のおかげだな。毎日供給してくれているのだろう。


 事情を話し、じゃあよろしくお願いしますとリフェルを置いて出ようとすると、途端に不安そうな顔をこちらに向ける。


「まぁ、頑張ってくれ」


 としか言いようがないものな。

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