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強襲3

「降ろすぞー」


 レコウに肩を貸され、というか殆どまた担がれるような状態で一つの大きめな建物にたどり着き、その壁に背を預け座った。少し休み体力が戻ってくるにつれ胸や腹に受けた傷が熱を持ち痛みが襲ってくる予感があった。まだ痛くないけど。

 家具の角に小指をぶつけた時、衝撃を受けてから痛みを感じるまでにはほんの少しの時間的ゆとりがある。あれは神が『覚悟しろ』とくれた時間に違いないと思うのだが、その神の時間がずっと続いているような怖さが、熱を持った傷口にはあった。どうせ痛くなるのなら早くして欲しいものだが。


 おそらく倉庫として使われていたであろうこの大きな建物の床には俺の他にも怪我をした仲間が運び込まれている。

 中には四肢を一部欠損していたり、どう見ても助からないだろう出血の者が苦しそうなうめき声をあげ治療を受けていた。やはり、前衛は被害が大きい……。

 よく見渡すとその中に、忙しそうに走り回る青い髪の女が――。


「リフェル!? なぜここに?」

「あ! シュゼさん! こんなに怪我をして……今手当てしますから横になって下さい」

「あ、ああ……それよりどうして?」

「チマちゃんがウィズとここの転移陣繋がったって教えてくれたんです。それで何かお手伝いしたくて。みんなが心配で……」


 リフェルは喋りながら俺の傷に当てられた布を取り除き、傷口に直接手を触れゆっくりなでていく。その手からは何か温かい魔力を感じるが何をされているのかは全くわからない。が、なんだろう、傷口が痒いんだけど。


「あのさ、これ、何してるんだ?」

「怪我は治せませんが、水魔法で血を固めて止血しています」


 そんな水魔法は無い。

 正確には聞いたことも書物で読んだこともない。自慢じゃないが俺は魔法の種類には詳しい。座学の成績は可もなく不可もなく程度だが、魔法に関しては何か自分で使えるものはないか、到底使うことは叶わない上級の魔法についてまで独学で勉強していた。そのいずれの知識にも見当たらない魔法をリフェルは使う。

 昔才能ある賢者は魔法の形式に縛られず自由に新しい術を開発したと聞くが……この天才め。末恐ろしいな。


「一時的なものなのであんまり激しく動かないで下さいね。ちゃんとお医者さんに見せて下さい」

「……ありがとう」


 巨大なかさぶたのようになった傷口へ手際よく包帯を巻き付けると、自らの水魔法で俺の血に汚れ赤くなった手を洗い、慌ただしくリフェルは次の怪我人の元へ駆けて行ってしまった。いつの間にこんなことを覚えたのか。

 入れ替わるようにして寝ている俺の顔を覗き込む薄いアゴヒゲのハンサムな顔。ヴェイグさんだ。


「シュゼ、ウィズとの転移陣が開いた。しばらくしたら俺らはここを移動するから、その前には陣を閉じる」

「あぁ、はい」


 何が言いたいのだろう。


「あぁってお前大丈夫か? 閉じるから、その前にお前はウィズへ帰れよ」

「なっ! 俺も行きますよ!」

「言うと思ったけどな。駄目だ」

「レコウやクレナはまだ戦うんでしょう!? 俺だって少し休めばあと一匹くらい犬の首を狩れる!」

「駄々をこねるな。もう四人も倒したんだ。恥も負い目もねぇだろうが。休んでろ。お前は勇敢じゃなくていい。これが最後の決戦ってわけでもねぇんだ」


 くっ、前線で戦うのは……厳しいかもしれない。それでもこんな大きな戦いで自分だけ後ろで寝ているのは我慢が出来ない。


「……わかりました。戻ります」

「懸命だ。こっちはこっちで上手くやるさ心配すんな」



 ヴェイグさんが離れてから起き上がり、チマを見つけ出し話をつけてから転移陣でウィズへ戻った。

 向かうのは当然あの場所、世界樹。多分、ここで休めば魔力の戻りもいくらか早い。まだ昼間だが、もうこの際誰かに見つかってもいいだろう。

 重い体を苔むした地面に横たえ大きく呼吸をする。


「おかえりシュゼ。ボロボロだね~」


 聞き慣れた少女の高い声。出会ってからずっと、変わらない声。


「珍しいな。まだ日差しがあるうちに出てくるなんて」

「息子が心配で心配で」

「誰が息子だ」


 リサは仰向けで寝ている俺の頭を膝で挟むようにして腰掛けた。


「伝説の膝枕、貸してあげる」

「伝説なのはお前自身だろ……いらないって」

「遠慮しなくていいって~。ほら、頭乗せなさいな」


 リサの両手ががっちりと俺の頬と顎を捉え、グイグイと上に引っ張る。痛い。つーか首抜ける! あと爪! 爪が肉に食い込んでんだよこの伝説の馬鹿!


「わかったから! わかりました!」

「ふふん。よろしい。此方(こち)が怪我の介抱をしてやろう」

「増えてんだよ! 怪我が今まさに!」


 あれ、叫んだら肩が痛い。参ったな、ここにきて痛みの感覚が戻ってきた。止血はしてもらったものの肩から胸への傷はかなり深いらしい。怖いな。痛いのは苦手だ。いつも散々怪我している割にはさっぱり慣れない。


「少し寝たら~?」

「そうする」


 このまま休んで、戦いまでにどこまで魔力が戻るだろうか。

 普通完全に魔力欠乏状態になった場合、自力で歩けるようになるまで半日はかかる。まともに動けるまでは丸一日。

 先の戦いで俺はかなり魔力を消耗したが、底まで絞り出したわけじゃない。一戦出来るまでは回復するだろう。戦わなくてもいい。せめてレコウとクレナの護衛が出来る魔力が戻れば……。


「やめた方がいいと思うな」

「なにが?」

「また戦いに行くつもりなんでしょ? お母さんと一緒にここにいなさいな」

「……みんな戦ってんだよ。昔の何も出来なかった頃とは違う。今の俺はもう、戦う力を持ってしまった。俺のいない戦場であいつらが死んだら、一生後悔する気がする」

「……そっか。でも、嫌な予感がするんだ」


 怖いことを言う。こいつの勘は当たりそうだ。なんせ伝説だから。


「前線には出ないよ。レコウとクレナを守ってくる」

「うん。そうしなさいな。……ところでシュゼ」

「なんだよ。少し寝かせてくれないか」

「あの、ち、ち……」

「ち?」

「チュー、しよっか……」

「……おやすみ」

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