episode:61
山を下る事7時間…ようやく草原が見えてきた。
お昼休憩を済ませ2時間の自由時間だ。
基本的に代表選手は訓練をするのだが…
僕はロッツとケンジと約束をしているので、稽古をつける予定だ。
「ロッツとケンジの稽古の約束してるからちょっと行ってくるね」
「行ってらっしゃい」
「私達はそうね、お茶でもしてようかしら。ルイフよろしく」
僕は袋から…亜空間倉庫からだが、お茶のセットとスコーンを出して置いていく。
「ル、ルイフの袋…一体どれだけ入っているのよ。全然膨らんでないじゃない」
「そ、そんな事ないよ。お茶のセットは軽いから」
「ルイフだからね」
「ウンウン、ルイフ君だからだよミナちゃん」
「そ、そうね」
僕が行くと二人は既に準備運動を済ませ待っていた。
「お待たせー」
「じゃあ、二人同時にかかってきていいよ、少しずつペースを上げてくから目をならして行こうか」
僕達の稽古が始まった。勿論木剣だ。
ロッツとケンジは意外と息が合っているようで上手く攻めて来る。
僕は剣で打ち合いつつ、たまに攻撃を仕掛ける。
勿論寸止めだ。
最初は寸止めの後止まっていた動きも慣れてきたのか、すぐに回避行動に移るようになった。
徐々にスピードを上げる事で目が慣れてきたのだろう。
「お、やってるな」
「あ、ナギさん」
「烈剣のナギさん…だ」
「ん、烈剣?」
「ああ、俺の二つ名だな…この魔剣、烈火から来た二つ名だ」
「二つ名…ナギさんって有名なんですね」
「もう長いからな。それより面白そうな訓練してるな、そっちの二人も中々見所がありそうだ」
「ナ、ナギさん初めまして僕ロッツ・パナポマスと言います」
「拙者はケンジ・ハナサカでござる」
「ああ、よろしく。それでだ、ルイフ俺と立ち会ってみないか?」
「えっナギさんとですか?」
「ああ、勿論稽古の邪魔をするつもりはないから5分だけでいい」
「ルイフ君、ナギさんいい出したら聞かない脳筋だからやるしかないと思うよ」
「なんだと、フェン。俺は気の使えるおじさんだぞ。5分だけに絞ったしな」
脳筋は…いいのか。
5分ちょっと打ち合うくらいならいいかな?
僕は5分だけと言う事でナギさんと模擬戦をする事になった。
審判はフェンさんだ。
「んじゃ、行くぜ」
開始の合図と共にナギさんが攻めてくる。
僕はナギさんの剣を捌きつつナギさんの動きを伺う。
「ほう…次はさらに1段階上げていくぞ」
ナギさんの動きが急に変則的になり、スピードも上がった。
剣が動いてる…ように見える。しかし今使ってるのは木剣だ。
剣が蛇のようにくねくねしているのだ…
剣を振るうとその剣の上を蛇のように滑り僕の懐に剣を入れてくる。
強い…初めて見る剣技だ。
「不思議な…剣技ですね」
「余裕そうだな。俺の剣は蛇流剣と言ってな、あらゆる剣技をすり抜ける剣技と言われているな」
「時間もないしちょっと本気で行くぞ、ちゃんと受け止めろよ。当たると痛いぞ」
模擬戦って言ったのに…全く。
低い姿勢をとるナギさん、突きでもする気なのか。
前方に剣を出し突進してくる。
すると剣だけでなく、ナギさんがぶれた…
両側からナギさんの剣が僕の剣をかわすように向かってくる。
なんだこれは…
「蛇流剣奥義、双蛇」
これはやばい。当たったら絶対痛い。多分…
能力値が上がってから強い攻撃は避けるかするから当たった事がなくて痛いのかわからないのだ。
僕は咄嗟に剣に魔力を込め剣を振るう。
剣に込められた魔力と僕の渾身の一振りが合わさって強烈な風が吹いた。
「うお…参ったな剣の一振りで俺ごと吹き飛ばすとは…」
「当たったら痛そうだったのでがむしゃらに振っただけですよ」
「そうか、仕切り直しといこうか」
「はいはい、ナギさんもう終わりの時間ですよ」
「ちぇっいいとこだったのによ」
「引き分けって事でいいかな」
「ああ、またしようぜ、ルイフ楽しかったぞ」
「はい、ナギさん、またよろしくお願いします」
「んじゃ、稽古再開しようか」
「あ、ああ。凄かったな今の。僕を吹き飛ばした時以上だ」
「ナギ殿強かったでござるな、ルイフ殿は余裕そうでしたが」
「そんな事ないよ…あんな剣技初めてみた。ナギさん強かったなー」
勝つ事自体は多分簡単だが…
技としての凄みと言うか熟練度と言うかは圧倒的に向こうが上だ。
能力値とスキルの高さのおかげで無茶な剣技が出来る分周りから見たら僕の剣技は凄く見えるようだが…
漫画やアニメを真似してみてるだけの剣技と知ったら…
どう思うだろうか。父様に剣技は習っているから基礎は出来ているので問題ないと思うが…こんな独自の適当剣技教えていいのだろうか。
「ルイフの剣技もめちゃくちゃだけどな、あんなのマネ出来ないよ」
「そうでござるな、空中回転しながら振るったり、あれは意味があるでござるか?」
「え、そ、そりゃ意味あるからやってるに決まってるよ」
カッコいいからやってるだけなのだが…恥ずかしいから言わないで欲しい。
「そうでござるか、拙者にはどちらにしてもあんな動きできないですが」
稽古を終え馬車に戻る。
夜までに次の野営地を目指さなくては行けないからだ。
馬車の中ではたまにチラチラとファムの視線がくるが…
まだ怒っているのだろうか顔が怖い。
草原の道を馬車で進む事5時間ようやく野営地に到着した。
何事もなく無事に到着したのはいい事だが…
ロック山脈での殺気はなんだったのだろうか。
夕食を食べ終え僕はロッツとケンジがいるテントへと向かった。
今日はチャーハンおにぎりと、シチューを食べた。
稽古をしたので、疲れていたのかテントに入ると二人は既に爆睡していた。僕は体に魔力を纏う量を増やしつつどれだけ体が耐えれるのかの実験をしている。寝る前くらいしか負荷のかかる事は出来ないからね。
決してどMではない。
みんな寝たのだろう、気づくとテントの外が静かになっている。
集中しすぎてしまった。僕も寝よう。
僕は夢の中にいた。
ここは…日本。あれっ僕は今テントで寝ていたはずだけど…
前にもこんな事があったような。
それとも夢を見てただけ?イヤイヤそんなはずはない…
僕には可愛い婚約者がちゃんと。
あれ僕に可愛い婚約者がいる方がおかしいのか…?
僕は起き上がり、玄関の方を向く、何かモヤがかかっているように見える。
「気をつけて…トーナメントは危険よ…」
「だ、誰ですか?」
「私の名前は……いっちゃったか。やっぱり夢の中に出るのも短時間しか無理かー。バイバイお兄ちゃん」
眼が覚めると、天井が近い。
そうだ、テントの中で寝ていたのだ…
あれはなんだったのだろうか…トーナメントは危険か。
嫌なお告げを見せる夢だな。殺気の事で色々気になってるのに…
もうすぐ朝だ。少し早いが僕はそぉっとテントを出て交代で見張りをしている、冒険者の元へと向かった。
「ルイフ君、もう起きたのかい?」
「フェンさん…ちょっと変な夢見て目覚めたんですよ」
「ルイフ君も子供らしいところがあるんだね」
「そもそも子供ですからね」
「どんな夢を見たんだい?お兄さんが聞いてあげるよ」
僕は夢の内容は語れないので…
気をつけて…トーナメントは危険と女性の声で夢の中で言われたことを話した。
「なるほどね…夢はともかく聖国は今教皇派と聖女派で争っているからね安全かと言われると否定したい状況だね」
「それなのに聖国でやるってどうしてなんですかね」
「国対抗トーナメントは毎年交代で主催しているし、争いがあるからといって国同士の催しに持ち出す事はないからね。そんな事をしてしまえば弱味になりかねないからね。帝国なんてすぐに攻める理由にしそうだろ?」
「確かに…聖女ってどんな人なんですか?」
「僕も一度しか見た事ないから詳しくないけど…ルイフ君と一緒くらいの子供だったよ。薄いピンク色の髪、白いローブとフードで全身を覆っていたね。顔はよく見えなかったけど…」
争いって言うくらいだから大人同士の争いかと思ったが、
聖女様って僕と同じくらいの歳だったのか…
争いとか大変だな…
フェンさんと話をしていたらいつの間にかみんな起き出して準備に入っていた。
「そろそろルイフ君も準備した方がいいよ。僕も準備するからまたね」
「はい、フェンさん、また」
興味深い事を聞けたけど、トーナメントとは関係がなさそうだ。
夢を信じてる訳じゃないからあれだけど、鮮明に覚えているのだ、夢だと忘れそうなものだが…
やっぱり少し警戒をした方がいいかもだ。
僕は余っていた腕輪に緑の玉を合成した、不安なのでロッツとケンジにも持っていて貰おうと思ったからだ。婚約者達にはもっと強力なものを渡しているが、致命傷を防いでくれる効果がある。
婚約者達の指輪には何度か改良を加えている。
自動で弱い攻撃を防ぐ結界魔法を付与したり小さいが亜空間倉庫をつけている。強い攻撃を受けると1度で結界は壊れてしまうかもだが、嫁達のリングには修復効果も付与してあるので魔力を込め直せば何度でも使える。修復時に必要な魔力量は多いので僕がしないとダメだがある程度の安全は確保出来ていると思う。
勿論本戦では結界はオフにして戦う。
結界があったらずるいからね。
今日はエンビスの森の中で野営予定だ。
レッドスネークの時に僕が破壊した場所は綺麗に修復されているらしい。修復された時に大きな野営地として作り直したそうで、そこで今日は野営をするようだ。
この森を抜ければ王国と聖国の国境になっているユンス大橋がある。
渡れば聖国領だ。
長旅が続き、野営地に到着した頃にはみんな疲れが出ていた。
最初の頃のような元気がない。
静かにテントを張り、ご飯を食べる。
「みんなだらしないわね」
「ミナちゃん大丈夫?」
「なんでレイもララもサーナもそんな元気なのよ」
「なんでだろう?」
「ルイフに似たのかしら?ほら美味しそうにご飯を食べているわね」
「そんな訳…でも3人共婚約者だし…そんな事が…ボソボソ」
3人共疲れると指輪に魔力を自然と込めて回復力高めてるそりゃ疲れないよね。3人共普段からしてるから慣れてしまって気付いていない。
それにしてもみんな大丈夫かな…
先生達は元気だが…生徒達の疲労がやばい。
毎年こんな感じなのかな?開催国有利すぎない?
だから2日前に到着するんだろうけど…それでも有利だよね。
冒険者の人達はさすがと言うべきか全く疲れて居なさそうだ。
交代で馬車を降りて歩いて護衛をしたりと一番体力を使っているだろうに。
今日も殺気を感じる事はなかった。
もうすぐ聖国領だ…このまま何事もないと良いのだが。
翌日、僕達は森を抜けユンス大橋の上にあるヨータスの町に到着した。国境の町だけあって宿屋だらけだ。
屋台の多く並んでいて聖国と王国を行き来する人達で賑わいを見せている。僕達が泊まるのは王国所有の宿泊施設だ。
勿論部屋は男部屋だ…
「ロッツ、ケンジ渡したいものがある」
「急にどうしたんだい」
「そうでござるな」
僕は二人に腕輪を渡す。
「この腕輪を学園に戻るまで二人に付けてて欲しいんだ」
「わかったよ」
「いいでござるよ」
「あれ、いいの?もっとなんか色々言われるかと」
「親友からのお願いだからね」
「ルイフ殿がお願いするくらいだからきっと大事な事でござるしな」
「ありがとう、二人共」
僕は渡してから…早速二人を置いて嫁達の元へと向かった。
「ロッツ殿…ルイフ殿また行ってしまったでござるな」
「そうだね、親友よりも美女と遊ぶ方が楽しいんだよ」
「拙者達は拙者達で観光でもするでござる」
「うん、羨ましくなんてないよ僕は」




