episode50
カルメは何もわかっていない様子だ。
「あ、あれここはどこですか…アミア隊長とレグドンさんがいないです」
「フーランの森だよ」
「え、フーランの森ですか?一体どうやって…」
「もう使っちゃってるから言うけど転移だよ」
「転移…魔王がかつて使えたという伝説のスキル…まさかルイフ様は魔王!!??」
「はぁ…勇者でも魔王でもないから、家族以外に転移の事は秘密ね」
「わ、わかってます。でも、セイラ様を救ってくれたのがルイフ様で良かったと改めて思います」
「それは良かった。そういって貰えると嬉しいよ。じゃあそろそろ行こうか」
「グリコ」
「はい、主様」「森に着いたからお迎えよろしく」
「はい、もう後ろに来ております」
「えっ、あ、いたのか」
グリコはこんな大きいにも関わらず気配を隠すのが上手すぎる。
びっくりするからせめて正面から来て欲しい。
「きゃっ」
「気配隠してくると心臓に悪いからやめて欲しい」
「すみません、街の者にバレないように最大限努力した結果なのですが」
「カルメ、グリコだから大丈夫だよ」
「努力は買うけど、せめて正面から来てね」
「あ、グリコ様ですか…」
早速グリコに乗り、帝国を目指す。
ゲンコウ湿地を越えてフェルス大橋の上空を飛んでいる。全長40kmの大きな橋だ。中央にはフェスタリカという小さい宿町がある。
それにしても大きい川だな…
西に続く川をメドレイラス川。帝国へ行くフェルス大橋とユグル聖国へ行くユンス大橋の間を境に左右で川の名前が変わるのだ。
ちなみに東の川はウェリント川と言う。
大きな橋を渡り終わったここから帝国領だ。
見つかる訳にはいかないので、かなり高度を上げての飛行だ。
橋を渡って最初の町が見えてきた。
カルメが帝国の説明を軽くしてくれた。
橋を渡った先にある最初の町がリエシルエの町、王国と帝国を行き来する商人の休憩場として利用されている町らしい。近くには美味しい虹色の鳥がいるカラーズの森があるらしく、冒険者もそこそこ潤っているらしい。一攫千金の狩場だ。
そこから帝都リオを目指すならバルボルの街。王国で言うヴェールの街だ。各都市へと行く中継地点となっていて交易で賑わっている。
帝国は皇族と7貴族の領地で大きく分けられていて王国のようにたくさんの町はないらしい。
外側は大きな山や森に囲まれていて過酷な領地も多いとか。
フェンディルース大草原を境にユグル聖国との国境がある。戦闘がある場合は大体この大草原で行われるのだとか。
今回はバルボルの里へ行く途中の野営地を西側に抜けて行き、カルメの故郷であるシアナの町へと向かう。帝国は土地が広くグリコに乗って行くには目立ち過ぎるので仕方なく途中のカラードの森の中に降りる事にした。
ここから野営地に向かい明日シアナの町を目指す予定だ。
コグリッチ公爵が治めるデイクルスの街まではシアナの町からおよそ徒歩5時間ほどだそうだ。遮るような森などはないらしくずっと草原が広がっているだけとの事。グリコに乗って移動は諦めた方が良さそうだ。
森に到着する、この森の由来であるカラーバードを捕まえたいが木の上の方に巣を作り、餌を取りに来る時のみ降りてくるらしい。なので滅多にお目にかかれないみたいだ。
今回は急ぎなため諦めるが…いずれ美味しい唐揚げを作るために取りに来ようと思う。
野営地までは徒歩で4時間ほどでついた。
徒歩の時間の感覚が狂ってきている…こちらの世界では普通なので誰も何も言わないが、徒歩数時間って…もはや突っ込む事もしないくらいに馴染んでいる。
王国と帝国を行き来している冒険者や商人はよくこの野営地を使う。
そのため広い野営地も人でいっぱいだった。
冒険者らしい剣を持って鎧を着込んだ人から荷馬車の傍で商売人らしい格好で護衛の人達に指示を出してる人など様々だ。
僕とカルメは野営地で遅くなったお昼を食べている。
今は大体14時過ぎくらいだろう。
隅の方で違和感ないようテントをさっと出し設置する。
カルメは驚いているが…もう突っ込んでこないらしい。
簡単に座れる程度の土の台のようなものを2つ作りそこへ座る。
今の僕なら椅子みたいにすることは可能だ。しかしそんなものがあれば注目を浴びるだろう。
台くらいなら座ってても特に注目する人もいないと思う。
「よし、弁当にしようか」
「はい、そうしましょう」
僕はマーニの弁当を2つ取り出した。
1回分ずつ分けて作ってくれているので有難い。
僕が取った方の弁当の中身はパンに野菜とお肉が挟まったサンドウィッチみたいなのだった。外で食べやすいよう工夫されている。
カルメの方は…なんだろう?
僕がカルメを見るとカルメは固まっていた。
「食べないの?苦手なものでも入ってた?」
「い、いえ。弁当がまだ温かかったので…」
「まだ家から出て10時間くらいだから、マーニお手製弁当は冷めないんだよ」
「そんな訳あるはずないです、からかわないでください」
ちょっとした冗談だったのだが通じなかった。
真面目に返されると困るやつだ。
「う、うん。僕の亜空間倉庫は時間の経過がないから入れた時のまま残せるんだよ」
「そ、そんな訳…。でも…温かいし…ボソボソボソボソ」
「カルメ…?信じてないの?」
「信じてますが…信じてても信じられないものがあるんです」
「う…うん。そうなんだね」
なぜか本当の事を言ったのに…怒られているような感じだ。
理不尽だ!!断固抗議したい。
そんな度胸もないのだが…
「わかりました。とりあえずルイフ様の事で驚くのはもうやめます。ルイフ様はおかしいので、納得します」
「え、僕おかしいの?」
なんという事だ。僕はおかしい認定されてしまった…
少しチートな能力気味になりつつあるがまだ上には上がいる。
おかしいと言われるには早い気がする…
ステータスを見ても…うん、人間だ。大丈夫。
「はい、おかしいです。常識を当て嵌めてたら疲れてしまいます」
「なんかごめんね」
「はい、もっと自分が変な事をしてる自覚を持ってください。こんな…事が出来るのがバレたらセイラ様にも迷惑かかるんですからね」
「わ、わかりました!!自重します」
カルメは7つも上のお姉さんだ。正論を言われると僕は言い返せない。注意してくれるお姉さん的な感じだ。
有難くお言葉を頂いておこう。
「それでカルメの方の弁当は何だったの?」
「私の方は、ジャガイモを蒸したものをお肉で巻いたものですね。これとても美味しいんですよね。ルイフ様もよかったら食べてください」
「じゃあ、一つずつ交換しようか」
「はい」
僕はサンドウィッチ1個の対価にジャガイモの肉巻きを手に入れた。
マーニの作るご飯は美味しい…絶品だった。
しかし、しかしだ。肉巻きは甘辛いタレを絡めて欲しい。
早く醤油や味噌を使った料理を教えなければ僕の旅の平穏はマーニの料理にかかっている。
テントの中でお姉さんと二人きり、カルメは露出が少し多めなのでちょっと緊張する。年上のお姉さんに少しドキッとする時期なのかもしれない。
時間も早いので、帝国の話を聞きつつ明日からの行動の確認をした。
シアナの町には今もカルメの両親が住んでいるらしい。
しかし、もう3年ほど前に会ったきり会っていないそうだ。
親衛隊に入るため、学校に入った時にもう会わないと決心したらしい。
そんな決心する必要あるのか…とも思ったが。
両親と会ってしまったりすると、何かあった時に両親に迷惑がかかると行けないから…との事だ。
姫様の護衛ともなると、両親との関係が良好だと利用されたりするのだろう。帝国の騎士の忠誠心も凄いものだな…
王国はどうかは知らないが、少なくとも父様の部下のガンツさんにシャルルさんは僕を命がけで守ろうとしていた。
忠誠心…怖いものだ。
辺りも暗くなり夜になる、薪を取り出し魔法で火をつける。
お互いに交代で仮眠を取りつつ火の番だ。
野営地とはいえ、知らない人だらけの場所だ、警戒せずに二人共寝ることはできない。
まずは僕から休む事になった。
いつも通り魔法の練習をしつつ眠りにつく。
「ルイフ様」
「ルイフ様」
「ん、もう交代の時間?」
「はい、5時間経ちました」
「わかった、準備するからちょっと待ってね」
僕は眠い顔を冷水で洗って目を覚ます。
これから5時間か…初めての2人野営なので一人での火の番は寂しいものだ。というか暇だ。
時間はどう測るかというと、薪の燃え尽きる時間で測っている。
正確ではないが昔からの旅の知恵である程度合っているらしい。
商人などでお金を持っている人は懐中時計のようなものを持っている。僕も買えるくらいのお金があるけど…これから色々必要だからと思っていたら買いそびれてしまった。
必要なものは買っておくべきだよね。また稼げばいいのだから。
火の番はとても退屈だ。
土に指で絵を描いてみたり…
火を魔法で動かして魔物っぽくしてみたり。
台座を柔らかくしてお尻部分に少し凹みをつけ快適にしてみたり。
とにかく思いつく事をやっていたらいつの間にか5時間経っていた。
僕はカルメを起こしにいく。
「カルメ起きて…って…」
カルメは確かに寝ているのだが…なぜか下着なのだ。
服が無造作に横に置かれている。
こ、これはどうしよう。
「カ、カルメ…起きて」
「んんー。ルイフ様、おはようございます」
「カルメ服…なんで脱いでるの」
「あ、すみません。ルイフ様もお年頃でしたね。私寝てる間に脱いでしまうんです」
脱ぎ癖というやつか…これはけしからん。
「いや、別にカルメの見てもなんとも思わないけどなんで脱いでるのかなって」
お年頃という言葉に僕は抵抗した。
「ふーん、ルイフ様私じゃなんとも思わないんだ」
突然カルメが下着姿のまま僕に抱きついてきた。
顔がカルメの胸に押し潰される形になった。
「ちょっ…カルメ、何をして」
「何も思わないって言うから試してみてるの」
僕はきっと物凄く顔が赤くなっているだろう。
この柔らかい感触と温かさで僕の頭はいっぱいだった。
その感触も終わりカルメが僕を放した。
「ふふふ、顔真っ赤ですよ。ルイフ様、私も捨てたもんじゃありませんね」
「そ、そんな事…ま、まあカルメは美人だしちょっとくらいはね」
「やっと認めてくれましたね。セイラ様には内緒にしておきますね」
な…なぜだ!?向こうから仕掛けてきたのになぜか弱味を握られたような状態になっている。内緒にしててもらう側に…
「う…うん」




