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episode:43




目が覚めると朝6時を過ぎていた。

いつもなら目覚めて準備も終わっている時間だ。


朝ギルドへ向かうと約束はしたが、朝何時とは言われてないので大丈夫だろう。僕は準備を手早く済ませて朝食のパンだけ貰いギルドへと向かった。


ギルドの中へと入る。依頼を決めて出発の準備をする冒険者がたくさんいる。朝の依頼争奪戦が終わった後なのだろう。


「あっ ルイフさん、おはようございます。ギルドマスターが待ってますよ。なんかイライラしてるみたいでしたが、何かありましたか?」


「特に何もないと思いますが、朝冒険者ギルドへ来てくれと言われたので来ただけです」


「あー…なるほど」


レミーさんが説明してくれた。

冒険者に言う朝とは、ギルド争奪戦が開始される6時頃。

ギルドマスターは僕に6時に来いと言ったようだ。

だが新人の僕はそんな事を知る訳もない。


僕は案内されてギルドマスターであるダイカンの部屋へと向かう。


コンコン


「ルイフ様をお連れしました」


「入れ」


レミーさんは受付業務があるので入るのは僕だけだ。

中に入るとイライラしているダイカンがいた。


「おはようございます。約束通り朝になったので伺いました、昨日の件決まりましたか?」


「おう、おはよう。じゃねえよ、遅いだろ。今何時だと思っているんだ、時間も守れないのかお前は」


「まだ7時くらいだと思いますが。朝との約束ですよね。今は朝ではないんですか?」


「朝と言ったら普通6時だろ、常識だ」


「そんなの習った覚えもないので知らないですよ」


「お前Bランクにもなって…そんな言い訳通じるわけないだろ」


「すみません、まだ冒険者登録したばかりの新人なもんで」


「なに?!!どう言う事だ」


「なにと言われても…登録してまだ一月も経ってないですが」


「なんだと…シフォンの奴そんな新人を頼れと言ったのか。まさか、王都から人を出すのが嫌で、あいつなら考えられるか…ボソボソ」


何かボソボソと言ってるようだがまる聞こえだ。

本当に失礼な人だ…人を見た目で判断するとは元Aランクとは思えない。


「それで結局どうしたらいいんですか?僕も暇じゃないので早くして欲しいです」


「新人が偉そうに…ダメに決まってるだろ。新人一人行かせて何になる」


「そうですか。じゃあ僕は次の街を目指さないといけないので失礼します」


「おい、待て。お前も参加だ」


「僕は一人以外での参加はしないと言いましたよ?」


新人だとわかったからか、急に偉そうになった。

不愉快極まりない。


「新人がギルドマスターに文句を言うのか?黙って従えばいいんだ。緊急時に文句など言わせん」


「あなたに従う気はありません、他を当たってください。そもそも僕はこの街に宿を取るために寄っただけですぐに出る予定でしたから」


「なんだと…ギルドマスターに逆らうって事がどう言う事かわかるのか?」


「知らないですよ。自由に冒険するために冒険者やってますから、それに僕が自由に振る舞う事を王都のギルドマスターであるシフォンさんも承知の上ですから。何かあればそちらに言ってください」


今にもブチギレそうな感じだが、ギルドマスターとしての意地なのか堪えているようだ。


ウィンに行く件は国王様にもシフォンさんにも話しているし、何か合ってもよっぽど大丈夫だろう。

新人だからと権力振りかざすこの人の方が悪いに決まっている。



「そうか…ならどうなっても知らんからな。さっさと行け。お前なんか居なくてもどうにでもなる」


「そうですか、では失礼します」


僕は、そのままギルドを出て門へと向かう。

どうにでもなると言われたのだ、これ以上関わる必要はないだろう。


僕はネヴェラ山脈に入るために、ワイバーンのいる橋を目指す。

一人なら気配を消していけば問題なく通れるはずだ。


天気も良いし、こちらの世界は自然が豊かだ。

草原にある街道を歩いているだけだがとても気持ちがいい。


2時間ほど早足で歩くと問題のネヴェラ大橋に到着した。

橋は全長10kmほどの長さがあるらしい。とても大きな橋だ。

この大きな湖を橋なしで越えるのは無理だろう。


「この橋の真ん中の休憩地点にワイバーンがいるのか…また厄介なところに来たものだ」


橋の前には橋の番をしている人が立っていた。


「こんにちは」


「こんにちは。って冒険者か?この先は今ワイバーンがいるのを知らないのか?」


「知ってますよ?ウィンの街へ行く予定なのでここを通らないと行けないんですよ」



「命あっての旅だ…辞めときな。その年で命をかける事もないだろう」


僕は無視して橋を渡り始める。このまま話していてもキリがなさそうだからだ。


「おいおい…忠告はしたぞ?知らないからな」


僕は尚も歩き続ける。


「本当に知らないぞ?」


しつこく話しかけてくる。


「大丈夫なので、戻ってください」


「いや…でもな…子供を一人死なすわけには…ええい俺も付いて行ってやろう」


お人好しの橋番だったようだ…

全くどうしたらついてくるって話になるのだか。


「僕は大丈夫です。おじさん死ぬよ?家族とかいないの?」


「ああ、いるとも娘が今2歳だ。可愛くて仕方ない」


「なんで偉そうなんですか…尚更来てはダメでしょう」


「そう思うなら戻ってくれ。子供一人守れないで娘に胸張って父親と言えないからな」


「そういうものですか…」


「そういうものだ」


いかにもお人好しそうで出世しなさそうな30前後のこのおじさん。

どうしたものか…

とりあえずワイバーンの近くまで行ってみることにした。


ワイバーンがいるのは野営地のある5km付近だ。


おじさんに合わせて進んでいたので、5km進むのに2時間もかかってしまった。野営地に近づくに連れ強い魔物の気配がより濃くなっていく。


これは間違いなく亜種か、ワイバーンとは別物の何かだ。

前回戦ったレッドスネークと同格またはそれ以上の強い気配がする。

気付かれずに通れるだろうか?ちょっと自信がなくなってきた。


「おじさん、凄い強い気配がする。もう戻った方がいいよ」


「そんな事がわかるのか?」


「うん、大体だけどね。普通のワイバーンではないよ…亜種かそれ以上の何かだよ」


「そりゃ…やばいな?」


「やばいよ?」


「じゃあ帰ろう」


「僕は行くよ、気配を隠せばそのまま通れると思うから」


「そんな事が出来る訳…。冒険者なら出来るのか?おじさん騙して進もうとしてないか?」


「してないからね。それにもう少し進むとおじさんは気付かれる可能性があるからこれ以上は進まない方がいいよ」


「ふむ、わかった…これ以上いってもダメそうだな。気をつけていけよ」


「うん、バイバイおじさん」


僕はおじさんに別れを告げ、ワイバーンの元へ気配を消し近づいていく。野営地は広く円状に作られていた。雨を凌げる石屋根と壁が円状に外側を囲っている。

湖の上では日差しも強いし雨が降ると大変だ。

安心して休めるように作られている。


そのど真ん中の開けた場所にいるのは…

ワイバーンだ。亜種を知らないから見た目では判断がつかない。

レッドスネークの時はガンツさんがいたからわかったがさっぱりだ。


見た目は普通のワイバーン?図鑑でしかみた事がないのではっきりとしないが緑色のプテラノドンみたいなやつだ。

しかし、Bランクとは思えない強い存在感を纏っている。


僕は気配を消し、ワイバーンの横を通っていく。

気付かれないように慎重にだ。


近づいていくと結構な大きさと迫力に緊張が走る。

思っていた大きさより大分大きい。

これで龍ではないというのだから…異世界ファンタジーは恐ろしい。

本物の龍はどれくらいの迫力と大きさを持っているのだろうか。


ワイバーンの横を無事通り過ぎ野営地の反対側へと行く事に成功した。なんとかなったようだ。


僕は安心して橋を渡り抜けようと歩いていたその時…


ギャギャギャッーーーーーーー


ワイバーンの大きな鳴き声が聞こえた。

何かあったようだ…冒険者だろうか?それにしては早すぎる。

誰かがちょっかいをかけたのだろうが…


まさかおじさん?な訳ないか。

おじさんは戻っているはずだ…


僕は気になって橋を急いで戻る。

戻るとそこには翼を広げ、さらに大きさを増したワイバーンがいた。

ワイバーンの前にいる何者かに威嚇しているようだ。


「わ、わ、わわわわ、、、お、お俺を食っても旨くないぞ…俺には娘もいるんだ、死ぬわけには…わわ、わ、助けてくれ…」


この声は…おじさんだ。

なぜこんな所にいるのだろうか。警告はしたはずだ。


しかし、あの人は心配して僕についてきてくれるようなお人好しだ。

悪い人ならともかくいい人を見殺しには出来ない。

関わる気はなかったが、おじさんを助けなくては。


ボールを投げて一気にカタをつけたいが、ここでそんな事をしたらおじさんや橋に大きな被害が出てしまう。


僕は刀を抜き被害が出ないよう、風魔法のウィンドカッターでワイバーンの羽の付け根を切りつける。


ズシャッ


ギャギャーーーギャオオオオオ


痛みで暴れて激怒している、僕を探しているようだ。

その隙に僕は回り込みおじさんの所へと行く。

ワイバーンが暴れた事で野営地の屋根などが崩れめちゃくちゃになっている…


「おじさん、なんでこんな所にいるのさ…とりあえず逃げるよ?」


「お、お、坊主か…無事だったのか」


僕は手を引っ張りおじさんを引きずりながらその場を離れる。

ワイバーンの見える範囲から離れた所でおじさんを離す。

抱っことかしないよ?おじさん抱っこして誰得なのって話だもん。



「で…なんでワイバーン怒らせるような事したの?せっかく気付かれずに渡りきれそうだったのに…野営地もめちゃくちゃだったし、あれだけ怒っているワイバーンを退治するのは骨が折れるよ。こっそり奇襲も出来なくなったじゃん」


僕はおじさんを説教している。

2歳の娘さんがいるのにこんな危険な真似をするのは間違っている。


「いやな…お前さんが無事に行けたのか気になってだな。ちょっと覗いてみるだけのつもりだったのだが、見つかってしまってな」


「だから…大丈夫っていったし、それに気配でバレると教えたはずだよ」


「そんな事言ってもよ、本当に気配でバレるなんて思わないし。子供が無事に通ってるなんて思わないだろ」


「これでも僕Bランクの冒険者だからね…」


「マジか…悪いな。足を引っ張ってしまって。本当に助かった」


「それはもういいけど…凄い暴れている音がするけど。街に飛んでいったら大変だよこれ」


「あ、ああ…どうしよう。これがバレたら俺はクビだな。娘や嫁を路頭に迷わせることになってしまう」


「そう思うならお人好しも大概にね、今回はちょっと橋が壊れるけどワイバーンだけはなんとかしてあげるよ」


「なんとかするって言っても、坊主一人でどうこうなるもんじゃないだろう?Bランクと言えば前に来たパーティが2つ壊滅したと聞いたぞ、その時案内した橋番も死んじまって代わりに来たのが俺だからな」


「まー…おじさんは橋番に戻って何も知らないフリをしてたらいいよ。ワイバーンが急に暴れ始めて壊れたとでも言っておいてよ、時間が惜しいから僕は行くね」


「ああ、けど…」


「けどはなし。今度こそ死ぬよ?」


「ああ、わかった、気をつけていけよ」


僕はおじさんを橋の入り口まで戻し、一人ワイバーンの元へと戻る。

暴れる前なら刀で対処する手もあったが…暴れているワイバーンを慣れない刀で倒しに行くのは自信がない。

こういう時に経験の差が出るのだろう。

能力値だけはSランク近いものがあると思っているのだが、何せ経験がないからリスクだと思う事は中々やる事が出来ない。


野営地一帯が完全に破壊されてしまうが…いつも通りボールで対処するのがいいだろう。


僕はボールが飛ぶ先が見えるギリギリの距離から魔力を込めた黄色のボールを風魔法で操り一斉にワイバーンに向けて飛ばした。


ドッカーン、ビリビリビリビリビリビリ


光の柱が現れたと思うくらいの眩い光が野営地を包む。

凄まじい放電現象に空気がピリピリとしている。


見ているだけで僕まで痺れてしまいそうだ。

実際は痺れないのだが…


ギャギャ、ギャオギャ…ギャギャ


大きなワイバーンの悲鳴が直後に聞こえたが…

流石に生きてはいないだろう。


確認をしに僕はワイバーンの元へと向かう。


石で出来た橋なのだが、大きく破壊されていてボロボロだ。

なんとか湖に沈まずに残っているが、ヒビが入っていたり、黒焦げになっていたりとワイバーンが暴れていた時より遥かにひどい。屋根や壁なんてものは初めからなかったかのような光景だ。


大きく穴の開いた野営地の中心部には黒焦げになったワイバーンがいた。ピクピクピクピクと動いている。


「あれ…まだ生きてる。あれ食らって生きてるとか亜種ってやっぱやばいな」


今にも瀕死で死にそうなワイバーンと目が合った。

僕はその目をジーっと見つめる。何かを訴えて来ているような気がしたからだ。


「んー…僕の言葉わかる?」


わかるわけないのだが…どうしていいかわからず思わず変な事を言ってしまった。


「ギャギャ…」


おっと…なんと言ってるかわからないが、肯定するかのように弱々しい返事が返ってきた。


「まだ戦う気ある?」


「クゥゥゥン…」


弱々しい声でないよ、と言ってるかのように鳴く。

僕はとりあえず緑のボールに魔力を込めワイバーンに投げた。


するとワイバーンを光が包み、みるみる傷が治っていく。

ほとんど使った事がなかったが…これは凄い。


ボロボロの羽や、消し飛んだ尻尾が元に戻っていく。

欠損回復だ。あっという間に元のワイバーンに戻った。

日本でこの力があれば…大金持ちになれたな。

免許がないから漫画であった、なんとかジャックみたいに闇医者的な扱いをされるのかな?というかこんな能力あったら拉致監禁されたり、大変な事になりそうだ、異世界でよかった…


ワイバーンは頭を地面につき、僕の前に出した。

降伏の意思表示だろうか?


「なんでこんな事をしたの?」


「ギャギャ」


ん…さっぱりわからない。ギャギャって何。

どうしようか。理解出来そうにない。


念話が出来れば…


「あ、そうか。念話だ」


僕はワイバーンに向かって意思を伝えるように、魔力を動かしてみた。


「あ、あ、あテスト中、聞こえますか?」


「これは、主様でしょうか。聞こえております、念話が出来る人間がいようとは驚きました」


おお、成功だ。魔物と話しをする事になるとは。


「聞こえてるっぽいね。なんでこんな事したの?」


「今山では異変が起きています。山へ向かう人間に警告のつもりだったんですが、人間の冒険者が急に襲ってきたので、思わず加減を間違えてしまい…」


どうやら悪いワイバーンではないようだ。

しかし冒険者を殺してしまっている。どうしたものか…


「今冒険者ギルドで君の討伐をする話が進んでいるよ」


「それは困りますな…しかし山へ戻りたいのですが。山にいた他のワイバーン達は突然狂い、共食いをしだしたのです。私もどうにか耐えられましたが…気を抜いてたら同じようになっていたでしょう」


山での異変か…嫌な予感しかしない。

橋壊れたし、しばらくは大丈夫だろうけど…今度調べてみる必要がありそうだ。


「とりあえず、どうしたい?別に退治する必要はなさそうだから好きにしていいけど」


「主様さえ良ければついて行きたく思います」


「えっついてくるの」


「その言い方は…傷つきますがご迷惑でしょうか。私がいればある程度の場所ならすぐに飛んでいけますが」


確かにそうだ…ワイバーンに乗っていけば移動が大分楽になる。

しかし…普段から一緒にいる事は出来るようなでかさじゃない。


「人化とか出来たりする?」


「すみません、そのような高等な魔法はもっと高位の者しか出来ませぬ」


「んー…テイマーの扱いがわからないけど一緒にいたら街中パニックになる予感しかしないけど」


「普段は適当に過ごすので問題ないです。近くまで乗せて行くだけです、契約魔法を使って頂ければ、すぐに駆けつけれるようになりますし」


そうだ…ソフィアの事を忘れていた。

契約魔法を使っていたじゃないか。


「なら、一緒に行こうか」


僕は契約魔法を使い、ワイバーンを旅に連れて行く事にした。

便利な足が出来たのだ。いや仲間だ。


「名前は?なんて呼べばいい?」


「私に名前はありません、どうか好きにお呼びください」


名前か…考えるの苦手なんだよな。

ワイバーンだもんな。


・ミドリ

・グリーン

・ワイン


流石にまずいよな。

グリーン…グリコ。


おっ


「君の名前はグリコだ」


「ありがとうございます。今日からグリコと名乗らせて貰います」


僕はグリコに飛び乗り、水の都ウィンへと向かう。


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