episode:41
今日は水の都ウィンへの出発日だ。
今は4時前だ。出発には早いと思うかもしれないが、走って行くので人目の少ないこの時間の方が都合が良いのだ。
時間切れとなり、レグドンの妹のティーナに何かあったらとても後悔する事になるだろう。今も無事かどうかなんてわからないが…
僕は今出来る全力を尽くすだけだ。
玄関のドアをそぉっと開けて僕は屋敷の外へと出る。
「さてと、みんな行ってくるね」
ボソっと僕は呟き門を出る。
「ルイフ様…お気をつけて」
「ルイフ様、屋敷と姫様は俺が必ず守ってみせます。どうか妹をお願いします」
屋敷の門で待っていたのはアミアとレグドンだ。
僕がこの時間に出て行くのがわかっていたのだろうか。
「こんな時間に見送りがあるとは思わなかったよ、ありがとう」
「ルイフ様なら早い時間に出られると思ったので、ずっと待機させて頂きました」
「外も冷えるし、もう戻って眠って良いよ。妹さんの事は僕に任せて…なるべく急いで戻ってくるから鍛錬しといてね、帝国へ行く際は協力して貰うから」
僕はそのまま歩き出し、暫くして二人が見えなくなった所で走り出す。草原を駆け抜ける僕の姿は野生の虎のよう…とかカッコいいこと言いたいがこのスピードで走っている子供はどのように見えるのだろうか。風魔法でなんとか風圧などは防いでいるが、何もなしで走ったらTVで見たことのある、大型扇風機で台風体験的な感じに顔がブルブルと歪んだ状態になるのだろうか。
そんな事を考えながらひたすら走り続ける。
途中の魔物は体当たりだ!なんて事はしない、しっかりと刀を振り抜き倒している。素材が確保出来ないのは勿体無いが今の僕はお金に少し余裕があるので問題はない。落ち着いたら冒険者稼業で稼ぐ予定だ。
およそ12時間ほど走っただろうか、ヴェールの町の門が遠くに見えてきた。この時間では人目につくので僕は少しペースを落とし、徐々に歩くくらいのペースに調整し門へ向かう。
これだけの時間を全力で走ったにも関わらずそれほど疲れていない。能力値の力は恐ろしい。前世で100m走を全力で走れと言われたら多分無理だ。途中でペースが落ち、最後はヘロヘロだろう。
この時間の門はほとんど人もいなく空いていた。
ヴェールの町は他の町よりも門の閉まる時間は遅い。
僕がついたのは19時くらいだった。王都なんかだと18時には門が閉まり別の裏門で手続きを踏んで入らないと行けなくなってしまうのだ。
その分怪しい人の出入りや夜に危険な者が紛れ込みにくくなるのでセキュリティー的にはいいのだろうが。
僕の番が回ってきた。
「身分証を」
「はい」
僕は冒険者証を見せる。
こんな子供がBランクだからか驚いた顔をされるが特に何も言われない。
「確認出来ました。今回はなんの為にこの街へ?」
「ウィンに行こうと思っているので、一泊して明日には出る予定です」
「ふむ…東門は今封鎖中だ、冒険者ランクBランク以上なら出る事は出来るが、危険だからやめておいた方がいい」
「何かあったんですか?」
急いでいるのに、封鎖とは…
とても困る。最悪東門を出ることが出来ればルートなんて無視して森でもなんでも突っ切るのだが。
「門を出て暫く行ったところにあるネヴェラ山脈との中間地点の野営地に大きな橋があるだろ?その橋の真ん中に1週間ほど前からワイバーンが住み着いてるんだよ」
「ワイバーンですか…それはとても迷惑な話ですね」
「ああ、商業の街にとって移動が出来ないのは死活問題だからな、今冒険者ギルドでもAランク以上の冒険者をかき集めてるらしいぜ、話が聞きたきゃ行ってみるといい」
「そうしてみます、ありがとうございます」
大きな橋があると言う事は恐らく山脈に向かうのに大きな川を渡らないといけないのだろう。大まかな行き先と方向しか知らなかったので、どうにでもなると思っていたが、空を飛ぶ事は出来ないので、橋を渡るしかなさそうだ。
ワイバーンくらいならなんとかなる気がするが…
それにBランク冒険者2パーティーもいればワイバーンなら倒せるはず、なぜこれほど時間が掛かっているのだろうか。
僕はとりあえず、宿を探す事にした。
商業都市だけあって宿屋は多い。この時間でも空いている所を探すのは容易だ。何せ案内人みたいな人が立っているのでその人に宿のランクなど希望を言えば空いている所に案内してくれるのだから。
日本で言う無料案内所みたいなものだろう。
連絡手段は人なので効率は良さそうには見えないが、宿を探してる身からするとありがたい。勿論客引きみたいな人達もいるので、そっちに行くのもいいのだが客引きをするのは基本安宿だ。
急いでいる時に高級宿に泊まるつもりはないが、中級クラスの宿には泊まりたい。安宿で寝るのは物騒だし睡眠はとても大事なので硬いベットはごめんだ。
僕が案内されたのは高級宿の雰囲気は出ているがリーズナブルに泊まれる。そんな感じの宿屋だ。分かりにくいって?
なんと言うのだろうか、広々としていて、家具などもしっかりとしているが、高級宿のように煌びやかな調度品が置かれているわけでもなく、ただしっかりとした宿だな、と言った感じだ。
説明は下手なので、なんとなく察して欲しい。
僕は宿の部屋を取り冒険者ギルドへと向かった。
ワイバーンの事を聞きに行くためだ。
冒険者ギルドの前へ着くと慌ただしい雰囲気に包まれていた。
ギルドの中へ入ると酒場で盛り上がっているようないつもの雰囲気ではなく、誰かを囲って何かするかのように円になって冒険者が集まっていた。
僕は近くにいた冒険者に話を聞く。
「何か会ったんですか?」
「あぁ、まだ来たばっかりかい?」
「はい、今到着してワイバーンの事を聞いてギルドに来た所です」
「そうかい、まあ、君みたいな子供の出番はないが…。Bランクパーティーがワイバーンを討伐に行ったんだが、2パーティー共一人を除いて全滅したんだよ、それでその生き残った一人ってのが…そこで囲われている奴なんだが。目の前でパーティーが全滅していったんだ、ああなっても仕方ない。もはや廃人寸前で冒険者としてやっていくのは難しいだろうな」
「ワイバーンってBランク2パーティ入れば倒すのはそれ程難しくない魔物ですよね?」
「ああ、そのはずなんだがな。俺達もわかんないんだよ、なんで負けたのか。討伐して帰ってくると思っていたからな。今このギルドにいる最高ランクはBランクが二人だ。俺はCランクだが…ワイバーンでは戦力にならねえからな。もはやお手上げ状態って訳よ、王都の冒険者ギルドからAランク冒険者が来るのを待つしかない様子だなこれは」
なぜ、ワイバーンに負けたのだろうか。Bランクとは言ってもなりたてだったりパーティーとしてはBだが、Cランク程度の実力の者ばかりだったのだろうか?どちらにしても状況がわからないと動く事が出来ない。この人の言う通り王都の援軍待ちと言ったところだろう。
僕が倒してもいいのだが、今僕が何かを言ってもきっと笑われて終わりだろう。Bランクの証があっても、Bランク上位のワイバーンには一人ではどうにもならないと捉えられてしまうのだ。
とりあえず僕は受付に並んでみた。ダメ元で考えがあるのだ。
野次馬ばかりでほとんど並んでいなかったのですぐに僕の番が回ってきた。
「こんばんは、新規の登録でしょうか?」
「いえ、ギルドマスターに用があるので繋いで欲しいのですが」
「申し訳ございません、あいにくギルドマスターは忙しいのでアポを取られていない方はアポを取ってからとなります」
「では、今すぐアポお願いします」
「あの、新人の方にこう言うのもなんですが、ギルドマスターと言うのはそう簡単に会えるものではないのですよ?」
僕はギルド証を出した。先に出しておけばよかったのだが、出すタイミングがなかったのだ…
「Bランク…ルイフ様ですね。本物のようですね、失礼しました。しかし今は緊急時のためお繋ぎすることは出来ません」
これは難しそうだ…どうしようもないか。
無理に言ってもBランクではまたあしらわれるだけだろう。
僕は一旦宿へと戻る事にした。
どちらにしてもこの時間から狩には行けないので早く寝て朝また向かう予定だ。急ぎたい気持ちを抑えて僕は宿のベッドでワイバーンの事を考えていた。




