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episode:28




試験の日の朝…


僕はいつもより少し早く目が覚める。

昨日早めに寝たのもあるが、学園や冒険者など楽しい事がこれから始まると思うと体が動きたくて仕方ないのだ。


僕は少し運動をしようと服を着替える。

水魔法で作った丸いウォーターボールを宙に浮かしながら、顔を洗う。飲みやすく一口サイズくらいにしたウォーターボールを口に入れ喉を潤す。本来の水魔法ではここまで繊細な事は出来ないが、王都に来るまでの間にソフィアに魔法の事を習っていたので簡単な魔法くらいなら無詠唱かつイメージで出す事が出来るようになった。


昔はみんながこうやって魔法を使っていたと言うのだから驚きである。今の時代の人を見たらどう思うのだろうか。


宿の裏庭に行くと先客がいた。


「おはようございますガンツさん」


「おう、早いな、緊張して目が覚めちまったか?」


「緊張というより楽しみな気持ちで起きたという方が正しいですかね。せっかく早起きなので試験前に剣でも振ろうかと思いまして」


「そうか、付き合おう、少し時間もあるしペースをあげてやって見るか?しばらく会えない訳だしな」


「そうですね。頑張ってついてきます、今日こそ勝ちますからね」


僕は軽くストレッチを済まし、ガンツさんと向き合う。


剣は裏庭に備え付けられてる練習用木剣だ。

冒険者や騎士の人の朝練用に置かれているものだ。


「じゃあ、先制はくれてやる、かかってこい」


僕は振りかぶり一気に間を詰める。

剣をガンツさん目がけて打ち付ける。

ガンツさんは当然のように僕の剣を弾き、弾いた勢いで僕の横腹に剣を振るった。それを僕は後ろに躱し、隙の出来たガンツさんに近づき足へと剣を横に振るった。ガンツさんは驚きながらも横に転がるように躱した。


「これは驚いた。相変わらず成長速度が早いな。躱すのが遅れていたら今ので足がやられていたな」


僕はわざとガンツさんが避けれる隙を作った。

紙一重で避けたかのように見せるために。


父様と互角または上手くすればそれ以上に戦える僕にはガンツさんだと全力を出すと物足りないのだ。


能力値のおかげもあるが、やろうと思えば縮地のように、いきなり現れたかのような速度で近づく事も回り込むことも出来る。

スキルがないのであくまでも自分より遅い相手にしか通用はしない。



「今日は行けると思ったんですけどね」


「次は俺から行く、もう少しだけ本気で行くから気合い入れて受けろよ」


次の瞬間ガンツさんが凄い勢いで間合いを詰め振りかぶった剣を僕に向かって振りおろす。

僕は油断していて、もはや手加減をしていては避けれない距離まできていた。このまま剣で止めたら恐らく普通は手首を痛めてしまう。

僕なら力負けする事はないがそれでは怪しすぎる。


ここは、咄嗟に危ないと思って避けた感じでするか…


僕は瞬時に見切り、剣の軌道のすぐ横を通り躱した。

そしてそのままガンツさんの首元に剣を当てた。


「俺の負けだ。あれを躱すとは思わなかった…読んでたのか?」


「偶然ですよ。一か八か躱して突っ込んで見たんです」


「はははっ そう誤魔化すな。あの動きが出来て俺の攻撃を避けられない訳がないだろ。別に団長に告げ口したりはしない。何か理由があるんだろう。まー、騎士団長が10歳の息子に負ける訳にはいかんからな。ルイフ様の優しさか?」


誤魔化しきれなかったようだ。実力者にはやはり付け焼き刃の演技では通用しないようだ。

豪快に笑いながらガンツは視線をこちらに移す。

目だけは笑っていない…見極めるかのような視線が突き刺さる。


「僕では父様にかないませんよ」


「そう言うな、ここからは真面目な話だ。一度本気で俺と試合してくれないか?勿論ここでの事は誰にも話さない、俺にとってもルイフ様は息子のような存在だ。その成長を見せて欲しい。」


記憶が戻る前からお世話になっているガンツさん。

父様は忙しいのでライド兄様が父様の仕事を手伝うようになってからは、剣の稽古は主にガンツさんやシャルルさんにして貰っていた。

息子のように思っていてくれた事がとても嬉しい。

剣の腕前くらいであれば…問題ないだろうか?

ガンツさんは信用できる。言わないと言ったら恐らく本当に言わないだろう。例え父様であってもだ。


「わかりました…」


僕は魔物と戦う時はカラーボールや魔法を使っていたので、剣のみで今自分がどこまで強いのかわからなかった。いい機会かも知れない。

どこまで能力を活かせるか試してみよう。


「よっしゃ、じゃあ合図は…この石を投げて落ちた時でどうだ?」


「それで大丈夫です」


ガンツさんの顔つきが変わった。どうやら本気モードらしい。

そして、石が上に上がった。


落ちた。その瞬間僕は動いた。

勝負は一瞬のうちにつく。僕の動きがガンツさんには見えなかったのだろう、何が起きたかわからず尻餅をついている。


石が落ちた瞬間僕は素早くただ動き、剣を首元に当てた。

その風圧でガンツさんは尻餅をついたのだ。


「ここまでとはな…団長より強いんじゃねーか?」


「父様のような技術はまだありませんよ。教わる事もまだまだ多いです」


「そうか…」


ガンツさんはそれ以上言葉が出てこないようだった。

目の前の現実がまだ信じられないようだ。


先日まで圧倒してた教え子の剣筋すら見えないなんて…中々理解できるものではないのだろう。


「僕はまだガンツさんにも教わる事が沢山あると思っていますよ?」


「お、おう。また学園から戻った時、手合わせを頼む。動きくらいは見えるようになってやるからな」


切り替えが早い…やはりガンツさんは凄い人だ。

僕がいない間町のことは心配しなくても大丈夫だろう。


井戸の水で汗を拭っていると、トマが迎えに来た。

部屋にいなかったのでこちらに呼びに来たのだろう朝食の時間のようだ。


朝からハードな運動をしたのでとてもお腹が空いている。

食事は、お肉と野菜の挟んだパンにシチュー。そしてミルクのようだ。家より遥かに豪華な朝ご飯だ…寧ろ夜ご飯よりも質が高い気がした。


柔らかいパンにシャキシャキの野菜。

お肉は何で味付けしてあるのだろうか?少しスパイシーに仕上げられていてピリッとした味とみずみずしい甘い野菜が上手く絡んでとても美味しい。シチューもいつも飲むより濃厚で美味しい。


領地でもこれくらい食べれるように将来したいものだ。

父様が倹約家でなければたまにならこれくらい食べれそうなものだが、領民優先にしてしまう父様の性格上簡単にはいかないだろう。


井戸のポンプで儲かってもきっと町のために使ってしまうのだろうな…そんな光景が目に浮かぶ。


「ルイフ様、そろそろ試験会場に向かう時間です。準備は宜しいでしょうか?」


「問題ないよ、トマ。行こう」


僕は学園試験を受ける会場…

王都ルース学園へ向かうのだった。


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