episode:11
それからさらに一月ほど経過した。
投球練習も大分安定してきた。
今では的にしている木枠の円の中に10球中6球は入る。魔物相手には心許ないが最初の頃を考えてみると随分と良くなったものだ。
今日は父様の仕事についていく事になっている。やっと仕事が落ち着いたのだ。
すっかり忘れていたが、これからの快適生活には欠かせないイベントだ。しっかりと勉強しよう。
「父様お待たせしました」
「準備出来たようだな、では行くか。セレナ行ってくる」
「母様行ってきます」
「頑張るのよ、行ってらっしゃい」
執事のトマが馬車を用意し待っていた。馬車に乗り込み出発する。
「父様今日はどこは行くのですか?」
「今日は収穫状況の確認と、収穫祭の準備の話し合いがメインだな。何かアイディアがあれば言ってくれ。良いアイディアなら子供とは言え採用もあるかも知れん。その後は特にないから、行きたいとこがあれば言うといい。顔見せがてら各地を回ろう」
「はい、父様楽しみです」
馬車の動きが緩やかになる、到着したようだ。ここは、町の中心にある、会議場、何かを話し合う時に使う場所だ。
中は広く丸い大きな机の周りに椅子が並んでいる。
「今日は息子のルイフが見学をする、よろしく頼む」
「ルイフ様初めまして、この町の商業区の長をしております。ダンボと申します」
その後も紹介が続いた。
・祭事長をしているトムラさん
・収穫の取りまとめをしているシルンさん
・農業区の長をしているマックさん
「ルイフです。今日は色々と学びたいと思いますのでよろしくお願いします」
「噂に違わぬ、賢そうな子ですな」
噂とはなんだろうか?
「いえいえ、ビシバシ鍛えてあげてください。それでは始めましょうか」
どうやら始まったようだ。
収穫量は例年通り確保出来そうとの事。
収穫祭では、毎年恒例のフォレストボアの丸焼きを皆に振る舞う。
フォレストボアは大きい猪の魔物だ。
この町で出回っているお肉のほとんどがそれである。狂暴だが父様なら狩れるらしい。
月に一度町の実力者を集めて狩りに行っている。そのお肉が町の人に配られ食卓に並ぶ。1軒当たりの取り分はわずかだが、たまに食べれるお肉に皆父様に感謝しているそうだ。
「今年も5匹ほどの確保で良さそうだな、だが最近森で変な痕跡が見つかったそうだから、いつもより警戒して行く必要があるな」
痕跡?森に何か起こっているのだろうか。
それが自分の放ったスキルの影響だとは微塵も思っていないルイフだった。
「続いて今年のフリーマーケットの税率は昨年と同じく10%でいいでしょうか?もう少しあげても文句は出ないとは思いますが」
「問題ない、民に負担をかけるほど困ってはないからな」
10%と言う税率はかなり低い方だと聞いた。
他の町では、30%ほどが当たり前なのだとか。
「次は今年の催しものですね、前回は料理対決でしたが、今回はどう致しましょう」
例年は料理対決だったらしいが、みんな食べるのに夢中であまり盛り上がらなかったようだ。
「誰か案はあるか?」
何がいいんだろうか。囲碁とか将棋は良くある話だが、ルールをよく知らない。
オセロくらいならわかるが今から作って流行らせるには時間が足りない。機会があれば作って見よう。
「アームレスリング…」
何となく呟いただけだった。
だが、聞いていた者がいた。商業区の長のダンボだ。
「ルイフ様、今のアームなんちゃらとはなんでしょう」
「あ、いえちょっと思っただけなので気にしないでください」
「いえいえ、子供の知恵は時に大人の思いつかない事を思いつくものです。おっしゃってみてください」
父様を見ると、言ってみろと言わんばかりに頷いていた。
「腕相撲ってわかりますか?」
「確か東の方の国で、行われている競技と聞いた事がありますね」
簡単に説明をした。
手と手を机の上でお互いに組み合い、合図と共にどちらかが机に手を触れたら負けという簡単な遊びと説明した。
「ちょっとやってみましょうか、マルコ様は強すぎますので私とマック当たりが妥当ですかね」
商業区の長ダンボVS農業区の長マック
「では僕が合図したらお互いに力を入れてください、合図の前に力を入れるのは失格です」
僕の合図と共に戦いは始まった。
最初はダンボさんが優勢のようだ。
「まだまだ私もいけるようですね」
「うぬぬう、私だって、まだ本気を出していませんからね」
マックさんが少し押し返し始めた。
スタートラインで均衡している。
それを破ったのはマックさんだ。
「おりゃああ これで終わりだ」
「何を、私だってまだいけますよー」
ギリギリで粘るダンボさん、接戦だ。
だが、そこでダンボさんが力尽きた。
「よっしゃ!ダンボよ、歳には勝てんようだな」
「よもや、この私がマックに負けてしまうとは。歳を取ってしまったという事か」
楽しそうにやり取りしている二人に感想を聞いてみる。
「どうでしたか?とても楽しそうに見えましたが」
「これは盛り上がりますよ。ルイフ様」
「なんか楽しそうでずるいぞ。俺とも誰か勝負しよう」
「マルコ様とやったら皆腕が折れてしまいますよ」
渋々諦める父様。
「他に何かアイディアはございますか?」
「そうですね、男性と女性部門を分けてやるといいと思います。男性部門と女性部門それぞれに褒美を出すのです。共感出来る方がみんな楽しめると思いますし、ストレス発散にとても良いと思うんですよ」
「それは素晴らしい。早速それで進めましょう。よろしいですか?マルコ様」
「ああ、頼む。だが俺は参加出来ないのか?褒美を渡すだけではなく、参加もしたいのだが」
どうしても、父様は参加したいようだ。
「では、父様、優勝した者が父様に挑戦出来ると言うのはどうですか?どうせなら強い人とやれる方が父様の強さが際立ちます。僕はカッコイイ父様が見たいのです」
「はっはっは、1本取られましたなマルコ様。しかしルイフ様は将来が楽しみですな」
「こいつは賢いし努力家だ。俺もたまに驚かされる事があるからな」
こうして、催し物は腕相撲に決まった。
優勝者は父様に挑戦する。
景品はお祭りで食べるフォレストボアのお肉だ。大きな塊を景品にする予定だ。これは盛り上がるだろう。
正直自分が欲しいくらいだ。
家でも週に2回ほど食べれたらいい方なのだ。もう少しお肉が食べたい!
だが、大人に叶うはずもないので泣く泣く諦める。
話し合いも終わったので次に移動するようだ。
「ルイフ今日は助かった。しかし、あんな事どこで知ったんだ?家にも東の国の本などないはずだが」
聞かれるのは予想していた。
東の国でこの競技があったのは偶然だ。
前世の日本の知識から話したのだから。
だが抜かりはない。
「父様、東の国とは知りませんでしたが、物語の一部にこの競技をする話が出ていて、とても楽しそうな光景に思えたのを思い出したのです」
「そうだったのだな、ルイフは領主をやるのに向いてるかもしれんな。俺やライドは剣術は得意だが、こういうのは向いていないからな」
「そんな事ありません、みんな幸せそうにしているのは父様のおかげなのです」
「ありがとうルイフ。そう言う言葉を聞くから頑張れるんだ俺は。今から行きたい所へ連れて行こうと思うがどこか行きたい場所はあるか?」
「それなのですが、冒険者になりたいので鍛冶屋に行ってみたいのです。剣や防具を実際に作っている現場を見ておくのは勉強になると思うのです」
「わかった、現場を見れるかはわからんが行ってみよう」
馬車に揺られる事数十分、鍛冶屋に到着した。お店の中にはたくさんの武器や防具が並んでいる。
いつも木剣なので、鉄の剣でさえもとてもカッコよく見える。
「パモスさんいるかい?」
裏の鍛冶場と思われるとこから出てきたのはモジャモジャのおじさんだ。
「お、領主さんか今日は何かあったか?」
「いや、息子が鍛冶場を見たいと言ったので紹介兼ねて連れてきたんだよ」
「ドワーフ?」
「おう、その通りだ。俺の事を見てすぐわかるとはどっかで会ったことあるのか?」
思わず呟いてしまった。
人族以外を見たのは初めてだ。
「いえ、物語で見たのと同じ感じだったのでもしかしたらと思いました。ルイフと言います、よろしくお願いします」
「俺はパモス、堅苦しいのは苦手でな、ルイフと呼ばせて貰うぞ。鍛冶場が見たいと言う事だが鍛冶に興味があるのか?」
「はい、冒険者になりたいので、自分が使う剣や防具の事くらいしっかり知っておきたいと思いまして」
「こいつは驚いた。武具なんて使えればそれで良いってやつがほとんどなのに。気に入った、付いて来い」
どうやら見せてもらえるようだ。
父様はその間少し他の場所を回ってくるらしい。
鍛冶場の中はまだ少し熱い。
熱気がこもっていて息苦しさもあるくらいだ。
中型の炉の中はまだ少し火が付いているのか赤い光がメラメラと揺れている。
部屋の中はシンプルで鍛冶に使う道具や鉱石、それ以外は壁にかかっている作品などくらいだ。とても綺麗な剣に見える、腕の良い鍛冶師なのではないだろうか。
この人ならポンプも作れるかな?
「それで何を見たいんだ?」
「作る所を見せて頂くことは可能ですか?」
「別に構わないが中は凄い暑いぞ?子供が耐えられる温度じゃないと思うが」
「構いません」
「じゃあ、せっかくだお前ようの鉄剣を1本作ってやろう」
こうして、鍛冶場見学が始まった。
一言で言うと暑い、本当に暑いのだ。
この世界では換気扇などという便利なものもないので、熱気がもろに籠るのだ。
煙突や、空気を入れるための小窓はあるのだがあまり意味をなしていないのか全く暑さは収まらない。
流れる汗が目に入り痛い。
そろそろ限界だ。その時、鍛冶の手が止まった。
「よく耐えたな。出来たぞ」
そこには鉄で出来てるとは思えないほど綺麗な剣があった。これが僕の剣。
「頑張っていたからな、サービスで少しだけミスリルパウダーを入れておいた。斬れ味も良くなるしメンテナンスの頻度も減るから使いやすいだろう。ただ斬れ味がその分良くなったから気をつけて使えよ」
「ありがとうございます。大切に使います!それより、ミスリルパウダーとか高いんじゃないですか?」
「子供がそんな事を気にするな、余っていたのを少し入れただけだ。まだ使う機会もないと思うがメンテナンスが必要になったら俺のとこへ来い。使ってなくてもたまには綺麗にしてあげないといけないから月1くらいで顔を出せ」
「はい、ありがとうございます」
「終わったようだな、パモスさん息子に大変良いものを感謝します」
外で待っていたようだ。
「よせやい、お前さんの息子ならきちんと使ってくれるだろう。そう思っただけだ」
「それでも、俺もこの剣に何度も救われましたから」
父様の使っている剣もパモスさんが作ったようだ。かなり腕が良い鍛冶師に見えるがなぜこんな田舎にいるのだろうか。
「ルイフ、行くぞ。そろそろ帰宅の時間だ」
挨拶を済ませて屋敷へ帰るため馬車に乗る。
「良いものを貰ったなルイフ。だがまだ剣は早い。10歳の誕生日までは大事にとっておきなさい。ライドやエリンが剣を持ったのもその頃だったからな」
「はい、父様大事にします」
屋敷に着くと外で母様とライド兄様が待っていた。
「おかえりなさい、マルコ、ルイフ」
「父様おかえりなさい、ルイフもおかえり」
『ただいま』
家に入ると良い香りがする。
今日はお肉の日なのだろう。
ご飯を食べ始めると早速今日の事を聞かれた。父様があった事を次々と暴露していく。
「祭の催し物を、決めてしまうなんて凄いじゃないルイフ」
「それがルイフの剣かい?見せてくれ!」
「母様も参加出来れば良かったのですが、もうすぐ出産ですもんね。お体に障る事は出来ません。ライド兄様、見てください!どうですか?」
「ルイフはなんて優しい子なの」
「ルイフ、お前は勇者になれるかもしれない」
母様と兄様の溺愛ぶりが凄い。
武器を褒めてくれるのは嬉しいが
僕は勇者になんてなりませんからね?
それに
「ライド兄様それでは聖剣を持った村人ではないですか」
「なるほど、上手いこと言うなルイフは。はっはっはは、精進しろと言う事だろう」
この貫禄のある笑い方、とても15歳には見えない。兄様は前世がまさかおっさんというパターンの転生者なのですか!爽やかなイケメンスマイルからたまに出るおっさんの貫禄。まさかね?




