Episode97 結界解除(前編)
リドナーらと対峙したその後、シルバはライジンの石像へと移っていた。そして、既にその地下で結界の媒介となる石の1つを破壊していたのだった。
さて、シルバは今フウジンの石像の前。
彼は地下への階段を下ってゆき、分厚い石の扉に手を添える。さらに手先に魔力を貯めて、
「デストルクティオ!」
と唱えてみせる。すると、手と扉の接触面からヒビが広がり扉は崩壊してしまった。
すると、すぐに風の使徒・ジャイアントペガサスは襲い掛かる。まず始めにペガサスがけしかけられる。
「ちっ...よはり番人がいたかっ!人ではないが。」
対するシルバは呟き、右へ左へのらりくらりと奴らの突進をかわしてゆき、
「はぁぁぁっっっ!」
神宿しの加速を借りて勢いよく回転切り。同時に、空斬を放つことで一気に蹴散らす。
「っ...!?」
その最中、シルバは何か異変に気付き始める。だが、先方に容赦はない。彼の真価を悟ったか、ジャイアントペガサスは勢いよく突進をかましてくる。
「くっ...!」
そのあまりの速度に不意を打たれて彼は地面に飛び込む緊急回避をせざるを得なかった。
そうやって何とか突進をかわすと、シルバは前転してから立ち上がる。と、そこへ空からの竜巻。ペガサスが上からの攻撃を仕掛けてきたようである。
「はぁぁぁっっっ!」
見ると彼は怒号を挙げて、強力な魔力波を生む。が、出力不足だったようだ。竜巻はやがて彼を巻き込む。
「やはり...力が...。」
彼はそう言いながら風に身を任せている。そこへ今度は小さなペガサスの猛襲が押し寄せた。
「この風を利用してやるか。」
そこでシルバは1つ戦略を見出だす。まずはペガサスの猛襲を振りきらねばならない。彼は体を大の字にすることで竜巻に乗り、神宿しの力を持って体勢を維持。剣は外側へと付き出した。
グザザザザザッッッッッ!グザザザッ!
その刹那、連なり始める鈍い音。首を切り落とされてペガサスは次々と地に落ちていく。以降、ペガサスは彼に襲い掛からなくなった。
間もなく、彼はジャイアントペガサスの真上へ。
「待てよ...神族の石像を守ってるってことはこのペガサスは神霊だ...な。」
そう小声で囁き、神宿しの力を以てさらに上がり、剣は振りかぶる。その次は剣を振り下ろすとともにそのベクトルを変換し、矢先をペガサスの頭と結ぶ。
「おらぁぁぁぁッッッ!」
ボゴォォォッッッン!
そして、轟音を響かせペガサスは勢いよく地面へ叩きつけられた。シルバは反作用を利用して後方回転し、そのまま土煙の中へ。煙が止むとそこには巨大なクレーターがあって、その上には血をドクドク流すペガサスがいた。
「流石に神霊を斬るのは気が引けて剣の腹を使ったのだが、やはりそれでも衝撃が強すぎたのであったか。これは罰の1つや2つ当たっちまうかもな。まぁ良いだがな。」
そう言って、ペガサスには全くもってのマッチポンプだが高度な回復魔術「クラーティオエアリアル」を唱えてから部屋の奥へと急いだ。
そして、その先に1つの霊源(魔力の中心となる地点)を見つける。シルバはそこの真上に触れて続く霊脈(魔力の流れ)を辿っていく。何らかの魔術的隠蔽工作のようだが構造が複雑すぎて、紐解くのも難しい。
しかも、不運なことに。先ほどまでの異変と深く関わり、彼と強く敵対するものが現れた。クロスサイドである彼の敵と言えば1つしかない。
「そこで何をしている、欠陥品っ!」
「貴様か...。」
欠陥品と呼ばれて苛立ちも感じず、シルバは立ち上がる。
「いい加減、私を欠陥品と呼ぶのは止めてほしいのだが...。」
振り替えると、そこには軍を連れたザグレスとトロントがいた。先程彼を「欠陥品」と称したザグレスは
「当たり前だろう。貴様は神の加護を受けておきながら、ドュンケル様を信仰しようともせずっ!"邪神"と罵っているではないかっ!」
と怒る。そんな彼と対照的に、
「事実だろう。正真正銘、あの神は邪神だ。世界を作り上げた創造主様ってのは心得ているが、無信仰を悪とした時点で、ヤツも悪だ。それに、生憎私が信仰しているのはこの身に宿るビルガメスただ1人なのでね。」
とシルバは冷たく言い放った。その言葉にザグレスは言葉を失うほどに怒りを覚える。
「ところで、トロント。やはり、私の力を弱めていたのはお前らなのだな。」
シルバが聞くと、もうこいつはこういう奴なのだから仕方ないと割り切ってトロントは答える。
「ああ。こうでもしないとあなたには勝てる見込みすらないのでね。とある魔道具店で使える道具を拝借してきたんだよ。」
「そうかよ。なら、苦戦は不可避であるな。」
そう言ってシルバは先方を睨み付ける。
「やはり、欠陥品の貴様とは話も出来ん。貴様ら、かかれっ!タロットの加護があるのだ!無駄死には許さんっ!」
と、突然ザグレスは指示を出す。すると、軍は一斉に手の甲を短剣で突き刺し、揃って凶虫に変化する。
ドゴゴゴゴゴォォォォォッッッッッ!
すると、轟音が辺りに響き渡り像も天井も貫いて黒い柱が落ちる。そのせいで、数多の瓦礫が流星のように降る。
「ちっ...。」
当然シルバは後ろへ退かざるをえず、
ギュゥゥゥッッッン!
という音が聞こえたかと思うと、ザグレスが自前の暗黒砲台で彼らに向かって落ちた瓦礫を吹き飛ばしていた。が、冷酷なことに軍を守るようなことはしない。
グシ、グシ、グシ、グシ、グシィッ!
そのせいで、凶虫たちは次々と潰され、血を飛沫いて、死んでいく。
とは言え、減ったのは全体の1/4にも満たない。ザグレスからすればそれぐらいは必要な犠牲であるようだ。