Episode87 融合石
●今回初めて登場するアイテム●
融合石
魔のタロット『双子座・昼』、『双子座・夜』を解析し導き出された古代魔術をクリスタルに付与した物。基本的な効果は同じだが扱えるのは生物のみという制約と、一方的に融合できてしまう相違がある。マリアの父が発明。
シルバさんとの手合わせを終え、その森から車を進めて数十分。僕たちはボロボロになったマリアの店へ寄った。その店の商品から役立ちそうなものを持ち出すためである。
「しっかし、こりゃひでぇな。」
屋根は所々吹っ飛ばされ、ドアは崩れ、あっちの窓は消し炭になっていると言う店の有り様にバーロンが声を漏らす。
「おかしいわね、あんな巨人ごときにあんなことは出来ないはずなのに。」
対するマリアは消し炭になった窓の方を見ながら言う。
「確かにあの巨人が銃器を持ったりしてない限りは...。」
僕は言いつつ、その窓の前に立ちよく見てみる。
その焼け跡には見覚えがあった。以前会ったあの能力者、確か暗黒砲台であったか。奴が黒の光線を木に放った時によく似ている。
「いや、違うぞマリアっ!」
気付いた僕は大きく叫ぶ。と、マリアは飛び上がって
「なぁにっ?」
と少しキレ気味で言ってくる。
「これは恐らく暗黒砲台の奴の黒い光線の跡だっ!」
対する僕は気付いたことをそのまま伝える。憶測ではあるが、実物が目の前にあるのだから信憑性自体は高いはずだ。
「そう、だとしたら商品がいくらか持ち込まれているかもしれないわね。ドアには結界を施しておいたし、窓もちょっとやそっとじゃ壊れないはずだけどあんなのぶちこまれたら流石に壊れるわ。」
マリアはそう言った後、結界を解いて
「さぁ、入って。」
と言う。僕たちはそれに従い中へと入る。
「やっぱり、商品が1つ無くなってたわね。」
久しぶりに見るマリアの店の不思議な道具に目を取られていると、マリアが奥の棚でそんなことを言う。
「『魔のタロット』が消えてるわ。もし、奴等に渡っていたとしたらかなり厄介ね。タロットには2枚で対になった『双子座』ってのがあるの。2つの物体、物質をその性質ごとくっつけてしまう代物なんだけどね。」
とさらに言う。
2つの物体、物質を性質ごとくっつけてしまう代物。つまり、融合してしまうということか。もし、あの暗黒砲台たちがそれを手にしたならば、恐らく傍にいた身体変化と融合し、高威力の黒い光線は放つし、身体も変化させるということも出来てしまう。
「それにね、『無視論』ってのがあるんだけど、それは神様の持つ力を弱めてしまう。リドナーのは半神だけど、それでもそれ使われて影響が出ないとは思えないわ。」
つまり、融合体の脅威に加えて、神宿しを最大発揮するというのも不可能になる。
「そ、それは厄介だ...。」
バーロンに鍛えられただけあって基礎能力からその応用までは行き届いているはず。が、それだけでは押さえ込めない能力者などの脅威に関しては神宿しに頼りきりだったのである。
「それより、マリア。この融合石?ってのは何?」
不安な気持ちに苛まれる僕の他所でテーラが棚に置かれた十数の石を見ながらマリアに言う。すると、
「融合石?あぁ、ジェミナイズ・ストーンのことね。」
とマリアは言いつつ、テーラに寄った。
「それはね、さっき言った『双子座』のタロットを解析して導き出した、古代魔術をクリスタルに付与したものらしいわ。」
「らしい?」
「ええ、私のお父さんが発明したの。」
「お父さんってどんな人だったの?やっぱり、魔術に詳しかったのかな?」
「ええ、お父さんはスカーレット魔法帝国に魔道具解析として派遣されるほど魔術に詳しい人だったわ...。もう亡くなってるけど。」
やり取りの中のテーラの言葉にマリアは少し暗い表情で言う。
「ご、ごめんなさい。マリアの家のこと、知らないばっかりに...。」
続けて、罪悪感に苛まれたテーラも暗い表情でマリアに謝る。対するマリアは
「べ、別に良いのよ!知らなかっただけんなんだから。私も今落ち込んでも仕方ないと思ってるし。」
と作ったような笑顔で行った。
「で、この融合石ってのはどんな効果があるんだ?」
「基本的には『双子座』のタロットと同じよ。ただ、これを身につけるのは生物のみと言う制約があるし、その生物1匹でも望めばこれを身につけた近くにいる生物全てと融合する。」
話を変えようとバーロンが聞くと、マリアはそう答えた。
「10個ぐらいあるんだしブレイズドラゴンたちに着けてみるってのも良いと思うんだけど、どう?」
その説明を聞き思い付いたことを僕は言う。炎、水、木、光のエレメントドラゴンが組み合わされれば強大な力を得られると思ってのことだ。が、同意なしにするのもどうかと思ったので聞いたのだ。
「俺は良いぞ。もし、奴等と対峙した時抑えられたリドナーの力をおぎなえるかもしれんしな。」
「私もよ。」
バーロン、テーラは二つ返事でOKだ。
「まあ、そう言うことなら私も同意ね。」
マリアの方も渋々ではあったがOKをしてくれた。
そして、僕たちは融合石4つを持って、店を出る。その際、マリアが結界を張り直しその内に僕とバーロン、テーラは久方ぶりに召喚魔石をペンダントから取り出し地面に叩きつける。
すると、赤、青、緑の巨大な魔方陣が現れその中から3匹の龍が現れた。
グォォォッッッ!
内1匹は赤肌で口から火の粉を吐き、
キュォォォッッッ!
1匹は青肌で口から霧を吐く。
グゴォォォッッッ!
あとの1匹は緑の肌で風を吹いた。
「じゃあ、私もっ!」
と今度は結界を張り直したマリアが現れ、地面に召喚魔石を叩きつけた。現れた魔方陣の色は金色。その中から黄金の龍が現れ、
ギュォォォッッッ!
と咆哮した。皆久しぶりの外の景色に気が湧いているようである。
「しっかし、久しぶりよねぇ。この子たちを見るのって。」
「えぇ、リドナーが神宿しに目覚めてからはそれに頼りっぱなしだったから。」
「俺も久しぶりだ。」
と、マリア、テーラ、バーロンが言う中で僕は
「僕は少し前に見たよ。エフィストと戦う時に」
と言う。
「そうだったのね、知らなかったわ。」
それに反応してくれたのはテーラのみだった。
そうして、僕たちは彼らエレメントドラゴンたちに融合石を身に付けるさせるのであった。これからの戦いのために。