episode85 神宿しVS神宿し(後編)
僕は空中で加速し、剣を凪ぐ。
キィィィッッッン!
防がれたので退き、杖を取り出す。
「シャイニングインパクト!」
そう唱えて、光の爆発を繰り出さんす。
ピカァッ!
と、そこで目が眩むほどの閃光が走った。来るっ!直感的にそう思い、防御の構えへ。だが、攻撃は予想もつかない所から来た。それは、真下。
「くそっ!」
間に合わないと僕は悟り、足で受け止めるしかなかった。
「うっ...!?」
かなりの激痛だが傷口を閉めれば大丈夫なはずだ。
「やぁぁぁっっっ!」
と叫びつつ足を振り回しシルバさんを振りほどく。次に
「ヒール!」
と唱えて傷を塞ぎ、さらに斬りにかかる。
が、空振った。見ると、シルバさんは真上にいる。いつの間に移ったかは分からないが、僕は上に向けて加速する。とは言え、そだけでは駄目なので力を少し後ろへ逃がすようにする。と、回転を孕みながら、体は上に向かうのである。
「...。」
三半規管が麻痺してきたがもう少しの辛抱。僕は最後まで回り続け、
キキキキキィィィッッッ!
と連なる音ともに手応えを感じた。見ると、シルバさんがかなり怯んでいる。
その内に三半規管も正常になっていた。普通ならあんなに回転するとすぐに回転しないのだが、もしかしたらこれも神宿しの唱え恩恵なのかもしれない。僕は思いいつつ、加速し彼の上を取る。
「やぁっ!」
さらに、上から下への一振り。
「ぐっ...。」
重力の力も借りて彼は叩き落とされ、地面に激突する。
「やぁぁぁっっっ!」
次に僕は回転の向きを前に変え、次は真下に落ちる。
「それを待っていた。」
すると、シルバさんは言って地に寝そべったまま剣を振りかぶり、横から僕の首を狙う。僕はその前に何とか体を反って横回転へと変更し防ぐが、そこで連撃は途切れてしまった。
「これほどまでの連撃を繰り出すか...。リドナーよ、そなたと手合わせが出来て嬉しく思う、ぞ!」
シルバさんは言いつつ、剣を打ってくる。
キィィィッッッン!シュキィィィッッッン!
僕は防いでは振る、防いでは振る。時には退き、時には盛大に剣を振る。
「全く神をその身に宿しているなんて本当に反則よね。」
そんな高速戦闘を眺めつつ、マリアは言う。
「ああ。早すぎて、何かがぶつかっているのは分かるが、どちらがリドナーでどちらがシルバか分からん。」
バーロンは返し、テーラ、ニコラス、フレイアも深くうなずいた。
「ところで、この戦いリドナーが勝つのかしら?勝ったら奴等の情報を聞き取れるし、出来ればかって欲しいんだけど」
テーラが言う。バーロンは
「きっと勝つさ...。俺が鍛え上げたんだからな。」
と自慢気に言う。
「そうよね...。リドナーを信じるわ。」
その言葉に彼女も励まされたようだ。
そして、僕は次なる切り札を繰り出していた。ここが森であるからして出来ること。バーロンに鍛え上げられた洞察力と戦略性が今に活きてくる。それはおそらく、シルバさんも予想外のこと。と言うよりは、予想しづらいことだ。
キィィィッッッン!
次に剣が交わり退く際、僕は少し後ろの木に足を揃える。
シュタッ!
次にそこを離れて加速し別の木へ。またそこを離れて別の木へそんなことを繰り返しながら、どんどん加速度を上げていく。しかも、飛び移り方は不規則に。
「木々の間を高速で移り、攻撃の方向を悟らせない作戦か...!面白い、かかってくるが良い!」
あちらもあちらで正確に分析してくる。
「じゃぁ...。」
僕は呟き、幾度が木々の間を飛び回り、シルバさんの真後ろへ。そこにあった木を思いっきり蹴り飛ばし、急加速。が、
「そこかっ!」
と彼は叫び...。
キィィィッッッン!
と、あっさり防がれた。見ると、彼は目を瞑っている。おそらくだが、視界を遮ることで聴力を覚醒させてわずかな空気の振動を元に僕の来る場所を編み出したのだ。
「凄い...。」
とは言ってみたもののまだ止めるわけには行かない。今度は木々と木々の間と言う平面機動ではなく、空と地面も加えた立体機動へと移る。
「次は上下も加わるかっ!だが、結果は変わらんっ!」
僕は空から斬り出す。
キィィィッッッン!
が、防がれる。次は木から。
ガキィィィッッッン!
また、防がれる。次は空からのフェイントをかけての、木から。
キィィィッッッン!
若干反応は遅れたようだが、結局は防がれる。
「シャイニングシュート...。」
とたまに魔法を放つ変化球も入れて見たが、簡単には防がれはするし、魔力だけが削がれてむしろ逆効果だった。
だが、こちらにはまたカードがあった。『欺きの真剣』と呼ばれるそれは、かつて僕を鍛える側であったバーロンをも負かしたことがあった。
タンッ!ギュゥゥゥッッッン!
それから何度か天と地、木と木を飛び交っては飛び交い、僕はついに行動に移る。
「おらぁぁぁっっっ!」
僕はあえて剣を振りかぶり、声を張り上げる。
「何を企んで...。つ!?」
シルバさんはそう言って残像の方へ剣を向ける。もちろん、残像なので手応えはない。次の瞬間に消えた残像を確認し、剣を戻してくるがもう遅かった。
「これが『欺きの真剣』っていう剣技、ですっ!」
僕が繰り出した真の剣は彼に深く傷を作った。
「フォルテトラッタメント!」
シルバさんは退いた後、そう唱える。傷が癒える所から見るに回復魔法だが、どうやら「スーパーヒール」並みの物らしい。
「私にここまでの傷を与え、この回復術を使わせるとは...。あれは、残像を利用した目眩ましか?」
それは彼の言葉からも裏付けられる。が、相変わらずは判断力はかなり優れていた。
「じゃあ、こちらも本気を出させてもらうぞっ!誠に申し訳ないが、今までは力を8割ほどに手加減した。だが、それでは勝てぬと理解した!」
そして、シルバさんはこちらへ突っ込んでくる。たったの2割増しと言ってもその違いは歴然をだった。
「速いっ!」
キィィィッッッン!
僕は何とかそれを防ぐが、かなり怯む。さらに、そこへ一撃、二撃、三撃と来る。
「くっ!」
キィィィッッッン!キィッン!キンッ!
僕は何とか耐えて全て防ぎきるが、攻撃をする暇がない。
そんなこんなで、シルバさんが勝ってしまう。
それは、次の次、そのまた次の七撃目。防ぎ続けて腕が疲れてきたところを狙って、シルバさんは思いっきり斬り込んで来た。「うっ...。」
それを防がんとして剣を前に出すが、力が籠らずしかも剣は弾かれてしまった。
「私の本気を引き出したのはそなたが初めてというわけではないが、本気を出してここまで手こずらせたのはリドナーよ、そなたが初めてだ。本当に強者であったぞ。」
そう言って、シルバさんは僕を軽く蹴る。それだけで、かなり吹っ飛ばされ地面しばらく滑った。
「リドナー!」
「リドナー!」
「う、嘘...。」
「リドナーさん。」
「リドナー!」
皆の声が聞こえる。まさか、ここまで怖い思いをさせられるとは思っていなかった。一瞬本気で殺しにかかってくるのかと思った。
シルバさんは若干笑みつつ、剣を振りかぶり首を狙いに来ていたのだ。顔が痛かったので反応も鈍り、本当に死ぬかと思った。そこで、
「そなたのような強者を私が殺すわけがなかろう。私の敵はドュンケルサイドの者共のみだ。」
と彼が言って、もうすぐで首を斬るという所で剣をピタリと止めた。そのコントロールも完璧で首筋には新しい傷は一切無かった。
シルバさんも僕にかなり驚かされていたようだが、僕がシルバさんに驚かされたことの方が恐らく多かっただろう。