Episode72 善悪を裁く者
★今回初めて登場する怪物★
ユーベルゴーレム
黒く巨大なゴーレム。凶暴性と破壊力を兼ね持つために少し昔、太古の採掘場へと封印された。善悪により敵対か協調かを判断する。
さて、答え合わせの時間だ。使うのは向こうにある出口からの光と青銅製の像。とは言え、僕の予想では像の方はただの像ではないのではあるが。
あの時、ニコラスは像は動かせると言った。回転させられると暗示した。その上には丸いものがあり、素材は同じで作られたのは太古の昔。青銅で作られ丸く太古の物、そんなものは銅鏡ぐらいしか思い付かない。中国から日本を経由して伝わったその鏡はこのバッファル島では王族や貴族のための鏡として使われていたのである。それが、その像の正体。おそらく、あの採掘場は王族か貴族かが作り、侵入を防ぐ細工を施したのであろう。侵入者が謎を考えたり、解いたりしてる間に捕まえに行くという寸法である。
だが、その機能も今は失われている。
「さて、片っ端から磨いていくか...。」
僕は少し先まで進んでそう呟く。答えは出口からの光をこの銅鏡でクリスタルにまで届かせるということだ。その達成には錆などは取り除き、鏡の表は全て磨いて鏡として機能させることが必要である。僕は
「ポリッシュ!デスケーリング!ロングリーチ!」
と範囲増幅の魔法と共に研磨の魔法にて銅鏡の表面を磨き、錆取りの魔法にて全ての錆を取り除く。
それを歩きながら3度程繰り返し、準備は完了し出口も見えてくる。あとは光の反射を使うだけだが、
「イルミネーション!」
と唱えて、鏡が鏡として機能しているのか全てで確かめ、全て機能すると知る。
それが終わればまたもとの場所へ戻り、外からの光を鏡で反射し斜め右の別の鏡へ、その鏡から受け取られた光を今度は斜め左のまた別の鏡へ、さらにそこから斜め右の別の鏡へ。それを繰り返し、光をジグザグに動かしていき、仲間の元へ。
そこにあった鏡を最後に調整し、クリスタルに向けて光を当てる。すると、伸びる線には魔力が流れ込み、歯車が回る。と、さっきまで固く閉ざされていた石の扉は上に開き、暗闇へと消えゆく階段が現れる。
それを見てマリアは、
「イルミネーション!」
と唱えて、照明を生成。僕たちはその輝きを便りに奥深くまで階段を下り、やがてクリスタルにより青く輝くところまで来る。そこにはもちろん古びた採掘施設やらもあったのだが、色々と生活の色を見ることが出来た。
錆びたベッドの骨組みに鏡のフレーム、洗い場の跡や蜘蛛の巣だらけのトイレまである。
「何だここは?誰か住んでいたのか?」
僕が小首を傾げると、マリアがある部屋の戸棚を指差し、
「見てあれ!王冠じゃない?」
と言う。その指の先にはくすんではいたが確かに金色の王冠があった。
「と、なるとここはどっかの王族の潜伏先だったのか?採掘場という建前で誰かが匿われていたと?」
僕が考察したことを告げると、バーロンには
「そうかもしれないな。」
と言われる。
その声を他所に僕は気分が悪くなるのに構わず、「イビルリフレクター」を解除して、邪気を追っていく。内にその邪気の先がこの真っ直ぐ先と右の奥との二手に分かれる。僕は取り合えずそこから右の方へ進む。
僕たちがその先で見たのは色褪せた壁画が多数並ぶ部屋とその奥に見える黒い土人形。そこからは『分霊の書』に負けない程の邪気が漏れ出ている。
僕にはその姿に心当たりがあった。その名はユーベルゴーレム。それが発見された際は魔神アークの件で疎かになっていたために、後からアレクから聞いたのだが、どうやらここら辺の遺跡から仮死状態の黒いゴーレムが発見され、後日状態から解かれて、暴走をし始めたらしい。そこで、テールン地区の人々が討伐に向かったのだが皆返り討ちに、最終的には何処かへ封印したと言う話である。ウォルト様からはその際に奴には善悪を裁き、善には敵対を悪には協調を行う性質があるとも聞いていた。
「なるほど。どうりで邪気が濃かったわけだ。さて、となればあの歯車を無理矢理外したのは封印した人たちかもしれないな。一般人が勝手に奴を解放しないようにと。」
僕はそう呟く。共に奴の目が赤く輝き、その足を踏み出した。
「マズいっ、下がれ!」
その瞬間を視認した僕はそう言って、5人と後ろに下がる。そこにユーベルゴーレムは突進してその横の壁には窪みが作られ、その天井にあったクリスタルは全て散る。
グゴォォォォォ...。
すぐにこちらを向いたゴーレムが唸る。どうやらと言うか当然というか奴は僕たちを「善」と判断したらしい。コイツをまた野に放つ訳にもいかないし、こんな奴を放置して書を探すのに集中など出来ないかもしれない。
皆が武器を構え、戦闘体勢にはいる。満場一致でこいつと戦うことを決意したのである。