Episode6 とある書物と9人の能力者
開始から約10分。全ての準備が整った。「エクステンダー」が掛けられたモニター。侵入時、タイムロスなく、お互い触れ合わずに「モーメント」が全員に発動するように、魔力を込めたチョークで書いた魔法陣。ちなみに、「モーメント」と唱えると、館ごと瞬間移動してしまいそうなほど強力な物になってしまった。おそらく、魔力の込めすぎが原因だろうが、僕は起こってしまったことは仕方ないと開き直った。
しかし、歪みと言っても、そう頻繁にやって来る訳ではない。だから、僕たちは黄昏界やドュンケルについてアレックスさんにさらに、聞くことにした。
「ドュンケルって神なんですよね?どうやって、倒すんですか?」
もちろん、地下にいた人たちの救出が優先だが、気になったので僕は、アレックスさんにそう聞いた。すると、こう言われた。
「あぁ、ドュンケルを倒す以前に7冊の『分霊の書』の破壊が必要だね。それらを破壊しない限り、ドュンケルは生き続ける。」
「分霊の書!?それって、どんな本なんですか?」
「そりゃ、色々さ。法則などは一切無い。」
「じゃぁ、どうやって探せば良いんですか?」
「そんなの簡単さ。邪気が立ち込める場所を見つけて、その気を辿っていけは良い。だけど、町中にあることはまずあり得ないね。ドュンケルだって、そんな所に隠すほど、バガじゃありませんよ。」
「つまり、森の奥とか離れとかにあるってことですか?」
「そうだな。でも、気を付けろよ。きっと、ドュンケルは破壊されないよう、様々な細工をしているだろうから。」
「わかりました。気を付けます。」
続いて、僕はアレックスさんになぜ瞬間移動しても魔力が減っていなかったのかに質問した。すると、
「あっちの世界には、9人の能力者がいるんだよ。私はその内の1人なんだ。ちなみに、能力は転移。君の瞬間移動って言うのと役割はだいたい同じ。でも、行き先の座え掴めれば瞬間移動のように障害物があることなどは関係ない。あくまでも、転移だからね。それに、自分だけでなく物の転移も出来るんだよ。」
彼はそう言って、机の上の紙とペンを一瞬で部屋の隅に転移させて見せた。
そして、時がやって来る。
「結界の歪みの開始を確認!今すぐ、魔法陣起動を!」
アレックスさんがモニターを見ながら威厳ある指示を出す。僕は、
「了解。」
と言い、魔法陣起動のための呪文を唱え始めた。テーラとマリアはお風呂に入っているし、バーロンは庭で剣術を磨いていたて、その部屋に僕がいなかったのでこの方法を...って、待てよ?お風呂..?はっ!こ、これは、マズい...!本当にマズい!逃げねばっ!
しかし、気付いた頃にはもう遅かった。呪文の途中で、マリアの杖で叩かれ、
「人がお風呂入ってるってのに、何で勝手に起動しようとしてのよっ!?」
と怒られた。僕は、
「いや、だってチャンスは今しかないかもだし...。ていうか、館ごと移動するんだから問題はないんじゃ...?」
と抗議するが、聞いてくれるはずがなかった。
「万が一のことがあったらどうすんのよ!悔い改めなさい!」
僕はマリアに頭を思いっきり杖で叩かれ、その痛みに耐えながら、こらなら触れ合う方法を選んだ方が良かったと思いながら、今度こそ呪文を唱え始めた。
「我がサドリールのリドナーの名において、彼の世界を覆さん!今こそ、我が覚悟に応え、彼の陣よ起動せよ!」
と、詠唱が終わった瞬間、辺りが光り始めた。どうやら、無事に起動したようだ。
「プロテクト!ロングリーチ!」
それから、まず僕はそう唱えて、巨大な結界を形成する。そして、本命の呪文を唱える。
「モーメント!」
すると、瞬間移動が始まった。