Episode55 邪悪と化した海龍
★今回初めて登場する怪物★
リヴァイアサン
戒めの入り江の主。ドュンケルの掛けた呪いによって凶暴化し、ドュンケルの強制眷属として入り江を巡回させられている。別名・海龍とも呼ばれる。
もう、時間も遅く空はさらに暗い。この暗さではエイレーンたちの不意討ちしてくれば対応が遅れ、遮蔽物が多い森の中はかなり不利である。そこで、僕たちは海から少し離れた砂浜の上へテントを張ることにした。
ザザー...ザザザーン...ザバーン...
静かな浜に波が押し寄せては引き、押し寄せては引きする音が響いている。ずっと前から続けている、精神統一。目を瞑っており、波の音が際立って聞こえた。だが、すぐに自らの魂、そこに眠る半神へと意識が移った。傍から見ると意識を失っているのとほぼ同義。僕はそんな状態で半神へと今日も語りかける。
「おはようございます、ヘーミテオス師。」
「おはよう、我が弟子・リドナーよ。」
挨拶と半神を師匠とする意思。それが、一番大切であり、ある時から開始前、この挨拶を必ずするようになり、やっと色々なことを教えて貰えるようになった。
まずは、基本的な剣術から。初めの方は基礎は完璧だから、応用を教えてほしいと思っていた。だが、そう思う度に途切れ、そこで基礎から学び直すことが大切だと知る。次いで、応用へと進み、次に己を過信せず不信もせずと言う原則を叩き込まれた。
それらも全て終わるとたくさんの課題が出されるようになった。その課題はどれもが様々な状況を掴み、自分で考え、臨機応変に対応し、その結果をシュミレーション。それを見て、成功すれば次の課題へ、失敗すればもう一度と言うものであった。
「この場合、どうするか答えよ。」
師の言葉とともに頭の中へ直接今日の初めの課題が飛び込んでくる。それは、相手の剣が自分の首筋へと当たり、血が滲んでいる。つまり、頸動脈が切られる寸前と言う最悪な状況であった。僕はすぐに思い付いた。「ディザスター・ブレイク」を唱えれば良いと。だが、勢いよく剣が吹っ飛び頸動脈を切られて失敗。次に思い付いたのは反対へ首を傾け、体も傾けるというもので、結果は成功。次の課題へと移った。
と、そんな風に俺は失敗しては成功し、時には一度で成功し、時には失敗を続け、今日の課題を全て終えた。そこで、師なこう言った。
「ここまで来れば良いだろう。我が力の断片をお主に貸そう。」
「ありがたきお言葉。」
僕が礼を言うとともに胸の内から力が沸き上がる。それから、僕は
「ありがとうございました、ヘーミテオス師。」
最後に我が師への礼で締めて、精神統一を終わらせた。
ザザー...ザザザーン...ザバーン...
目を開けるとそこには不変の静かな海があった。テーラ、マリア、ニコラスは既に寝ておりテントから微かな寝息が聞こえる。少し先にはバーロンが座り、この静かな海を眺めていた。僕は彼から目を離し、僕も海を眺めた。
「...!?」
その時、何やら黒い影を見た。
黒い巨大な影。その影には見覚えがあった。いつかの課題でソイツは現れ、この状況に陥る時何をすべきかを学んだ。
「起きろっー!何かいるぞ!」
まず、仲間がいれば仲間を呼び、状況を簡単に説明し、集合を掛ける。続いて、自分は剣を抜き先に戦闘体勢に入る。仲間がいなければ初めの手順は踏まずとも良いが、今はその状況ではない。
やがて、みんながそれぞれの武器を持ちやって来た。
「何かいるって...何もいないわよ?」
テーラはナイフを構えつつ言う。
「いや、確かに僕は見た。」
僕はそう言うしかない。
「ねぇ、本当に大丈夫?最近、瞑想しかしてないけど...。」
マリアも言う。かなり腹立たしかったが何とか抑えて、
「神宿しの力の1つだよ。」
と言った。
「それなら、私たちには正誤なんて分からないわ。信じるしかないわね。」
テーラが納得し、次にマリアも納得した。
ザッバァァァッッッン!
そして、束の間。海の中へ黒い影が現れたかと思うと、水を押し退け、波紋を産み出し、水飛沫を飛ばした。影はうねりながら暫く上へと伸びていき、あるところでこちらを向いた。禍々しい瘴気にその間から見える腹の蒼。背中に顔、角。その全てが黒く染まり、まるで悪魔のよう。さらには、こちらを見つめる白く輝く目。邪悪な雰囲気のせいかその目だけがやけに際立って感じられた。