Episode53 艦隊壊滅
◆今回初めて登場する人物◆
シルバ(25)
黄昏界の住人。リドナーに同じく、強者の血筋を引き継ぎ、神宿しでもある。リドナーの神宿しの波動に釣られて1年程前にこの世界にやって来た。魔剣を持つ。
グレイス(31)
黄昏界の住人。ベルセルク艦隊の母艦・ベルセルク号の船長であり、ベルセルク艦隊の最高総司令官。魔剣を持ち、皆からの信頼が深い。シルバとはかつて仲間であった。
●今回初めて登場するアイテム●
ルシフェル
シルバが愛用する魔剣。持ち主を選ぶのが特徴で、選ばれた者しか力を引き出すことは出来ない。別名・堕天使とも呼ばれる。
エレボス
グレイスの愛用する魔剣。最強最悪の魔剣と言われており、グレイスがしているように常に力を抑えていなければ、持ち主の自我を奪ってしまう。別名・破壊神とも呼ばれる。
ドーン!ドーン!ドーン!ドーン!ドーン!
船を漕ぎ出でてから、暫し後。体勢を立て直した艦隊がこちらへ砲弾が放たれた。しかし、さっきから持続してる障壁が僕たちを守ってくれるので、その弾を海の中へと落ちていった。
そんなこんなしている内にあの本がここまで押し寄せる。その勢いと波に押され、ヤツらの船はあらぬ方向へ流され、時にはぶつかり合うが、それにも構わず大砲をこちらに向けて撃ち放ってくる。
バッシャッーン!バッシャッーン!バッシャッーン!
だが、そのほとんどが不発し、少し先で高い水しぶきを上げ、濡れた本を分解する弾くかをし、弾かれた本は一斉に海へと戻り、わずかな波紋を生んだ。
ドーン!バッシャッーン!バッシャッーン!
つまに、当たる弾も障壁に阻まれ、僕たちには一切のダメージを与えられない。
そして、急に砲撃が止む時が来た。何やらあちらが騒がしい。何が起こっているのかは分からなかったがこれはチャンスである。
「急いで漕ぐんだ!」
僕は言う。乗ってから続くバーロンの掛け声の速度はかなり速くなり、同時に船の速度も上がった。そうやって、岸に付くと、後ろからはもう本は押し寄せて来ず、向こう側にいたはずの蝶たちが全くいなくなっていた。
* * * * *
その時、艦隊の遠くで高速の剣筋が空を交った。その中途には、蝶たちがいたが、次々と斬り裂かれ、羽を散らして落ちていった。それは、リドナーたちの船への砲撃が止んだ頃の出来事である。
それを見て、艦隊が騒ぎ始めた。
「なんだ?なんだ?」
「あんなの人間業じゃないぞ。」
「敵の科学兵器か?」
「いや、あれは剣の筋だったぞ。」
同時に驚愕の表情を露にする。それぞれの船の長は
「皆の者、落ち着け!」
「静粛にせよ!」
「黙れっー!」
等と叫ぶが彼らは聞き耳を立てず、ただ次々と落とされる蝶たちを見ながら、騒ぎ続ける。
そして、そんなこんなの内に蝶たちは殲滅されてしまう。それを見て、母艦の長が叫んだ。
「全艦砲撃用意!ヤツらを後回しに、ベルゼブル共はあちらの敵を迎撃せよ!」
と。すると、流石母艦の長、つまり最高総司令官の命令である。彼に言われた通り、全艦が剣筋の方へ横になり、ベルゼブルたちが黒い柱を落とし、蝿となった。と、その瞬間である。
シャキィィィッッンッ!キィィィッッッン!
ヤツらの目の前て剣筋が交った。その速度はタイプⅢを超え、ヤツらはまた殲滅された。それを見た船員たちは独自の判断で黒い柱を落とし、蟻や蜘蛛へと変化。そうやって、砲撃係を守ろうとした。だが、それは風の前の塵に等しかった。ヤツらの船の内の1曹。そこにいた凶虫たちの横を黒い影が横切るや否や、ヤツらは核の所で真っ二つにされた。
そうやって、どんどん艦隊の船員たちは息の根を切られていく。さらに、船員が全滅する度、その船の中央をリドナーの使うソードビームのような物が進み、右は右へ、左は左へ沈んでいた。それでも、ヤツらはそこへ砲撃を続けるが、弾は全て斬り裂かれ、ついに母艦まで来てしまった。
母艦と言うこともあり、その黒い影も船を進むのには苦労した。特攻してきたかと思うと変身時の黒柱で牽制をして来たり、蜘蛛の糸四方八方から放ったりとその方法は様々で、影は1つずつ対処していき、やがて、指令室へたどり着いた。そこにいた者たちは変化する間もなく、司令官を除き、全員が斬り裂かれてしまった。
「シルバか...。来ていたんだな。」
「あぁ、グレイス。」
黒い影の正体・シルバが剣を突き出し、同じく司令官・グレイスの方も剣を突き出す。そして、2つの剣筋が交わり始めた。
キィィィン!ガキィィィン!シャキィィィン!
その度に、室内にけたたましく響く。お互いが魔剣であり剣の腕もほぼ同級であった。だが、もう1人の神宿しであるシルバと、常人であるグレイスには圧倒的な格差が存在した。それは、魔剣の真の力を引き出せるかどうかと言うことで、それを持つのは神宿しであった。
やがて、グレイスの剣はシルバの剣に弾かれ、屋根へと突き刺さり、さらにその首を跳ねられてしまった。船員の全滅と最高総司令官の死。ベルセルク艦隊は完全に壊滅し、シルバは甲板へと上がっいった。そして、彼は真っ二つにはせず、バウスプリットの先に立ち、口を開いた。
「さて、目覚めの時はもうすぐかな...。」
そう呟く、シルバの目線の向こうには岸を進むリドナーたちの姿があった。