Episode46 美しき半裸の女性
★今回初めて登場する怪物★
セイレーン
金のハープを持つ人魚。常に半裸。見た目は美女、中身は獰猛な怪物で、人間も獲物の1つである。
見事、巨蝶から逃げ切った僕たちはそのまま車に揺られ、戒めの入り江まで何事も無く辿り着いた。そこで、バーロンとニコラスが目を覚ました。どうやら、あの鱗粉の毒性は行動不能にする程度であったらしい。
僕たちは何ともなさそうな2人を見て一安心をしつつ、
「おはよう。」
「おはよ。」
「おはよう、2人とも。」
とも言う。2人は
「お、おはようさん...?」
「お、おは...?おはよう...??」
と何とか返せたが、かなり混乱している様子であった。そこで、僕が今までの経緯を説明した。すると、彼らの混乱は解けたようであった。
「で、ここが戒めの入り江、か。」
バーロンが言う。起きたばかりだからなのか、少し弱々しい声である。
「そうだ。」
僕が車から降りる。次いで、4人も降りて、マリアは車を収納した。
そう、ここは戒めの入り江。その昔、この入り江は港町として栄えていたと言う。だが、ある時、ここへ巨大な隕石が落下し、その町は壊滅状態。入り江の中央にある湾内図書館はその隕石落下による死者の慰霊として、そして、隕石落下の資料館として建てられた。当時は私営の帆船によりバッファル島と繋がっていたが、ある時を持ってそれも終了してしまった。
原因はセイレーンと呼ばれる美女を装った怪物であった。このセイレーンと言う怪物は隕石落下による邪気を追ってやって来たのであった。これを期に私営の帆船も運航されなくなり、湾内図書館に取り残される者もいた。だが、彼らの存在は消されてしまった。この入り江が戒めの入り江と呼ばれるのはセイレーンから人々を守るためだけでは無く、その事実を隠すためでもあるのである。
「しっかし、噂通り陰気臭い場所だなぁ。」
とバーロン。
「そうだな。」
「そうよね。」
「そうね。」
「そうだね。」
4人とも同感である。この陰気臭い雰囲気。昔から邪気が漂いっばなしなのだろう。
「湾内図書館には怨霊が潜むって噂もあるしなぁ。出来れば行きたくないよなぁ。」
僕が言うと、テーラが青ざめた。
「ちょっと、リドナー!怖いこと思い出させないでよ!」
テーラってそう言うの嫌いだったっけか?彼女の夫として情けないな。そんな思いで、
「ごめんごめん。」
テーラが怪訝そうな顔をした。
ポーンポロローン♪ポーンポーン♪
美しいハープの音色がした。
「綺麗な音ね。」
テーラがその音のする方へ。だが、僕たち4人は彼女をそっちのけでどうやってあそこまで行くかを話し合っていた。
一方の、テーラ。彼女は音を頼りに茂みを進み、黄金のハープを引く半裸の美女を見る。
「綺麗!」
そう黄色い声を上げて、目を輝かせるテーラに戦意など微塵も無かった。テーラとその美女との目が合う。その瞬間、美女は飛び掛かり、次いで奥の茂みからも半裸の美女が飛び掛かって来た。
「いやぁぁぁっっっ!!」
テーラが叫ぶ。と、
ズドドドドド...!ボゴーン!ジャクッ!ジャギィィィン!
銃声いくつかに激突音1つ。さらには、鈍き音2つ。ニコラスが銃を撃ち、マリアが光弾を放ち、僕とバーロンがそれぞれで斬り裂いたのである。
「ごめんな。気付かなくて。」
「すまん。」
僕とバーロンが剣を構えたまま、テーラに詫びる。
「ごめんなさい。」
続いて、地面に降り立ったニコラスがテーラに詫び、銃を構え直す。
「ごめんね、テーラ。」
最後は、マリア。彼女も地面に降り立つと、テーラに詫びてから、杖を構え直した。
「ううん。助けてくれてありがとう。」
テーラが首を横に振る。そして、
「さぁ、行くわよ!」
と言って、ナイフを抜き、襟を正して真剣な顔となる。僕たちは、
「ああ。」
「おうよ。」
「ええ。」
「はい。」
と同時に頷く。
気付けば、僕たちは囲まれている。大丈夫、こちらにはアレックスさんから貰ったあの秘密兵器がある。僕たちは勝利を確信して、一斉に飛び掛かって来た半裸の美女(おそらくセイレーンだろう)と激突した。