Episode33 風呂場襲撃
◆今回初めて登場する人物◆
ジョーン(23)
黄昏界に住む若い男性。吸収を有する能力者の1人だが、戦いの方法をあまり知らない。
義理の兄・アレックスと再会してから、フランは彼の住むリドナーの館に立ち寄るようになっていた。もちろん、王から直々に許可を頂いている。帯剣も今は黙認されており、万一のため、彼女は愛剣(刀に近い)のウィーゼルファングを肌身離さず持っていた。
このことで、フランは剣士・ジャックと洗脳・オーロラ(彼女の力は以前より弱いが)と顔を合わせることも多くなった。初めこそ、フランはオーロラに斬りかかろうとしたが、やがて、慣れていき、お互いに友達と言える程になった。
ジャックがフランと話していると嫉妬して引き離し、フランが気を遣って彼に近付こうとしなかったり、2人の時間を尊重したり。時には、交代でリドナーたちの赤ん坊の面倒を見たりと、日に日に良好な友人関係を築いていっていた。
そんな中、フランとオーロラが裸の付き合いをした日の事であった。オーロラはフランの胸の辺りに釘付けになっていた。大きすぎず、小さすぎの程よく膨らんだ胸(何よりも形が綺麗だと思った)。引き締まったウエスト。自分の淡い膨らみと、太めのウエスト見ながら、オーロラはため息をついた。フランのスタイルの良さに完敗である。
それから、2人は大きな風呂の中につかった。いつも持っているウィーゼルファングもその外へ置く他に無かった。そこで、オーロラが問い掛けた。
「ねぇ、その剣、いつも持ってるけど、そんなに大切な物なの?万物裂断はどんな剣でも良かったはずよ?」
「あぁ、それはね...。ウィーゼルファングって言うんだけどね。実はあの剣、私がこの能力を継承した時に、アレックスから貰った物なの。『俺には必要ない』ってね。」
フランはそう言って、飛び切りの笑顔をして見せた。
「それだけ?てっきり、親の形見か何かだと思ってたわ。でも、そんなに大切にしてるなんて...。」
そこで、オーロラはハッと言う顔をした。
「まさか、アレックスさんのことが好きだったり?」
指をピンと立てて、フランに言った。すると、彼女は頬を赤く染めて、慌て始めた。
「図星ね。分かりやすすぎるわ...。」
オーロラは小声でそう囁き、
「何か言った?」
とフランに聞かれれば、
「ううん。何でも無い。」
と首を振った。フランは少し怪訝な顔をして見せたが、納得はしたようだ。
「ハッ!?」
「ハッ!?」
その瞬間、2人は同時に声を上げる。
「今の感じた?」
フランにそう聞かれ、オーロラは
「えぇ。」
と頷いた。
「今感じたのは人の気配!それに、この感じは...」
次にフランが言い終わる前に、オーロラが
「能力者ね!」
と言った。2人は顔を見合わせて、右手の甲に左の掌で触れた。能力が解放され、オーロラの目は赤くなり、フランは剣を握った。
オーロラが耳を研ぎ済ませる。そして、
「今よ!」
その瞬間、フランは反射的に剣を横へ振った。すると、透明化の魔法が斬り裂かれた。万物裂断は魔法にも有効である。そんな下調べを怠った襲撃者、吸収を有するジョーンは後ろへ飛び退けることで、ダメージを最小限に押さえる。
それを見たオーロラは床に手をかざし、滑り気のある液体で湿らせた。ジョーンはそれに気付き、床に触れて、錬金術により生じた魔力を吸収しようとした。しかし、そのせいでかえってバランス崩し、転んでしまう。オーロラは爆笑を押さえながらも、錬金術で剣を作り出し、心臓を突き刺した。
ジョーンはその痛みに耐えながら、掠れた声でオーロラに聞いた。
「お前...我々...ドュンケルサイドに付いて...いたはずだが...裏切っ...た、か?」
その言葉にオーロラは躊躇なく首を横に振った。
「いいえ、裏切るも何も私はハナからそっちの味方なんてする気は無いわよ。」
彼女のその言葉に目を丸くしながらも、
「嘘を...つくな...。お前はエリーナをサキュバスに変える手助けを...。」
と言った。それを聞いてオーロラは今思い出した都ばかりに、告げた。
「あの私はあの私、この私はこの私よ。私は裏切ったんじゃなくて、アンタたち側の私を封印して、消去法でこっちについただけ。分かったら、さっさと楽になりさない。」
その言葉を聞いたジョーンはもう質問をしなかった。
沈黙のまま、ジョーンは静かに息を引き取った。これにやり、オーロラは洗脳に加え、吸収を継承することとなった。
それから、フランとオーロラは風呂場の全てのシャワーのスイッチを入れ、流れた血を綺麗に流していく。さらに、死体も腐敗しなようにちゃんと片付けた。
ロクに風呂につかれなかったのだが、さっきの戦いで疲れていた2人は浴場を後にし、これまた広い脱衣場で服を着てから、オーロラは部屋に戻り、フランは愛剣を携えたまま館を去っていった。彼女たちは裸身を知らない男に見られたことを丸っきり忘れていた。