Episode31 自然操作との戦い
アレックスは男に多機能型電磁砲を向けて、
「トーマス!どうして、裏切った!」
としかめっ面をする。
トーマスとアレックスは幼い頃から仲良しであった。許可状無しでヴァルハラ大宮廷図書館に侵入したり、ちゃっとした、いたずらをしたりと、2人ともかなりやんちゃであった。そんな仲であった彼がドュンケル教側であるドュンケルサイドに寝返ってたことに、アレックスは腑に落ちなかったのだ。
「おいおい。俺は元々、ドュンケルサイドの人間だぞ?俺は敵対するクロスサイドのスパイの子として生まれたんだ。それで、親にクロスサイドの人間に関わり、決行の時まで怪しまれるなと言われたんだ。いや、当時は結構、危なかったよ。」
そんなアレックスにトーマスは言ってやる。
「信じていたのに!」
アレックスはまだ多機能型電磁砲を向けたままである。
「頼む、それを下ろしてくれ。お互い敵同士だったとは言え、幼い頃からの友達だろ?」
トーマスはなだめようとするが、無意味であった。
アレックスは、こっそり多機能型電磁砲のダイヤルを回す。音も立てずに、ゆっくりゆっくりと回していく。威力が弱い代わりに、継続期間が長い「電撃銃」に近付けていく。威力が弱いと言っても、人が気絶するぐらいの威力はある。そして...!
アレックスは多機能型電磁砲のスイッチを入れる。すると、電撃銃は放たれた。それは、トーマスの体に電流を走らせると思われた。そのはずであった。
しかし、そんなことはなかった。電流は途中で途絶え、トーマスは全くの無傷なのであった。アレックスは目を丸くして、驚く。
「驚くことは無いだろう。まさか、お前、俺の能力を忘れたわけないよな?」
トーマスにそう言われ、アレックスほ唾をゴクリと飲んで、
「自然操作...?」
と言う。
自然操作。転移や洗脳などと同じ9つの能力の一種で、自然界の要素である炎・水・大地・光・闇・風・雷を片手で操られてしまう厄介な代物である。
アレックスは転移して、後ろに回り、近くに落ちていた赤煉瓦を直接、トーマスの体内に転移させようとするが、軌道が曲がってしまう。光を歪めて視覚を狂わしたのである。
続いて、辺りは闇に包まれた。アレックスはどこから頃のか前後左右を見回してみる。しかし、見つからない。それも、そのはず。なぜなら、上にいたのだから。風を操り空を飛んでいたのだ。そして、彼は風の操作を終了させて、アレックスに向けて落ちていった。
そのトーマスは妙に光っていた。闇に包まれることなく、自ら光を発していたのだ。アレックスはその光に気付き、上にさっきとは別の赤煉瓦を転移させた。しかし、それは彼をすり抜けていった。いや、彼が光の操作で作った蜃気楼を。
「残念!本物はこっちだ!」
そんな声が聞こえ、アレックスが振り向こうとした頃には、電撃により彼の足場が奪われていた。彼はよろける。トーマスはその一瞬を逃さない。トーマスはそんなアレックスに向けて、炎を放つ。あまりの早さにアレックスは転移が遅れ、右肩に火傷を負った。さらに、その先にはトーマスが作ったであろう、針があった。アレックスはまた転移する。
と、ここで転移が使えなくなってしまう。いや、使うのが怖くなってしまう。右肩の火傷が猛威を奮い、座標指定に影響を及ぼすかもしれないのだ。もし、座標指定を誤れば、命の保障はないのだ。だから、アレックスはこの状態で転移するのが怖かったのだ。
「転移出来ないわけか。じゃぁ、さようなら!」
トーマスはニヤリと笑い、目の前に幾つもの水圧砲を作り出す。これは、周辺にあった水を集めて、さらに水圧を大きくし、それを凝縮したものである。それを高速で打ち出したのだ。
いくら、液体の水であろうと高速で打ち出せば武器となる。さらに、凝縮されて圧力が高くなっているので、それ自体が丈夫なのだ。これをまともに食らえば人の体は簡単に撃ち抜かれてしまう。アレックス、絶対絶命の危機である。
ビュンッ!ビュンッ!ビュンッ!ビュンッ!ビュンッ!
次々と水圧砲は放たれる。しかし、それがアレックスに当たることは一度もなかった。かすりもしなかった。
シャキーン!シャキーン!シャキーン!
全ては木っ端微塵に切り裂かれてしまった。そんな金属音とともに。水圧砲は潰れて弾け、地面へと散っていってしまった。