Episode30 新たな能力者
◆今回初めて登場する人物◆
トーマス(32)
黄昏界に住む中年の男性。アレックスとは幼馴染みの関係。アレックスと同じく、怪物・シュバルツを手名付けている。
某日の真夜中。暗闇に包まれた空の彼方に、その空よりも暗い天体が現れた。辺りの空間が歪み、海と大地を吸い寄せ始めた。
その中から、黒いライオンに乗った1人の男が現れた。その男がパチンッと指をならすと、海も大地も何事もなかったかのように元通りになる。さらに、空からあの暗い天体は消え去っていた。
「行くぞ、シュバルツ。」
男はライオンにそう言う。ソイツは頷き、空を掻き、斜め前下へ向かい始めた。夜のシャインズ島を目指して。
そして、男とライオンは島に降り立つ。彼は、
「シュバルツ、吠えろ。」
と言う。すると、ライオンは咆哮する。
グルォォォォォ!
どこまでも低い唸り声のような咆哮であった。しかし、普通の人間にそれは聞こえない。あまりにも低すぎて、人間の耳はその音を感じることが出来ないのだ。すなわち、その咆哮は100Hz以下の低周波音であるのだ。
グゴォォォォォォ!
その咆哮は、別の同じく低い咆哮に返される。それは、リドナーたちの館の近くであった。
「なるほだ、そこか。」
シュバルツから場所を聞くと、男はニヤリとほくそ笑み、ライオンはまたがる。そして、彼は足でソイツの体を叩き、
「行くぞ!シュバルツ!」
と命令する。
その瞬間、男とライオンは暗がりの空へと飛び立った。今度は、咆哮が返って来た、リドナーの館を目指しているようだ。
その様子を見る物がいた。王都の壁の回りを歩く、パトロールする騎士の集団だ。
「何だあれは!?」
1人の騎士が空の指を差す。
「黒いライオン!?」
別の騎士が言う。
その頃、男は視線を感じていた。その方を見ると、そこには懐中電灯の光が見えた。
「ったく、面倒臭いなぁ。」
男は右手の甲の印に、左手の掌をかざす。すると、その印が青白く光る。能力解放。つまり、男は能力者だ。
それから、男は光が歪む様子を想像する。と、彼は消えた。いや、見えないようになった、とでも言うべきなのだろうか?
原理はいたって簡単だ。人の目に像が映るのは、瞳を通して水晶体に光が届くからだ。男の能力は色々な自然界の要素を操れる能力。今回は、その内の光を操り、水晶体に像が映らないように光を屈折させたのだ。
こうして、男はそれから誰にも見られないまま、リドナーの館の前に降り立ち、そこで能力を解いた。と、そこへアレックスが転移して来た。
「相変わらず、能力者には敏感なんだな。」
男はアレックスに言う。対する、アレックスは
「お前こそ。相変わらず、シュバルツの使い方がうまいのだな。」
2人は向かい合ってほくそ笑む。
「さて、どう言うことか説明して貰おうかぁ?」
アレックスは男に言う。男はさらにほくそ笑み、
「フン...!お前には関係無い。それに、話す必要の無いことだ。お前はじきに死ぬことになるからな。」
と言う。アレックスは
「それはどうかな。」
そう言って、ほくそ笑み返した。両者一歩も引かないハッタリのかまし合いである。