Episode29 転移の戦い
その頃、転移・アレックスは町中で、シャインズ島に侵入した凶虫たちと相手をしていた。
理由は簡単だ。この島を守るため。王都の壁に辿り着かぬようにするため。そして、何より自分とリドナーたちのため。この一件を根絶やしにするために旅立った彼らのためにも、ここは死守せねばならない。アレックスはそう決意していた。
「さぁ、来い!凶虫ども!」
アレックスは言う。その言葉に1匹のタイプⅠが気付く。ヤツはヘェロモンを放出した。すると、タイプⅠたちが集う。さらに、それを追ってタイプⅡやタイプⅣもやって来た。王都の方へタイプⅢの大軍も向かっていた。
それも心配だが、今はこっち。そんなアレックスは右手の甲に左の掌をかざした。すると、その甲に刻まれた印が青白く光った。能力解放である。
まず、襲いかかったのはタイプⅠとタイプⅡ。タイプⅠは玉砕覚悟で突撃し、タイプⅡは糸を放つ。アレックスは左に右に転移して、華麗に攻撃をかわす。
「全く遅いな。私を相手にするならもっと速くなれよ。」
彼はニヤリと笑い、タイプⅡの放つ糸をタイプⅠに転移させた。
人間だろうとタイプⅠだろうとタイプⅡの糸で身動きが取れなくなることに変わりは無い。その巨体を持ってしてもその糸を振りほどくことは出来ないのである。アレックスは身動きの取れないタイプⅠに容赦なく、攻撃を加える。近くの大木をヤツらの真上に転移させて。
ドッゴォォォォォッッッッッン!
地を揺らす轟音と共に、タイプⅠは全滅する。土煙があがり、ヤツらの緑色の血が弾け飛び、中から血まみれの圧死した人間が出てくる。とても気持ち悪いのだが、アレックスにとっては普通で、とっくに慣れていることだった。
続いて、タイプⅣが襲いかかってくる。大木を殴って吹っ飛ばし、アレックスに突進した。さて、ヤツらが相手ではさっきのように右に左にかわすことなど出来ない。それが分からないほど、彼はバカではない。彼は真上に転移してから、落ちる最中にヤツらの後ろに転移した。
シュルルルルル...!
転移したアレックスに、タイプⅡは糸を放つ。
「邪魔だ!」
彼は全てのタイプⅡを対象に転移を発動する。発動して海の中に落とした。守るためだと思いながらも彼は凶虫との戦闘を楽しんでいたのだ。それにはタイプⅡが邪魔なのだった。
「しっかし、どうするかなぁ?」
ヤツらは急には止まれない。今も、必死でブレーキをかけ続けている。そんなタイプⅣが実はとても厄介なのだ。海の中を浮いて進める上に、殻が堅く高い所から落としても致命傷にはならない。かと言って、あのスピードでは正確に狙えるわけでもない。
そこで、アレックスは思い付く。ヤツらが突っ込む先の土を全部転移させれば良いのだと。地面を転移させて、横向きの大きな亀裂を走らせて、落とし穴の要領でヤツらを落とす。ヤツらは壁を上ることに関しては、とても劣っている。ヤツらが壁を上るのに手こずっている内に、地面を元に戻して潰せば勝てると。
気付けば、タイプⅣは完全に止まり、こちらを向いていた。アレックスは転移して、自ら近づいた。その瞬間、ヤツらは突っ込んでこる。彼は、
「引っ掛かったな。」
とニヤリと笑い、十分な速度が出たところで遠くへ転移した。
やがて、タイプⅣはブレーキをかける。しかし、そのことがかえってヤツらの状況を悪化させた。正直、ここまで上手く行くとは思っていなかったが、彼としては良いことずくめなのであった。
ヤツらは次々に穴の中へと落ちていった。それから、アレックスは
「狙い通りだ...!」
と悪党のような笑みを浮かべながら、後ろにある転移された地面を、穴の真上に正確な角度と位置で転移させた。
それは、穴に見事にはまり、2つの亀裂が残ったことを除けば、道はすっかり元通り。地面が動くことも無かったので彼らは完全に死んだのだろうと確信したアレックスは転移を発動し、ジャックの待つ館に戻るのであった。