Episode28 強きハンター
◆今回初めて登場する人物◆
オーエン(35)
リリーの父。何よりも娘と妻を大事にする親らしい優しい性格で、多くの森の知識を身に付けている。ジョブは剣士で、リリーに剣の扱いを教えた。リリーに斧の扱いを教えたウォールにかつて命を救われた。
リーン(36)
リリーの母。ジョブは弓使いで、リリーの弓矢の扱いを教えた。リリーに斧の扱いを教えたウォールとは古くからの親友である。
やがて、凶虫たちは人間の状態に戻り、リリーとその両親が住む暗黙の森へと侵入した。
ホッー、ホッー...
フクロウのワイズはどこか不安げで、それでいて緊迫感のある鳴き声をあげながら、リリーの元にやって来た。彼女には、ずっと森に住んでいるためか、動物の心を読み取る能力が備わっている。
「えっ!?正体不明の集団がこっちに向かっているって!?」
彼女はワイズの嘴に耳を近づけながら、驚いて見せた。
その頃には、空には黒い柱が上っていた。そう、奴らが凶虫に変化する時に上がるあの柱だ。しかし、リリーはその事を知らない。知る由も無い。だって、黄昏界の人間とも、彼らと面識のある人間とも会ったことがないのだから。
「何だろうね、あの柱。」
リリーはフクロウに聞く。フクロウは、
ホッー...。
と、間抜けそうに鳴いた。
そして、その瞬間、茂みが動いた。そこから現れたのはタイプⅠ。まず、奴らはリリーのいる木の上を目指して、上ってきた。彼女はすぐさま、弓を構えた。
シュバッ!シュバッ!シュバッ!シュバッ!
と、リリーは連続で矢を放つ。それらは、全て蟻たちに当たり、木から落下していく。地面に大きな窪みを作る奴もいれば、トレーニング場所は壊す奴もいる。さらに、木の下。そこにある、もう1つの部屋の屋根を突き破る奴までいた。
「お父さん!お母さん!」
リリーはそう叫んで、机の上にある、とぐろを巻いたようなツタのロープを手に取り、その先に付いているフックを屋根上の太い棒に引っ掻ける。それから、そのロープ捕まりなから下の家に向かって急降下した。
そこには、タイプⅠの死体に、沈んだ木の床。上にはぽっかりと穴が空き、黒い空が見える。幸い、この部屋には両親はいなかった。リリーはため息をついてから、部屋のドアを開け、隣の部屋にいた両親を引っ張り、3人でロープに捕まった。
父が一番上、母は真ん中、リリーは下で剣を振り回しながら、タイプⅠたちを追い払う。時々、タイプⅠの頭を刺し、落としながら。そうして、下の家にはどんどん穴が空いていった。
と、その頃、フックを引っ掻けている棒にはギザキザの亀裂が走っていた。
まず、父が上りきった。そこで、彼は亀裂に気付く。
「母さん!リリー!早く上って来い!もうすぐ、この棒が折れてしまう!」
と、叫ぶ。母は速やかに上へ到達することが出来た。しかし、タイプⅠたちを払いながら上るリリーにはそんなことは出来ない。それでも、かなり上ってきた。
バキンッ!
だが、もう少しに所で棒は折れてしまった。リリーは
「いやぁぁぁぁぁ!」
と叫びながら、落ちていった。と、思われたが、その前に彼女の手を父がガッシリと掴み、引き上げた。
タイプⅠもそれに追い付いて来た。リリーは落とさないよう持っていたロープで網を作り、網目から上って来たタイプⅠに矢を放った。木の上の狭さでスピードを出すことは出来ないので安全なのだ。
そして、最後の1匹となった。しかも、網の中に顔だけを突っ込み、力業で部屋内に入ろうとしてきたのだ。リリーはすぐさま、斧を取り出し、横から首を斬った。すると、タイプⅠの首は折れ、後は自身の重みに耐えきれなくなり引きちぎられた。
ソイツは、首を失い、緑色の血を宙に撒き散らしながら、蟻の死体の山へと落ちていき、それはついに下の家を全壊させてしまった。
「下の家は壊れてしまったけど、3人とも無事で良かった。」
父はいかにも親らしいことを言いながら、リリーをハグした。彼女は照れながら、
「う、うん...。」
と頷く。その後、父は母にもハグをした。
こうして、森の強きハンター・リリーは侵入してきた凶虫たちの一隊を退けることに成功した。その日から、暗黙の森に凶虫が入ってくることは無くなった。