Episode26 変形する古代生物
アルマジロ型の怪物は、僕の持つ『黄昏』に食らい付いた。僕はその本を放す。すると、ヤツはそれを飲み込んだ。同時に、僕はこれがドュンケルの施した細工なのだと確信した。
キュォォォォォンッ!
そして、怪物は咆哮とともに、目を赤く光らせ、横にいた本型の怪物をけしかけてくる。
シュシュシュシュシュッ!
その怪物は尖った紙を高速で飛ばしてくる。僕たちは武器を構え、それを斬ったり、吹き飛ばしたりする。さらに、僕は自分に脚力強化魔法を唱えて、ヤツらの前へ飛び上がり、ソードビームで一掃した。
ゴォォォォォ!
それ見たアルマジロ型は僕に向かって炎を放ってくる。もう一度、魔力を込める時間はない。僕は、防御の構えを取り、その炎を吸収した。そして、瞬間移動で下に降りた。
「やぁ!」
テーラは勢いよくナイフを投げる。それは、怪物の口の中の『黄昏』へ一直線。ヤツはそれを手で守った。その時、僕はその本が核の役割をしているのだと、あの時の、コイツは仮死状態で、『黄昏』を表に出したことで再び動き出したのだと予測する。
今度は怪物の攻撃。ヤツはこっちに向かってくる。バーロンはギリギリまで引き寄せ、剣を振る。
キィィィィィン!
と、その剣は何やら鋭利で長い物に当り、金属音が響く。見ると、怪物の手らしき部分が剣のようになっている。さらに、ヤツは逆の手の部分を鈍器に変形させて、彼の鳩尾を殴り飛ばす。
「くっ...!」
彼は本棚に激突し、床へ落ちた後、腹を押さえながら体勢を崩した。
ズドドドドド...
続いて、攻撃を仕掛けたのは、ニコラス。彼は怪物に標準を合わせて、高精度でアサルトライフルを連射する。しかし、ヤツは両手を合わせ、変形させて作った壁で弾を全て弾き、中に本を取り込んだ部分を打ち付ける。床に向かって打ち付ける。僕たちは、それを散らばって避ける。
「シャイニング・スルー!」
それから、マリアはそう唱えて、怪物の串刺しを試みる。ヤツは床と接している部分を巨大な羽に変えて、高速で回し、現れた針を砕く。
ギュォォォォォン!
さらに、その回る羽を僕たちに向けて、打ちつけようとしてくる。僕は、
「プロテクト!」
と唱えるが、現れたシールドまでもが羽によって砕かれ、縦に半回転した後、またそれを打ち付けようとしてくる。
その時、僕は覚悟を決めた。ロンギヌスを強く握り締め、
「頼んだぞ、アレス!」
そう言って、「フライト」で再び飛び上がり、羽へ突っ込んだ。
そして、空中で横から突きをする。回る羽が皮膚をかすり、それでも深めの切り傷が出来る。そこから、鮮血が滲み出し、痛みが走る。が、僕は思いっきり突き刺した。手の傷はさらに、深くなる。と、思えば、その傷はましになっている。
「ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!ダメ!私の魔力じゃ直しきれない!」
僕は、信じていると言うつもりで微笑み、さらにさらに奥へと押し込み、手に大きな傷を作りながらもその羽の軸にたどり着いた。そして、ゼロ距離からソードビームを放ち、それを斬り外した。すると、羽は回転しながら横へそれ、その途中、もう片方の腕にも深い切り傷を作った。
と、一瞬、外れた軸の斬れ目から内部が見え、『黄昏』が剥き出しになる。いち早く、傷を治したいところだが、このチャンスは逃してはならない。僕は、痛みを吹き飛ばすほどの強い決意を胸に、本へ向けて突きをした。
ゴギィィィィイン!
図書館中に鈍い金属音が響き、長くて光る刃がそこの壁を貫き、やがて空へと消える。ロンギヌスの真っ直ぐに伸びた刃が、アルマジロ型の体と図書館の壁ごと、『黄昏』を貫いた。
僕は、瞬間移動で床に戻り、
「女神よ、癒しを!スーパーヒール!」
と唱えた。僕は魔力を犠牲に、全ての傷を塞いだ。少し貧血気味だが歩けない程では無い。僕はまだ苦しむバーロンを背負い、ニコラス、テーラ、マリアとともに、走り出した。
その途中、怪物は起き上がった。底力を見せてやると言いたげにこっちへ向かって来た。僕たちはさらに足を早め、倒れた本棚に上っては下り、上っては下りして出口へ急いだ。なぜ、瞬間移動を使わないかは考えたらわかることだ。使わなかったのではなく、使えなかったのだ。さっきの「スーパーヒール」で瞬間移動に必要な魔力を失ったので。
ゴォォォォォ!ゴォォォォォ!ゴォォォォォ!
怪物は本棚に火を着ける。そのため、もう少しの所で僕たちは火に囲まれてしまう。ヤツもかなりの勢いで近付いてくる。迷っている暇は無い!
「魔力よ、解き放て!」
僕はそう言って、火を吹き飛ばす。吹き飛したと言っても完全に消えたわけでは無い。僕は出来るだけ早くドアへ向かう。しかし、倒れた本棚が邪魔して開けられない。
そうこうしている間にも怪物は近付いてくる。僕は、
「モールド!」
と唱えて、大きめの穴を開ける。僕たちは1人ずつそこを通って外へ出る。最後にバーロンは苦しみながらも出ようとする。僕を除く2人は彼を引っ張って、外へ出した。
それと同時に体を細長く変形させた、怪物がその穴を通ってくる。僕は残った魔力の全てを使って、ヤツの首が外へ出てきた瞬間、再度、「モールド」を唱えて、穴を塞いだ。斬りおとされた首までもが僕たちに襲いかかってこようとするが、テーラがナイフで刺し、それをしのいだ。
そして、既に魔力切れを起こしていた僕の緊張は解け、気を失った。いくら、神の子を宿す神宿しでも、人間である限り、限界はあるのだ。