Episode163 解縛
「あれを使うしかないか...。」
長く続くヤツらとの戦闘の中、僕はいつか使ったあの魔法を使うと決意する。
あの時、周辺環境への多大な影響を見、しかも神宿しの超大容量魔力を以てしても魔力が欠乏しその後に影響することを知り、死体すら残さぬことに引け目を感じ、今まで渋っていたがもう使う以外の選択肢はないようだ。
と、炎を放ち迫るファフニール。これを魔力波で吹き飛ばし、僕はその反動で壁に足裏を付ける。
「ゴルドスマッシュ!」
続いて、脚をバネのようにして勢いよく飛び出し、推進力と魔力を借りた光の拳をヤツにお見舞いした。さらに、龍や蟲を斬り落としつつ、下へ降り立った。
そして、飛び交うフランさんに
「こっちへ来てください!作戦があります!」
と言う。これを聞くなり彼女も下へ。横から迫るヤツらはフレイアとマット。上から迫るヤツらはマリアとニコラス。アレックスは転移で石を落とし、オーロラさんは洗脳で自死に追い込む。
その内、僕は
「ダイヤモンドプロテクション!」
硬質な障壁を展開。ヤツらの攻撃は一切届かずそこに安全地帯が完成した。だが、もちろんそんなもののためにこれを展開したのではない。
「ニュークドシャイニングインパクト!」
掌を上に向け唱えると、障壁の外で凄まじい光の爆発が起こった。ヤツらは次々と蒸発、周辺の一帯が吹き飛びクレーターは瓢箪のような形となった。
「...。これをリドナーがやったのか...?」
光が晴れて現れた光景にマットは絶句する。
「あぁ。これが神宿し...の...。」
僕は答えるが、瞬間立ちくらみが襲い掛かった。ふらつく僕をテーラが支えてくれ、
「あれだけ魔力を使って、それまで使って流石に魔力の使いすぎよ。大丈夫?」
と優しい声で聞く。
「あぁ、大丈夫だ。ありがとう。」
しばらくすると立ちくらみは治り、常人の半分程度魔力は戻ってきた。僕は礼を言って、1人でしっかり大地を踏みしめる。
辺りに敵は見えない。先の「ニュークドシャイニングインパクト」でもろとも消し炭となったようだ。
僕たちは武器を納め、クレーターの中央へと向かった。そこに多量の魔力の存在を感じ取ったある。
と、その時、足元に亀裂が走る。その奥に感じる邪悪な何か。
「ち、散るぞ!」
僕はとっさに叫び、10人それぞれ四方八方へ散る。
ガゴォォォォッッッ!
間も無く亀裂は礫となり、爆裂とともに僕たちへ襲いかかった。
「プロテクト!...しまっ...!」
僕は障壁を展開するが咄嗟のことであちらへ障壁がいかなかった。
あちらにはバーロン、テーラ、マット、フランさんの4人。
「止まれ!」
だが、フランさんが言うと礫は全て空中で停止、続いて粉々となった。自然操作の力である。
「大丈夫ですか?」
フランさんは3人に問い、
「あぁ、助かった。礼を言う。」
「ありがとうございます、フランさん。」
「ありがとう。」
とそれぞれ礼を貰う。
「3人を助けてくれてありがとうございます、フランさん。」
「どういたしまして。けど、私は当然のことをしたまで。それに、ここで仲間が減られると困るのよ。」
僕も礼を言うとフランさん言って、同時に上がった土煙の方を見た。互いにただならぬ気配を感じたためである。
「クックックッ...。流石は神宿しと言ったところか。父を殺された恨みもあるが、実に面白い仇どもだ...。」
響くのは聞き覚えのある男の声。
「まさかっ...!?」
目を大きく見開きそちらを向いた瞬間、そこにあった黒い塊から頭、尾、腕、脚が生え、やがて龍の姿となる。
グォォォォォッッッウンッ!
響く咆哮、晴れる土煙。再びファフニールが姿を表した。
「いやはや、先の魔術は致し方なく野蛮だったがおかげで縛りはなくなった。我が全力を以て制裁を下す!」
直接、脳に届くヤツの声。
「あいつ...。他の兵士が邪魔で力を押さえていたのか...!」
アレックスさんは言う。相手は『帝』、可変の身体により多様な攻撃を可能にする。これまではその多様性を縛っていたが、その縛りがなくなったとなればかなり厄介な相手となる。
僕とフランさんは同時に飛び出し、迫る炎を僕の魔力波で吹き飛ばし、ヤツへ剣を振りかざす。
ギィィィッッッン!
だが、剣は剣状に変質した腕に弾かれ、生まれた一瞬の隙に頭部を鋭利に伸ばして心臓を狙う。
「らぁっ!」
そこへフレイアが入り、アッパーで狙いを逸らす。おかげで僕たちは何とかかわし、
「エレキスピア!」
「トニトゥルスっ!」
と紫雷の矢と雷そのもので龍へ撃つ。
しかし、腕は盾となってこれを防ぎ、盾に穴が空いたかと思えばそこから炎の光線が撃ち出された。僕は剣で捉えて軌道を逸らすが、その勢いで僕は吹っ飛ばされる。
さらに突如したから現れた触手に脚を掴まれ投げ飛ばされた。見ると、ファフニールの尾が地面に突き刺さっている。
「クソッ!今のはヤツの尾か!」
後頭部の鈍痛に堪えながら、僕は歯軋りし立ち上がる。
と、その尾の先が棘鎚となって振りかぶられた。
「マズいっ!」
僕は痛む体を神宿しの加速で無理矢理動かした。
「ま、間に合わなっ...!」
だが、あと一歩が届かない。そこで、フランさんが地面を変質させて刃とし、尾を斬る。その斬れた尾にアレックスさんが転移を行使、ヤツの頭に上から棘鎚を落として潰す。
スドドドドド...!ズガンッ!ズガンッ!
瞬間、ニコラスはアサルトライフルを、マットはマグナムをヤツを挟んで撃ち、
「シャイニングインパクト!」
と唱えてマリアは別の咆哮から輝く爆源を飛ばし、さらに別の方向からテーラの魔力を込めた短剣の投擲、別の方向からフレイアの打撃...と言った感じで四方八方から攻撃を浴びせた。当然、ここに僕も加わり勢いよく剣を振り下ろす。
だが、地面から現れた半球がその全てを弾き返す。
「こいつ、見えてっ...!?」
驚く間に、続いて半球は炎に包まれ分裂、それぞれが僕たちに突っ込み爆発する。僕たちは後ろへ体重をやり、爆発の衝撃を和らげるが揃って火傷を負う。
気が付けば潰れた頭部は元に戻っている。
「やはり、高度な治癒を使えるのか...。ギガンテスみたいだな。」
「『帝』は等しく高度な治癒能力を持つのだよ、神宿しの少年よ。元より治癒能力のあるギガンテスを『帝』が継承すると並大抵の攻撃では傷一つ付けられなくなるがな。」
僕が呟くとヤツは声を飛ばし、同時に翼を回転刃にして両側へ放った。
「体を自ら切り落とすこともできるのか!」
僕はこの回転刃を剣で弾く。
「っ...!」
と、目の前に突然クナイ状の刃が現れる。いや、回転刃をブラフにしたと考えた方が自然か...。僕はこれを手で受け、
「ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!ヒール...!」
と何度も回復魔術を唱えながら腕でクナイの動きを止め、これを抜く。横にいるマリアに、
「これに『パラレル』を頼む。」
「パラレル。」
マリアは自身の固有魔法を久しく発動。クナイは幾多に分身。それぞれに魔力を込め、
「シュート!」
と勢いよく撃った。
ところが、クナイは全てヤツを傷付けることなく身体へ溶けていった。
「驚くことはない。元より私の身体だったのだ。自らの身体が自らを傷付けるなど意志がなければ起こり得ない。おっと、そろそろか...。」
ヤツはそう言い、背中に目配せする。
そこには先程までなかった背鰭のような突起が見えていた。