Episode156 欧州大協商
一方、米国から大西洋を挟んだ先の欧州諸国。凶虫、木偶など相次ぐ邪神兵の襲撃、あるいは空から下りる赤色の光線により多くの都市が陥落し、EU本部のあるブリュッセルも大打撃を受けていた。
だが、欧州全国の幹部と一部市民は既にシベリアに逃れていた。季節は冬とのこともあってそこは極寒この上なく、寒冷のない黄昏界の者は中々、手を出せないである。
そんな安地シベリアの劇場に臨時の議場は設けられ、約50に及ぶ欧州全国が集まり会議を開いていた。
「アメリカからも怪物に続いて、恐竜の出現が確認された。これは一体...。」
と言うのはイギリス幹部。
「分からん。だが、国連は既に各地で国連軍出動を行っているらしい。」
「我々、EUも連合軍を出動するべきか?」
「いや、敵は圧倒的な軍事力を有している。今の残留兵力では、それも元より6ヶ国分のみのEU軍では足止めにもならんだろう。」
「だが、どうする?何もしないわけにもいかないであろう?」
これを聞き議論をするのはそれぞれイタリア、フランス、ドイツ、ポルトガルの幹部。
ここでベルギー幹部が挙手をする。
「どうぞ。」
これにイギリス幹部が促すと、彼は
「では、EUではなく、欧州全国の規模で協商を結び各国の軍を総動員するというのはどうでしょうか?」
と言う。
共通の仮想敵を生むことで国内外の結束を固める、それはクリミア戦争時における対ロシアの英仏協定やヒトラー及びナチスのユダヤ迫害など良い意味でも悪い意味でもヨーロッパの常套句であった。敵の敵は味方、ということである。
それなのに今まで誰も思い付かなかったのは、おそらく仮想敵の実体を掴めていないことにあったろう。仮想敵の実体も分からず結束しようというのはかなり大胆な策ではあるが、苦肉の策としては十分過ぎるものでもあった。ベルギーはこれを取ったのであろう。
「異議のあるものは?」
イギリス幹部は言う。ドイツ幹部は挙手をし、
「異議というよりは質問だ。ベルギーよ、敵の実体が分からない以上、現在敵味方の区別も付かない状態だ。この現状でいかに軍隊を纏めんとしている?返答によっては皆の意見も変わっくるだろう。」
「国連から全加盟国への同等の侵略を確認したと聞いています。非加盟国からも同じ知らせを個別で聞ており、まず、どこかの国による侵略行為ではないでしょう。そして、敵の大まかな特徴であれば判明しています。蟻、蜘蛛、蝿などの姿をした巨蟲、武装した木形の巨人、龍、黒翼を持った者、恐竜です。未確認ながら敵対しない者の特徴としては生物形の機械と空飛ぶ翼を持たない人間とが判明しています。苦肉の策としてこれに従い、敵味方の区別をつけましょう。そして、国連にも協力を要請し、敵の実体を共に調査するのです。」
ドイツ幹部にベルギー幹部は考えを述べ、それならばまぁ、と頷かせる。
「では、改めて異議のあるものは?」
その後、イギリス幹部は再び言う。さらなる挙手はなし。異議が多くても、過半数の賛成があるなら可決だろうと思っていたが、全会一致で可決した。
こうして、欧州大協商が発足することとなる。