Episode153 悪魔と従者の剣戟
「はぁっ!」
悪魔の剣に交えると、アルベロは木の剣を思いっきり押し出す。だが、これしきのことで怯むノワールではない。
「らぁっ!」
と蹴りで返して、アルベロを斜め上へ蹴り飛ばす。
間髪入れずヤツは飛び出すが、アルベロが剣を振りかぶって、
「ルナトゥム・ユグドラシル!」
と剣を振る。その剣筋は風の刃となり、あちらを狙う。だが、彼の固有魔術は反則的である。
「エクスプリカティオ!」
と唱えた後に剣で刃を受け止め、先のアルベロのような構えを取る。
「...?」
彼が首を傾げている内に、ノワールは剣を振り、
「ルナトゥム・ユグドラシル!」
と何と奴と同じ技を放つ。と言っても、放たれた風の刃の色は彼のような深緑ではなく漆黒である。
固有魔術・エクスプリカティオ。受けた攻撃を解析し、威力は下がるが同質のものを一度限り使えるようになる。そして再度、解析すれば同じ技をもう一度使えるのである。
「くっ...。大樹の刃よ!」
アルベロは背中から木の刃を無数に撃ち出す。
ドドドドドドドドドド...!
その物量を以て風の刃を打ち消し、煙へ突進。すぐにこれを抜けて飛び出し、ヤツへ勢いよく突きを放つ。ノワールは咄嗟に剣を肥大化し、これを防ぐ。
ギィィィィィッッッン!
と辺りに金属の音が響き、弾かれ怯むアルベロに向けて、ヤツは
「スクロペトゥム。」
と黒の球を大量に発射。アルベロはこれを剣で打ち払い、打ち払い、少しずつ退いていく。一旦距離を置くとアルベロは
「大樹の鎧よ...!」
と全身を木で覆う。鎧は防御力を上げるとともに、筋力も補う。
アルベロは飛び出し剣を振り下ろす。ノワールは防御するが受けた斬撃の勢いは凄まじく、
「くっ...!」
ドォォォォォッッッン!
とその背中を地面に打ち付ける。そこへすかさずの追撃。ノワールは地面を転がってかわし、
「スクロペトゥム!」
と黒の球を再び、放つ。だが、今のアルベロには効くことはない。精々、鎧が少し剥げるのみである。すぐにアルベロは空いている手でヤツを狙う。だが、すぐに立ち上がってヤツはこれをかわした。
両者再び睨み合い剣と剣とを打ち付ける。アルベロはそのまま剣に力を収縮し、
「ルナトゥム・ユグドラシル!」
と言ってゼロ距離から風の刃を飛ばす。ノワールが「エクスプリカティオ」を発動する暇はなくただ吹き飛ばされるのみ。その先で、
「スクロペトゥム!」
と球を撃ち、これをアルベロが防いでいる内に空へ上がる。アルベロも全て弾いた後は飛び上がり、
「はぁっ!」
「らぁっ!」
と空中でまた激突。
ギンッ!ガギンッ!ギィィィッッッン!
激突、激突、また激突。その度に火花が迸り、空気を揺らす。
「大樹の刃よ...!」
と剣戟の合間に木の刃を挟む。ノワールは剣の交差を振りほどくと、早業で全て八つ裂きにし、続く「ルナトゥム・ユグドラシル」に対して「エクスプリカティオ」。
「ルナトゥム・ユグドラシル!」
と漆黒の風刃を放ち、アルベロも
「ルナトゥム・ユグドラシル!」
と深緑の風刃を放つ。そうして交わる緑と黒は相殺されて、霧となって消えていく。
と、そこでアルベロはニヤリと笑う。
「どうやら準備は整ったようだ。」
と含みを持たせてそう言い、
「何?」
とノワールは言って彼を見る。しかし、そこにその姿はなく、拳を構えて横にいた。
「飛べ!」
とアルベロは言い拳を振るう。すると、木の拳は伸びて向こうにビルへと吹っ飛ばした。
バリィィィィッッッン!
ロビーへのガラスが砕け散り、向こうの壁に背中から激突する。アルベロは割れたガラスを通って中に入り、ノワールは立ち上がる。見ると、あちらこちらに蔓延る木の幹。
「何...だ...これは?」
とノワールが言うと、アルベロは
「森の加護の真髄だ。俺はお前と戦う前、このビルに種を仕掛けてビルを大樹の幹か張り巡るようにしておいたのだ。」
と言い指を鳴らす。すると、全本面の幹から皮が高速射出される。
シュバババババッ!
と彼を狙う。これを全てかわしてヤツは剣を構えなおす。
「我が大樹に支配されたこの棟は、今や俺の城!本気には本気で返すとしよう!」
対するアルベロも余興の後に剣を構え返す。
こうして、悪魔と森の従者の剣戟は屋内で両者決死の戦いへ移行。アルベロの城と化したビルの中、第二ラウンドは始まった。