Episode141 王者と覇者
◆今回初めて登場する人物◆
志崎当麻(52)
元恐竜学者の海曹。WA-1の乗組員の1人で恐竜のみでなく、翼竜や海棲爬虫類などにも詳しい。多くの生物学者を友に持ち、人から聞き入れたことも含めて、その知識の幅はとても広い。
★今回初めて登場する怪物★
メガロドン
太古の昔、世界中に分布していた言われる史上最大のサメ。海のはしゃとも呼ばれ、その全長はジンベエザメの2倍にも匹敵する。絶滅したという説が有力だが、絶滅していない可能性を唱える学者もいる。
ドガンッ!ドガンッ!ドガンッ!
戦艦は 海中のモササウルスへ主砲を放つ。その度に水飛沫は上がり、ヤツの鱗が削がれ、やがては飛沫に少量の血も混じるようになる。だが、怯まず潜水艦を噛み砕いては中の人を一気に呑み込み、さらに艦の下部に噛みついて船を海に沈めていった。
そして、WA-1が再び巨大生物の接近を確認する。
「今度は何だ!?」
「全長約20m、恐らくですが何らかの魚類でしょう。」
隆昭が言うと、1人の乗組員がレーダーを見ながら言った。
「20m級の魚類だと...!?それが本当なら、ジンベエザメの2倍近くはあるってことだぞ...!」
「メガロドンではないでしょうか?」
「いや、メガロドンは既に絶滅したはずだ。」
その2人がそんな話をしていると、後ろの乗組員がここに入ってきた。
「横から申し訳ありません。これは元恐竜学者としての所感なのですが、我々が今相手にしているのも絶滅種であるモササウルスなのではないでしょうか。無理矢理な考え方ではありますが、モササウルスが生きているのであれば同じ絶滅種であるメガロドンが存在しているという可能性もないとは言いきれないのでしょう。」
とその乗組員・志崎当麻は言う。隆昭が
「なるほど...。しかし、そうだとして同じ海に住んでいるなんてことはあり得るのか?」
と言うと、当麻は
「はい。メガロドンについては詳しくないのですが、比較的温暖な海に多く分布していたと聞いたことがあります。そして、モササウルスが生息していたのも西ヨーロッパや北アメリカなどの近海、つまりは温暖な海を含む地帯なのです。」
と説明する。それを聞いて隆昭は納得し、同時にメガロドンまで相手にすることになれば一溜りもないと考えた。
「こちらWA-1。ヤツらが相手では部が悪い。撤退を勧告する。」
そうと決まれば撤退以外にやることはない。ただし、最後まで軍人として戦い続けたいと思う者に配慮して、命令ではなく勧告に止めておいた。
『こちら、WA-2。勧告に応じる。』
『こちら、WA-3。勧告に応じる。』
『こちら、HI-4。勧告に応じる。』
だが、ほとんどの戦艦はこれに応じた。今更、お国のためなどという軍人はそうそういない。艦隊は主砲で牽制しつつ、その場を離れていくのであった。
さて、その内に海の覇者・メガロドンはモササウルスと接触する。先手はメガロドンが取り、腹部に深く牙が突き刺さった。モササウルスは踠いて何とかヤツを噛みつき返す。
ドュンケルは異邦の神。この世界の神々が創り出した生物はヤツよりもその神々の権能が優先される。モササウルスは生存本能からヤツの洗脳を一時逃れ、メガロドンとの水中戦を開始した。
「船を追え!さっさと船を追うのだっ...!船をっ...!!!」
と命が脳内に届いてはいたが、今は敵を退けることの方が勝っていた。
モササウルスは腹に噛み付いたままヤツを引き離し、さらに強く噛み付く。だが、メガロドンは仰け反って上顎に噛み付き、これから逃れる。そして、また腹部へ突進。対するモササウルスは尻尾を叩きつけて、これを回避した。
そして、続いてはモササウルスが攻撃に入る。まずは体をうねらせ、メガロドンの正面へ。再び噛み付かれる前に、その顔面へと食らい付いた。頭部の動きを封じられては武器である牙を振るうことは不可能である。
グルルルルル...
と唸りながら踠いて尻尾を動かすのだが、機動力についてはあちらが上手。モササウルスはこれに合わせて向きを変えたりした。
それでいて、その牙が自らの頭部へと食い込んでくる。片目は既にやられてモササウルスの姿も上手く捉えることはてわきない。ただ、はっきりしているのは自分の体から段々と血が抜けてきていることだけ。辺りは血のもやで染まり、モササウルスもそれを確認していた。
しかしやがて、モササウルスも披露で顎の力が弱まってくる。その隙にメガロドンは抜け出し、血を棚引かせながら海底へと下りていった。偶然かもしれないが、これはモササウルスの作戦勝ちと言って良いだろう。
それから、モササウルスは身を翻し、ドュンケルの命で他の艦隊を求めて日本近海を南下していった。