134話 DMRT計画
◆今回初めて登場する人物◆
リーマス(42)
ドュンケルサイドに属するあるグングニル隊の指揮官。洞察力に優れるが、憶測を嫌うために何事にも確認を重んじる。
ディーゼル(51)
悪魔の1人。特に剣術に長けるが、魔術の腕も多くの悪魔より圧倒的格上である。その戦術の豊富さから、唯一ディアブロと渡り合える強者である。
★今回初めて登場する怪物★
アンキロサウルス
背に棘の付いた厚い骨板を持つ草食恐竜。その棘や尾の棍棒を武器に、肉食恐竜などの天敵から身を守る。しかし、撃退の決定打となるとは限らず、基本的には天敵から逃げようとする。
●今回初めて登場するアイテム●
麻酔魔力砲
昏睡魔法「ドルミレ」を付与した針型の銃弾を放つ銃。側面のレバーで、火薬によって銃弾を発射する通常形態と注いだ魔力を注いで射速や威力が上げられる充填形態とを切り替えることができる。その最大出力は金属板に深く突き刺さるほどの射速と威力である。
それはリドナーたちが陰の森の横を行く少し前に始まった。
森の上空にはヘビーエアフォースとグングニルの群れ。このグングニルはドュンケルサイド側のもので、とある計画を遂行せんとしていた。
「これより『DMRT計画』を開始する!凶虫どもから情報によるとこの森には巨大な竜が生息しているとのことだ!」
この計画の指揮官・リーマスは開始を宣言する。これとともに兵士たちは麻酔魔力砲を持って地面に降り立つ。
一方、グングニル内では、
「ウォカーレ!」
とコードが響き、その瞬間、周囲に
ブォォォォッッッウン!
と警笛のようなものが鳴り響いた。森の至る所で黒い柱は落ちて、凶虫や巨龍が出現。
やがて、ヤツらは兵士の元へと集まってくる。それを見て兵士たちはそれぞれに股がり、
「頼んだぞ、タイプⅠ。」
だったり、
「頼んだ、リンドブルム。」
だったりと言って頭を叩く。凶虫や巨龍はこれに頷き、前者を前方へ、後者は上空へ一気に飛び出す。
さて、ヤツらがしばらく森を行くとそこでとある恐竜の群れと遭遇した。成すのは尾に棍棒を持つアンキロサウルス。この世界の住人ではないリーマスには名などわかるはずもなかったが、それでも皮膚にできた棘や尾の棍棒は計画に役立つであろうことは察していた。
「鎧のごとき体表に鈍器のごとき尾、そして、重厚な体格...。攻防両立...。」
リーマスはそう呟いた後、
「その竜に麻酔を放てっ!」
と言う。すると、兵士たちは
「御意。」
と言って、ある者は陸から、ある者は空から麻酔を撃つ。麻酔と言っても昏睡魔術「ドルミレ」の付与されたただの針。ほとんどはその固い皮膚に弾かれ突き刺さることはなかった。
しかも、このことでアンキロサウルスの群れはヤツらを天敵と認定する。逃げられそうにもないと悟れば、彼らの策は1つしかない。
ブンッ!ブンッ!ブンッ!
彼らは尻尾を振り回してヤツらな反撃。それを食らって陸の兵士たちは次々と頭を砕かれ、
「ギャッ...!」
「ぐっ...。」
「ガァァァッッッ!」
という断末魔とともに死体となって転がる。凶虫もこれに巻き込まれて、粉々になって地面に転がった。
「やはり、皮膚も固いか...。ならば、銃を充填形態に!魔力を注ぎ、最大出力にて射出せよ!」
これを見てリーマス、次の指示を出す。これにも兵士は、
「御意。」
側面に設置されたスイッチを下げて充填形態へ。さらに、上部に触れてそこから魔力を流した。これに伴い、側面に現れたゲージは貯まっていき、やがて満タンになると点滅する。
刹那、四方八方から高速の針がアンキロサウルスを襲い、あっという間に群れ全体が昏睡状態へと陥った。
「言語をシルヴィスに。」
これを見てリーマスは完全版ランゲージダイヤリーを取り出し、言語を変更。無線をヘビーエアフォースに繋いで、
「"ojiltviw" kepexixin!」
「サルペンス」と繰り返せ、と命令を出す。
これを受けで、アーミーウッドゴーレムたちは、
「ojiltviw!」
「ojiltviw!」
「ojiltviw!」
とそれぞれ言って、「サルペンス」を発動。ヘビーエアフォースから巨大な縄が現れ、倒れるアンキロサウルスの体を縛られる。この縄は一斉に巻き戻されて、その体が空中へ。
次にグングニルから、
「カルケル!」
とコードが唱えられて、アンキロサウルスを檻が囲んだ。これと同時に縄がほどけでそれぞれヘビーエアフォースへ戻る。最後に、
「フォーレス!」
とまた別のコードが唱えられて、檻の下にゲートは現れる。そこはドュンケルのいる神の間へと続いていた。
「フッフッフッ...。これはよい兵器だ...。こちらの神も面白いものをお作りになったな。」
そうやって、運ばれてきたアンキロサウルスはドュンケルは見下ろし、笑みを溢す。
「気に入った。そこの悪魔よ、こやつらをヘルの海へ沈めろ。」
「はっ!」
その後、つくばう悪魔・ディーゼルに命じた。彼は返事を返し、魔術を以ってアンキロサウルスの入った檻を空中に浮かばせ、そのまま、ドュンケルの背に佇む黒の液体のへと放り込む。檻は徐々に沈んでいき、やがて全て見えなくなった。
ヘルの海とは全てを呑み込み、全てを侵す禁断の黒泥。その力はドュンケルのみに許され、ゼウスなどこちらの神は"善"が邪魔をして生み出すことは到底不可。されど、この神であれば、液体のみを要してこれを生み出すことができる。そして、ここに一度沈んだ生物はヤツの忠実な僕となり、また非生物は思うがままの動きを見せるのだ。
つまり、ここに沈めばドュンケルサイドの兵器と化すことも可能なのである。
そもそも、DMRT計画とは「Draco Magnus Raptio Telum|(大竜誘拐兵器化)計画」のこと。グングニル、ヘビーエアフォースにより森に潜む恐竜たちを運び出し、彼らを軍用化。これを世界中へばらまいてさらなる混乱を招く、という計画であった。