Episode132 巨神討伐(後編)
太平洋沖の巨神戦は激化を極め、また人々は海岸線から姿を消していた。姿を消したと一概に言ってもそれは全員が逃げ延びたというわけでもなくて、むしろ凶虫やウッドゴーレムにやられて肉片となった者の割合の方が多いのである。町を流れる血の海は排水溝にも流れ出し、下水管内までもが赤黒く変色していた。
大西洋側においてもこれは同じ。タイプⅡの張った巣はほとんどが血で湿り、凶虫やウッドゴーレムもほとんどが返り血を浴びていた。
既にワシントンD.C.はヤツらによって陥落。ニューヨークは光を失い、また国連本部も占領され、職員も多くが屍となって廊下や部屋に転がっている。だが、警備員の奮闘のおかげで各国議員の何人かはカナダへと逃げ延び、未だ攻撃のない国連協会へ匿ってもらうことに成功した。
そこで、議員らは協会を臨時の安保理本部に設定。その議場を貸し切り、早速、総会を始めた。
「これより、安保理国連総会を始める。」
アメリカ議員・デイビットの開幕の言の後、イギリス大使・ジャーニーは、
「議題は太平洋沖に突如出現した超巨大物体への対処について、で間違いないですかな。」
と聞く。これにデイビット、
「あぁ。」
と首を縦に振る。
「超巨大物体...と言っても、米軍本部からは四肢がある、つまり、何らかの生命体であろうとの報告を受けている。」
デイビットは言う。これにロシア議員・ピュートルが口を出して、
「だが、"移動"もしてないんだろう?だったら、核兵器が有効的だろう。あなたらも核を保有しているはずだ。」
国際平和への多大な貢献から、昨年常任理事国となった日本の議員・坂上一博は、
「あなた方の保有している核兵器は諸国攻撃の抑止力だったはずです。アメリカでのことではありますが、もちろんそこには日本人もいらっしゃいます。あくまで抑止力である兵器を攻撃力として行使するのであれば、我々日本は遠慮なく拒否権を行使させていただきます。国連から核兵器の使用を推奨することなどできません!」
と大きく出る。その態度には怪訝な顔の国もあったが、デイビットばなりは譲歩の余地があるというような顔をして見せた。
核兵器をあまり使いたくない、というのはアメリカ側からしても同じである。
「では、N3兵器を使うしかあるまいな。」
デイビットはしばらく考え、そう言った。N3兵器とは「Not Nuclear Nuking(核を行使せぬ核攻撃)」を可能とする兵器であり、電気エネルギーを利用したものである。
「しかし、あれはまだ試作品ですよ...!?どのような影響が出るのかが定かではありません!」
と一博は言うのだが、これにはデイビットも呆れのため息。
「私は常任理事国である日本国の意見も加味してN3兵器の使用を提案したのだ。もちろん、我々も核攻撃を快く思ってはいないが、あれほどの巨体であれば核兵器でもなければ太刀打ちができないであろう?これにあなたらが拒否権を行使するのであれば、核を使わず近しい威力を有するものを行使する必要がある。今それが可能なのはN3兵器しかないだろう?」
と言って、日本を諭しに入った。
「分かりました。反対はいたしますが、拒否権の行使はいたしません。ここは理事国の総意に任せましょう。」
これに日本は拒否権を行使しない上での反対。続いて、英仏露中は賛成。無論、米も賛成で、非常任理事国からは6ヶ国の賛成が上がり、結局はN3兵器の使用が決まることとなった。
さて、それから約3日。太平洋海岸にはN3巡航ミサイル・疑似核槍ミサイル(PNLM)の発射台が並んだ。その先はユンケルの巨体の何処かに向いている。
ミサイルは繋がれたコードを介して北米大陸全体から電力を吸収。内部に高圧の電流が流れ出し、その全てが蓄えられる。
そして、合図とともに噴射口は点火し、マッハ25の超速で前方へ発射。尾を引き、ヤツへ一直線に突っ込んでいった。
その頃、沖では未だヤツとの戦闘が続いていた。
海はいよいよ死体と残骸で一杯となり、グングニルは当初のe分の一にまで減っていた。
「ラディウス!」
「ラディウス!」
「ラディウス!」
それでも、やはり反乱軍は攻撃を続ける。放たれた光線はヤツの体を削るか、その前に黒の光線で相殺さるかし、その度にアメリカ空軍の兵器が海へと落ちていった。
ワイフのグングニルもこれに参戦。
「ラディウス!ディフュージオ!」
と言うと、光線が拡散しユンケルのあちらこちらを削った。黒の光線が来れば、
「インビンジブル!」
と無敵化し、また「ラディウス」と「デュフュージオ」。そうやって、攻防を繰り返していた。
そんなところへいよいよ、PNLMが現れる。その先がヤツの体に次々勢いよく突き刺さり、ともに起爆装置が作動して、
ビガァァァァァッッッ!
と白光ととも大爆発が起こる。
「インビンジブル!ニゲル!」
「インビンジブル!ニゲル!」
「インビンジブル!ニゲル!」
「インビンジブル!ニゲル!」
「インビンジブル!ニゲル!」
これを見て咄嗟にグングニル乗組員は無敵化と光の遮断。爆風は海水を押し出し高波が発生。爆炎はヤツの巨体をいとも簡単に消し飛ばし、彼らが「ニゲル」を解除した頃にはあれほどの巨体が完全に消えていた。