Episode131 巨神討伐(中編)
「ゴァァァァァッッッ!」
続いて、ユンケルは叫んで腕を巨剣に。この巨剣は黒の光線に包まれ、これを振りかぶって横から凪ぐ。
ザギュィィィィィッッッ!
グングニルの気球部はまるで熱した包丁の前のチョコレートのように溶けて消え、数十台が一気に落ちる。ユンケルは
「グガガガガガ...!」
と高笑いを浮かべて、黒の光線を照射。
ギュィィィッッッン!ギュゥゥゥッッッン!
「ぎゃぁぁぁっっっ!」
「うがぁぁぁぁぁっっっっっ!」
「あぁぁぁっっっ!」
縦横斜めに過ぎる黒の光線。辺りに多く悲鳴が響き渡って、鮮血が飛び散り、肉片が落ちていく。
「ラディウス!」
「ラディウス!」
「ラディウス!」
残ったグングニルは対抗して光線を発射。その全てが死星飛機を介して、急激に増幅。次の攻撃が来る前にその光線が腕を斬り落とされた。
だが、ユンケルはもう片方をあげてそこから黒の球を生成。力が胴から腕に流れて、球は腕とともに肥大化していく。そこへ自然操作にて闇が増幅される。
「最後の艦長命令よ!『アルデバラン』の発動を!!!」
それを見てマリーは玉砕覚悟の策を命じた。第百七小隊全体にである。これに部下は反発。
「ファイナルコードを使えですと!?正気ですか、艦長!」
と1人が言うも、彼女は聞く耳を持たず、
「私は正気よ!発動しなさい!」
と珍しく声をあらげる。
『い、嫌です!死にたくない!!!』
『私も...!まだ、家族に別れの言葉も...!』
『我々はまだ何も成してはいません...。』
と言葉が続いても、策を変えることはない。
と言っても、ただ従えというわけではない。マリーは説得を試みる。
「これまで多くの兵士が死んでいったわ。邪神の脅威から人類を守り抜くために。だけど、それは未だ成されていない...。正直なところ、それだけじゃ彼らの死は無駄死によ。でもね...。私たちは生きているのよ!生きている者が死をただ恐れて、無駄死にを無駄死にのままにしておいていいのかしら!?生者にしか死者の無駄死にに意味を与えることはできないのよ!それでも、あなたたたちは最後まで生き続けることを望むの!?ただ、兵士が無駄に死に行く姿を黙って見過ごすの!?そうじゃないでしょっ!今ここで仲間のために死に、その仲間に意味を託す!それしかないんじゃないかしら!?」
マリーが大体こんなこを言うと、向こうのグングニルから
『でも...僕、死にたくなんてないですよ!』
という声が。これに対して彼女は
「わかっているわ。そうよね、勝利のためなら命など惜しくない人なんてごく少数。私の言ってることは全体主義で、受け入れられないかもしれない。だから、死にたくない者には戦線離脱を許すわ。ここにいては確実に死ぬものね。うんと遠くに逃げなさい。加えて、兵士全員が死ぬことになっても良い者にも離脱を許す。どちらにせよ誰も残らなければ私たちは確実に死ぬ、でも今離脱すれば今死ぬことはないわよ。後で死んだとしても何の葛藤もなく、戦わずして楽に死ねるわ。」
と言う。
その言葉に軍人は揺り動かされた。誰もが死にたいなんて思わない。でも、それは他の仲間も同じ。自分が死にたくないからと言って、仲間は死んでもいいとは思わない。死にたくないのと同時に、誰もが人を死なせたいなんて思わないのである。少なくとも、彼らにとっては。
グングニルから去ろうとしていた兵士たちは皆踵をかえし、操作盤に触れる。そして、一斉に
「ファイナルコード:アルデバラン!」
「ファイナルコード:アルデバラン!」
「ファイナルコード:アルデバラン!」
「ファイナルコード:アルデバラン!」
「ファイナルコード:アルデバラン!」
と輪唱を始める。
これを見てマリーは笑って、
「それでこそ、反乱軍第百七小隊よ!私はあなたたちと戦えたことを誇りに思うわ!!!」
と言って彼女も操作盤に触れる。
「勝利を我らに!安寧を汝らに!」
触れながらマリーが言うと、あちらからもこちらからも、
『勝利を我らに!安寧を汝らに!!』
『勝利を我らに!安寧を汝らに!!』
『勝利を我らに!安寧を汝らに!!』
と続いた。
これを聞いた彼女はもう思い残すことはないという顔で、
「ファイナルコード:アルデバラン!」
と叫んだ。
すると、グングニルは雷に包まれ、後方に魔力を噴射し、それぞれヤツの片腕に向けて急加速。雷はやがて炎となり、機体はやがて光となり、その筋が上から下へ、右から左へ、また左から右へヤツの極限まで肥大化した腕を次々と貫いた。
その総威力は増幅された「ラディウス」をも優に越す。やがて、その腕は地面に落ち、黒の球は空に溶け脅威は一先ず去る。
グングニルは完全に原型を失い、海に落ちていく。乗組員の皮膚は焼けただれ、なす術なく海の底へと沈んでいった。
そこへ大陸の方から新たな戦闘機が現れ、またシュバルツとともにシルバらの乗るグングニルが現れる。そこから有り様を見下ろすワイフは
「これは只事じゃないな...。」
と素直な声を漏らした。