Episode126 狂人のごとき策
立ち上がったユンケルは巨神の右拳をグングニルへ伸ばす。
これを見て、第七十小隊隊長のディールは、
「全艦、目標手関節に『ラディウス』一斉照射!死星飛機を増幅携帯に切り替えろ!」
と全艦に無線で伝えるこれを受けて、
「ラディウス!」
「ラディウス!」
「ラディウス!」
「ラディウス!」
「ラディウス!」
と各グングニルからの光線。その全てが増幅形態となった死星飛機を介して、極太に。それらが束ねられたさらに巨大な光線は、あっさり奴の太い腕を落としてしまった。
次にユンケルは左拳をグングニルに振りかざす。これにも、ディールは同じ指令を出して、またその腕を落としてしまった。奴は
「ガァァァァァッッッッッ!」
と叫んで顔を突き出し、顎を大きく開く。
「インビンジブル!」
「インビンジブル!」
「インビンジブル!」
これに中央辺りのグングニルが無敵化。が、その場に安住できる訳ではない。第九十一小隊のグングニルが奴に飲み込まれてしまった。体内には暗黒砲台由来の黒い光線が圧縮されてできた一種のブラックホールのようなものがある。
「ブ、ブラックホールだぁぁぁっっっ!」
乗組員は叫んで外を目指さんとするが、すぐその引力につかまる。
そのグングニルは無敵化されたまま、どこかの空間へと飛ばされてしまった。周りには惑星らしきものもあるが、明らかに黄昏界ではない。シュバルツの姿もなく、元に戻るのは不可能だと彼らは思うのであった。
そして、その頃、巨神の左右の手が回復する。と、グングニルの下を横切る数十のミサイル。
ドガガガガガガガガガガァァァッッッ!
とその全てが奴の足に命中し、反乱軍側も驚く不意打ちに流石のヤツも大きく怯んでしまう。
「続いて、攻撃陣形-05。全機、通過の際は各自目標へ機関銃を!」
アメリカの戦闘機パイロット・ジョブスは無線で編隊を組む各機体へ無線へ指示。
『了解。』
と返しが来て、早速その攻撃陣形-05に移る。
ギュガガガッ!ギュガガガッ!ギュガガガッ!
戦闘機はヤツを横切りそれぞれ機関銃を発射。その全てが命中した。
ユンケルは手を伸ばして機を掴もうとするが、その巨躯のせいで動きはかなり鈍く、超速の戦闘機には付いていけない。あっという間に後ろを取られて、しかも
バシュ、バシュ、バシュゥゥゥッッッ!
とミサイルがその背に飛んでくる。爆炎に押されて体勢を崩すユンケルであったが、何とか足で踏ん張って、しかも機体を1つ真っ二つにすることまでできた。その破片は慣性でそのまま進み、海をしばらく滑って止まった。
そこへ、さらにユンケルは畳みかける。
「グオォォォッッッ!」
と声を上げて海面に手を触れ、風と水を自然操作により制御。合わせ技でそこには水の竜巻が生まれ、容赦なく戦闘機を巻き込む。抜け出そうにも水流の勢いが強過ぎて、戦闘機の超推進力でさえ負けてしまう。しかも、内部にまで水が侵入して電気装置が故障し、散った火花でエンジンが爆発。水と風でその火は吹き飛んだがもう使い物にならないことだろう。
「まさか、太平洋戦争時の日本を当時敵国の我々米軍が再現することになるとはな...。」
そう言うジョブス。それを無線越しに聞いていた一パイロットは
『まさか、特攻なんて時代錯誤な方法のことを言ってないだろうな。』
「そのまさかだよ。我々は特攻する。だが、日本のやり方が時代錯誤なのも確かだ。故に、竜巻の頂点到達後、残されたエンジンの推進力を全て下に向け、我々はパラシュートで脱出。」
それにジョブスは答える。
『命の保証があるだけましだが、狂ってるって点では日本の神風特攻と何にも変わらねぇな!だが、俺は好きだ!』
『俺はいつでも隊長に従うぜ。』
『どうせ爆発するなら、それをヤツに食らわしてやるって訳だろ?乗った!』
他のパイロットもそのクレイジーさに賛同。作戦の決行が決定した。
さて、そんな会話をしている内に機体竜巻の頂点へ。ジョブスは、真っ先にレバーを思いっきり倒して、機体の先を真下へ。次に
「作戦開始!」
と言うと、周りの機体も全て真下に先を向けて、
「全エンジン、最大出力!下方目標に向かって全速前進!」
と言う。この声に、他のパイロットが、
『前進!』
『前進だぁぁぁっっっ!』
『うおりゃぁぁぁぁぁっっっっっ!』
『全速前進っっっ!』
と続いて、真下へ降下する。いよいよ、噴射口から黒煙が上がって黄色い炎が漏れ始める。
瞬間、パイロットは脱出してパラシュートを展開。パイロットを失った戦闘機は何の躊躇も無く真下へ。噴射口の炎は広がり、やがてヤツの首に側に来ると
ドガガガガガァァァッッッン!
と爆発。上からのまさかの爆撃にユンケルは一本取られて、今度こそ前に倒れる。
ザバァァァッッッッ!
と高く水飛沫があがり、大波が海岸にまで押し寄せる。その頃には水の竜巻も消えていた。
「作戦終了。生死の確認は不要。足止め程度になっただろう。」
その様子をパラシュートで風に乗りつつ、高くから見るジョブスと取り巻きのパイロット。上から見ると近くを巡洋艦が通るのが分かったので、彼らはそちらへパラシュートを傾けた。