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神です。異世界転生で一山当てようと思います。

作者: 秋野花得

 最近、異世界転生というものが流行っているのです。


 ついこの間までは「よそ様の世界にお邪魔するなんてはしたない」「転生で成り上がった神は信用ならない」とか酷い言われようだったのですが、気が付くと状況が一変していました。何しろ信仰の増えっぷりが半端ないのです。そこらの小世界の主神さまより、誰も名前を知らない転生業者の方が神力高かったりするのです。


 てきとうな人間さんを拾い上げて加護を授けて送り出すだけで、信仰ががっぽがっぽ。その後の活躍は1から10まで神様転生が無ければ起きなかった奇跡なので、面倒な因果律計算も無しで信仰は送り出した側の神さまの純利益換算。

 そこだけ説明すると送り出す側ばっかり得するみたいに聞こえますが、これがそうでもないらしいです。世界の危機を乗り切って人口が増えまくったり、思いっきり文明が躍進して思考活動の活発化が起きたり、転生者を受け入れる側の世界の神さまも信仰報酬が増えてwin-winの関係。これが新時代の神さまの在り方。


 というわけで私も流行りの異世界転生に手を出して、一挙に大物ゴッドにランクアップしてみたいと思っていたのです。

 ……思っていたのですが。


「あの、ほんと時間が無いんで。会社に帰らないと。今日中に済ませないといけない案件が……」

「いや、だから鈴木さんはもう過労死していてですね」

「冗談はいいですから。怒りませんから。早く帰してください。急ぎなんです」

「もう働かなくていいんです。落ち着いてください鈴木さん」

「落ち着いてます。冷静です。時計が壊れてスマホも不調、時間が分からない状況でもやることは変わりません。今すぐ会社に戻って三時に取引先の社長さんを迎える前に資料の準備を済ませて」

「どうしてそんなに会社のことで頭の中いっぱいなんですか……」

「私がやらなくて誰がやるんですかッ!?」

「え、あの……えっと、畑中部長? じゃなくて話を聞いてください。私の神力だと、あなたの魂を引き止めておけるのは十分くらいが限界で……」


 後半はなんかカウンセリングみたいになってた気がする。大丈夫こわくないよ私は鈴木さんのいいところたくさん知ってるから話を聞いてーっ。


 鈴木源太郎さん、享年27歳。死因は過労死。

 責任感に厚く、頑張り屋さんなところに期待して魂を拾い上げてみたのですが、全然話を聞いてくれないまま時間切れです。


 私の神格レベルでは、ちょっと相手の了承を取らないままの強制転生とかリスクが高すぎ、というかコストが高すぎて加護を付ける余裕が無くなってしまうので、やってられません。鈴木さんには本当に期待していたのですが、泣く泣く諦めました。

 そもそも転生自体はなかなかハイコスト。私がじっくり溜め込んだ信仰パワーをまとめて放出しても数回が限界。それが全部外れてしまえば、動物霊に逆戻りです。できれば転移で済ませたい。

 そんな気持ちで、若くして亡くなった優秀な人材を探し続けること1年間、ようやく見つけた鈴木さんだったのに……。


 人探し、世界探しに加護選択の三要素だけ押さえればばっちりだと思っていたのですが、この感じだと説得もなかなか大切な様子。幸いちょっと魂を引き止めてお話しするだけなら消費する信仰も大したことはないのですが、説得段階での失敗はなんだか私の女神的魅力が足りないと言われているようで辛いものがあります。


 落ち込んだ気持ちのまま神様ネットを漂っていると、今度は異世界転生業が上手くいかなくて悩む神々の霊信(レス)が出てくるわ出てくるわ。どうやら、異世界転生というのは私が思っていたほど甘くはなかったようなのです。


 失敗に懲りた私は、それから数十年ほど昔ながらの慎ましい土地神ライフを送りました。

 戦に敗れて主君を失い、逃げ惑っていた武士がたまたま白い蛇を見つけて追いかけてみたところ、四方を山に囲まれた手付かずの土地を見つけ、これを天啓と考えて定住するようになった――とかいう由来はぶっちゃけ私自身は全然覚えてないのですが、蛇竹村の白巻さまと言えばこれでもそこそこの神様だったのです。


 だったのですが、迫りくる少子高齢化の波には抗えず、信仰してくれる人々がだんだんとお爺ちゃんお婆ちゃんだけになってきてヤバいです。なんだか今では人間たちも神様ネット的なものを手に入れて、単一世界内とはいえ距離に束縛されないコミュニケーション手段を得たとかで地方神話が全世界に広まって信仰バブルが始まってるらしいのですが、私に届く信仰の量はガンガン下がっていってます。ヤバい。うちの信者のおじいちゃんたち、誰も神様ネット的なもの使えてないし、これは時代の変化に適応できずに絶滅しちゃうアレではないでしょうか。嘘っ、私の女神力低すぎ……。死ぬならせめて宗教戦争で華々しく死にたかったのに……。


 そんなわけで、私は藁にもすがる思いで異世界転生のことをもう一度調べました。


 そして今話題のカリスマ異世界転生業者、元世界での信者はほぼ無いにも等しいにも関わらず多次元支配級の神格を備えるというその神の存在を知ったのです。

 すなわち、某財閥を守護する神・鈴木さん! あの日私が目を付けたもののまともに会話すらできなかった鈴木さんが、いつのまにか神様になっていたのです。


 この先何が起きたらこうしよう、と事細かに分析した仕事用メモが死後にデスクから発見されて滞り無く死後の引継ぎが済み、しかも鈴木メモのおかげでなんとか特需とかの波に良い感じにのって大躍進。でも、なんか一気に増えたお金を使わないでいると、租庸調的なあれこれで全部税金っていうのにされて無くなってしまうとか。神様界の因果計算みたいですね。それならと鈴木さん像を作ったり本社内に鈴木さん神棚を作ったりした結果、神格化されてしまったというのです。


 そこから持ち前の才覚であれよあれよという間に大出世。異世界転生で一山当てた鈴木さんは、私が百柱集まっても届かないほどの信仰を運用して年1000件以上の転移転生者を送り出すスーパーゴッドに神化していったというのです。うらやましい。



「というわけで、鈴木さんのお話が聞きたいなって……」

「ごめんなさい。せっかく訪問して頂いたのに恐縮ですが、多忙につき時間が取れそうにありません。またの機会を――」

「待ってー! またとか無いの! 今すぐ異世界転生で一山当てないと私死んじゃうの! 霊的に死んじゃうんですー! たーすーけーてー!」


 住人のいない世界は、”世界”の定義を満たしません。私の村より遥かに広大な空間であっても、鈴木さんの管理するこのオフィス空間は虚空蔵(アカシャ)と同じ。神霊条約のほとんどが意味を無さない空間です。だからこそアポ無しで押しかけられるわけですが、逆に言えば私は鈴木さんに何をされても文句を言えません。

 周囲をせわしなく行きかう黒スーツの小人さんは全て鈴木さんの分け御霊。それを維持する信仰収入たるや、私には想像もつきません。とてつもない大物です。私みたいなローカル神霊は、指先一つで消し飛ばされることでしょう。


「お願いします! 助けてください! 鈴木さーん! 異世界転生のコツ教えてー! 私のたった一人の転生候補者鈴木さーん!」

「本当に忙しいのです。私もあなたとは是非お話ししたいのですが……ひとまず10年ほどお待ちいただければ」


 なんて露骨な「迷惑です」アピール。いっそ帰れと言ってほしい。いややっぱり言ってほしくない。

 それでも、私はこうして鈴木さんのオフィスの前でとぐろを巻き続けるほかにないのです。


 世界出張とか私によってはかなりの出費。手ぶらで帰ればあとはもう寂びれた村と共に死を待つばかり。村の外に出ていった何人かはもう私のこととか全然覚えてないですし、私も加護とか打ち切ってしまったので、村を出ていった人たちが何をしようとも因果計算でなんやかんやされてほとんど収入0。そして村の中に期待できない以上、私の存在はほとんど終わってます。

 どうしよう、どうしよう。そう考えるまま突然飛び出してしまった自分の浅はかさを後悔してももう遅い。でもせめて事前に神様ネットでメールくらいしておくべきだったんじゃないか。


「ふぇぇ……にょろーん……」


 鈴木さんに合うために整えてきたお仮生(けしょう)も崩れてしまって、ついつい玄関先でへびにょろしてしまっていると、黒スーツの小人さんが尻尾をちょんちょんとつつきました。


「お帰りはあちらです」

「そんなー!」


 わりと帰りの旅費もしんどい状態。できるなら住み込みで修行したい。それがダメなら小人さん達に混じって何か働けないものでしょうか。いえなんならオフィスの掃除でもいいです。あっ、おみくじとかかき混ぜましょうか? うちにはそういうの置いてない? そうですか。そうですよね。どうしよう。私これまでの神生の大半をおみくじかき混ぜながら生きてきた気がする。白巻さんおみくじの箱がないとどうやって人と接したらいいのかよく分からない……! 助けて小人さん。



 そんな調子で半年ほど座り込みを続けた結果、ついに私は鈴木さんに助けてもらえることになったのです。とはいえ鈴木さん本体は忙しいので、お話ししてくれるのは分霊の小っちゃい子の方なんですけど。


「やったー。私の誠意と崖っぷり具合が伝わったんですねー」

「いえ、いい加減諦めて帰って欲しいだけなんですが」

「またまたー。鈴木さんがその気になれば私なんて一飲みで消化されちゃいます」

「そんな一銭にもならないことに神力使いたくないですし」


 小さい鈴木さん、なかなか世知辛い。そういえば最近は厳しい神様が流行りなんでしたっけ。なんとか真理教とか。なんとか原理主義とか。なんで人が集まるのかよく分からないくらい過激なところに信仰が集まりますよね。どうしてなんでしょう。


「それで具体的な話を始めたいんですけど、白巻さんは異世界転生で稼ぎたいんですよね?」

「わー、名前を呼ばれたのすっごく久しぶりな気がします。地元では畏れ多いから軽々しく名前を呼ぶな、なんて風習が広まってるうちに本気で名前を忘れられつつあって……」

「異世界に人を送り込んで活躍させたいんですよね?」

「あっ、はい。そうです」


「ではまず、異世界転生の根本から入りましょう。いいですか。これは基本的には貿易業です。元の場所で価値を発揮しきれなかったものを、別の場所に送り届けることで付加価値を生み出す」

「ふかかち……? ふかひれ……?」

「魚を養うと書いて(ふか)。魚類では珍しく胎生で、子供を確実に育てることからサメのことを鱶と表します。そういう姿勢はある種私たちのお仕事にも通ずるところはあるかもしれませんね」


 どうしよう……。何を言っているのかよく分からない。


「まず大切なのは、なにを売りにするのかということです。自分の世界では扱い辛い加護を、異世界に渡して有効利用してもらうのか。それとも元の世界では生き辛かった魂に、活躍の場を与えるのか。もちろん両方噛み合っているのが最善ですが、まずはどちらかに絞って着目するのがよろしいかと」


「う、うーん。私の与えられる加護ってあんまり大したことないし、それなら良い感じな魂さんを探した方がいいかな。鈴木さんもそう思って頑張って探してきた人でしたし」

「その考え方は違います。もともと大したことがない力が、評価される場所を見つける。それこそが商売というもの。元から誰の目にも価値あるものなら、異世界転生などに関わらずともいいんです。一見使えないものを使う、そうでなければ異世界転生する意味がありません」

「なるほど……? 分からないけど褒められてる気がします。ありがとーございます」

「いえ、一言も褒めてませんが。白巻さんの話はしていませんでしたが。それで、白巻さんはどういう加護を与えられるんです?」

「それは……」


 神様の力は、その逸話と信仰の形によって決まります。落ち武者さんたちを新天地へと誘った私の持つ力は、まず一に道案内。いきたい場所にたどり着ける。適当に歩いてみても迷わない。むしろ適当に飛び出してみると良い感じな甘味処とか見つかったりする。ナビゲートならぬナビチートと言いたいものの我ながら大変地味な力で、チートとは到底言い難い。あとは世界中にたくさんいる蛇神さん系統共通の長寿とか治水とか、そういうのは加護にして分けるとほんとにささやかなものになってしまって……。


「いえ、いけるんじゃないですか。それ」

「いけるんですか? どこに?」

「それをいっしょに考えてみましょう。道案内が重宝される世界があればいいわけでしょう? そういう世界、結構たくさんあると思いますよ」

「住民全員が絶望的な方向音痴で、はぐれないようにみんなで手を繋いで暮らしてる世界とか……? 『いいか、太陽が登ってくる方向を東と呼ぶんだ』『すげえ! これで毎朝方角が分かるぜ!』『それだけじゃない。太陽が沈む方向を西と呼ぶんだ』『天才か! これで隣村まで迷わずにいけそうだぜ!』みたいな」

「いえ、そういう世界はまず無いと思いますが。両手を自由に使えないと文明が発達しないですし、思考レベルが低いと信仰の質もいまいちになりがちですし。それよりもっとファンタジー世界によくある概念があると思いませんか?」

「よくある……スキルツリー制なんかはある種の(ルート)があるので、迷わず最適ビルドにできるかもですね」

「えっ、そんなことまでできるんですか。それ普通に強いのでは?」

「でも地に足がついた感じで、チートっぽくないですし……」

「別にチートでなくてもいいんですよ。結果が出せれば利益が出ます。最初から世界を救わなくてもいい。洞窟のドラゴンを倒す程度でも、コストを抑えてそれ以上のリターンが出せれば成功です。ほら、最近は見た目にチートらしいチートより、一見弱そうなスキルが実は強かったことが判明するパターンの方が多いでしょう? コストを抑えて小さい成功例を積み上げながら、いつか運よくハマる機会を待つのがいいと思います」


 なるほど。さすがは異世界転生に精通した鈴木さんの眷属。

 ぱっと見弱そうだからと弾かれて仲間外れスタートする勇者が多いのはそういう理由だったんですか。


「それはそうとして、道案内が役立つ世界ってなにが正解なんです? スキルポイントの割り振りとかじゃないみたいですけど」

「正解という言い方は好きではありませんが、真っ先に思い付いたのはダンジョンです」

「ダンジョンに出会いを求めてもいいんです?」

「道案内が役立つ環境と言えば迷宮(ダンジョン)でしょう」

「でも私不思議のダンジョン系苦手ですよ? 次のフロアへの道が分かるだけで、そこの適性レベルがよく分からないので、ついつい調子に乗って進みすぎて詰んでしまいがちで……」

「あなたの苦手な部分にこそ可能性があるものですよ。調子に乗って進みすぎたりしない、慎重派の人に道案内チートを渡せばいいじゃないですか」

「そうですか……? 慎重派の人に道案内って要るんでしょうか? 最初から全ルートアタックして宝箱を意地でも取り逃さないスタイルなら道案内なんていらないんじゃないです?」

「そのあたりは匙加減でしょう。あなたの加護は、適当に飛び出せば良い方向に進めるんでしょう? 適当にふらふらしてると偶然隠し扉を見つけたり」

「それはまあ、そうですけど。目的も無く散歩するのって、意識してやれることじゃないですよ」

「自分で意識してやることはできなくても、そういう生き方ができる人を見つけるくらいはできるんじゃないですか?」

「できる、かなあ……」

「できますよ。だって白巻さん、最初に目を付けた人がわた鈴木さんだったわけでしょう? センスありますよ」

「ほんとに?」

「ええ。才能があると思ったから時間を割いてるわけです」


 なんだかちょっといけそうな気がしてきました。

 入り組んだ迷宮を冒険者たちが調べて回る世界。ダンジョンの奥底に眠る、失われた先史遺産(レガシー)が世界の行く末を左右する。超科学系の力が眠ってる世界なら、私がマナを分け与えなくてもなんとかなりそう。


「というわけでいま受け入れを出してる世界の中で、ダンジョン探索がメインになりそうな案件をまとめておきました」

「にょろっ!? 多すぎません!?」

「いえ、これでも絞った方ですが」

「そーなんだー……ってこれ、応相談のもたくさん混じってるじゃないですか。私みたいな場末の弱小神が訪ねていっても門前払いですよー」

「いえいえ。ちゃんとした計画を立ててプレゼンできれば伝わりますって。なんなら鈴木の紹介だと言ってもいいですよ」

「でもやっぱり無条件受け入れの世界の方がやりやすいし……」

「そういう世界は複数転生が発生して競合になることもなりますし、ちゃんと管理元と話し合った方がいいですよ? その方が細かい部分まで分かりますし」

「そうなんだー。たしかに私より強い加護がついてる人とかち合うのは怖いですね」


 私の場合、調べ物や探し物はてきどに気を抜いていた方が上手くいく。お話しながらぱらぱらと紙の束をめくっていって、ふと会話の途切れたときに視線を落とす。


「あ、これよさそう。死者の記憶が本となって仕舞われる墓書館世界(ダイヤフラフ)。世界各地の地下に広がるダンジョンには無数の本棚が散らばってて、本によってその人の技能を借り受けたり、過去を追体験したり、その人とお話しできたり。でもすべての本には貸出期限があって、どんな本もいずれどこかのダンジョンに消えてしまう。気に入りました」

「設定の面白さで選んでません? 世界原理の珍しさとか、私の仕事には何の関係もありませんよ? むしろ分かりやすい設定の方が、転生者の方もすぐ馴染めて得です」

「でも私の場合、ぱっと見良さそうだと思ったものはたいてい間違えじゃないですし。そういう神様ですし」

「その言い分で、墓書館世界を管理している神様を説得できますか?」

「う、うーん。事前に話すことを決めておかないとよくないのは鈴木さんのときに思い知ったのです」

「運次第で早い内から有用なアイテムが拾えそうなのはいいですね。白巻さんのスキルに噛み合ってます。迷宮であることに加えて、大量の本から有益なものを見つけ出す鑑定系スキルが重宝される性質も悪くない。普通の人がなんでもない本棚を漁っても虫とか雑草とかの本が出てきて時間の無駄ですけど、白巻さんの道案内があればちゃんと偉人の記録が見つかったりするわけですよね?」

「保証ができないけど、たぶん」

「それはなかなかの強みです。ダンジョン踏破とアイテム収集の両方に有益なわけですから」

「でも結構安定した世界だから、すごい活躍とかする余地なさそうだよ……?」

「これは私の経験則なんですけど、わざわざ求人広告を出してる世界は、何かしらの問題を抱えているものですよ。まずは会って話してみるといいと思います。そのために、まずこちら側の状況・魅力を伝える準備ですねー。いっしょに頑張りましょう」

「はいっ。私頑張ります」



 それから準備にまた半年ほど。神様にあるまじきハイペース労働で例の世界との交渉に成功し、良い感じな人材の死亡予定も見つけ出して準備万端。あとはトラックに轢かれて死ぬ予定の断花(たちばな)さんとお話しして加護を授ければあとは野となれ山となれ。

 その段になって、師匠に聞いてみることにことにしたのです。


「あの……どうしてここまで協力してくれるんです?」


「ああ、それはですねぇ。端的に言うと私利私欲。あなたを利用して儲けようと思ったのです」

「にょろ?」


 最初に奇抜な言葉を投げかけるのは、演説のテクニック。そう教えてもらいました。相手をひっかけるためのとっかかりはゆっくり静かに、重みをもった声で言うこと。


「あなたも、実際に異世界転生での信仰運用を始める前に、知っておくべきです。ビジネスの世界の大原則を」


 そして、意識を掴んでいるうちに、話を聞く必要性を訴えること。


「いいですか。異世界転生が儲かるのは、細かい因果関係の計算でよそへ流れて天引きされる心配が無いからです。言ってみれば法制度の整備が間に合っていないからですね。よほどの深い関係が無い限り、転生者を送り込んだ神様に100%還元されます」

「……」

「気付いたようですね。ええ。これからあなたが手掛ける事業はその例外です。計画のあらゆる場面で、他の神が関わっていますから」

「三割……いえ、五割ほど持ってかれる、かも……?」

「私の見立てだと6・4ですね。こちらが6で、白巻さんが4」

「そ、そんなにっ!?」

「あなたは絶対に失敗できないので、断花さんに付きっ切りでちょくちょくアドバイスする予定。私が今日まで丁寧に教えてきたので、きっと成功するでしょう。保証します。そしてその成果の六割は私のお仕事として勘定される。この一件だけ見ればあまり時間効率が良くない仕事なのですが、あなたはきっとこれからも成功しますよ」

「あの、私、租聖法とか詳しくないけど、もしかして……」

「ええ、これからも長らく鈴木のために働いていただけることを期待しております。さ、そろそろトラックが事故る時間ですよ、白巻さん。頑張ってくださいね」


「ああ、それと、この世に自分だけが得する話なんてありません。あるとしたら、それは自分で考えてやってみたことだけですよ。転生者が頑張った分だけ私たちが得するように。自分が村に施した分の信仰が、国を司る神に流れていくように。世の中そういう風にできている。上手い人ほど、誰にも妬まれずに上澄みを掠め取っている」


「そういう構造を作る側に回ることですね。これが、最後の教えです。では、あなたの成功を祈ってますよ。ランキング載れるといいですね」


 遠くでトラックが事故る音がした。

 けたたましいクラクション。急ブレーキでタイヤが地面を捉えきれずに流される。横転する車体、後輪が摩擦で弧を描き道路に跡を残していく。


 その音に重なるようにして。


「感謝してますよ。あのときの慌てた女神さん。事前に過労死したことを知らされていなかったら、あの後始まった抜き打ちの適性検査には落ちていたでしょうから。今の私があるのは、あなたのおかげです。せっかく私を拾い上げたのに、転生ルールのことなんて全然説明できないまま時間の限り必死で慰め続けてくれたあなたは、最高の女神でした。下手に感謝すると、私の信仰が全部あなたに流れていってしまうくらいに。おかげで脱聖(だつぜい)するしかなかった」


 新着履歴が更新される。お気に入りユーザーが更新しました。


「それもここまでです。今回の6:4契約との差し引きでかろうじて私も生き残れそうです。ええ、あなたは本当にお上手でいらっしゃる」


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