着慣れない浴衣
皆で夏祭りに行こうという話になった。
その話をお兄ちゃんにしたら、なんと! 浴衣を買ってくれた! しかも、私好み! 淡いピンクの生地に、薄紫の小さい花が所々に描かれている。
しかも、どこで覚えて来たのか知らないけど、着付けまでしてくれた。
「よし、これでいいな。どうだ葵? キツすぎたりしないか?」
「う~ん……少しキツイような?」
帯で巻かれた辺りがちょっと苦しい。
「浴衣はそんなもんだ。緩すぎると、動いた時に着崩れしてしまうからな」
ほへ~そんなもんなのか。
「よーし! じゃあ行ってきます!」
「気を付けるんだぞ。夏祭りで人がごった返している。そういう時は、タチの悪い連中が息を潜めてる可能性が高いからな」
親みたいなことを言うお兄ちゃん。
「分かってるよ! 優斗達も居るし、はぐれなきゃ大丈夫!」
そう言ってお兄ちゃんに手を振り出発した。
大丈夫。今日は夏祭りを楽しむのは二の次だ。一番の目標は、遼に私の気持ちを伝えること。この前の遊園地で、夏希やひよりんに背中を押して貰ったんだ! やってやる!
「葵~!」
考え事をしながら歩いていると、前から声がかかる。
「夏希! 優斗!」
2人を見つけて走ろうとしたが、着慣れない浴衣のせいで思ったように動けなかった。
「走りずらっ!?」
「浴衣で走るもんじゃないよ~」
にゃははっと笑う夏希。そんな夏希も今日は浴衣を着ていた。薄いオレンジの生地に大きな花が所々に描かれていた。
「夏希も浴衣なんだ! 似合ってるよ!」
「そう? ありがと! 葵もちょー可愛いよ!」
お互いに浴衣を褒めあっていると、暇そうな優斗が声を出す。
「さっさと行こうぜ~。電車が混んだら面倒臭いし」
この男にはレディを褒めると言う言葉はないんだろうか……。
そんなこんなで、会場に着いて皆と合流する。
「ほわぁ……ひよりん可愛い……」
綺麗なひよりんの金髪は3本の三つ編みをお団子に纏めた様な髪型になっていた。そして、それを際立たせる水色の浴衣。所々に金魚が描かれている。もっと派手なので来る思っていたから、余計に驚いた。
「ま、まぁ? 私なら似合いますわ!」
そう言っているひよりんの顔は少し赤かった。可愛いやつめ。
男陣はいつも通り私服だった。まぁ、私も男の時は私服だったな。甚平だと財布とか仕舞うところないんだもん。
「あ……遼」
ふと、遼と目が合って反射的に逸らしてしまう。
「に、似合ってるじゃん……その浴衣」
「あ、ありがと……」
お互いに目を合わせずにそう言葉を交わす。
「よっしゃー! 花火が上がるまでにまだ時間もあるし! 楽しむぜーい!」
いつもの如く走り出す優斗。
「おいこら! はぐれたら合流が面倒に……ってもう見えなくなった……」
私の静止も聞かずに優斗は人混みの中へ消えていった。
「まぁ、優斗なら大丈夫でしょ。それより、あたし達も行こっ!」
夏希に手を引かれて色んな屋台を見て回る。
「やべぇ……」
私は今、危機的状況に陥っている。
「はぐれた……」
辺りもすっかり暗くなり、会場は更に人で溢れ返っていた。
「うひゃぁ……この中から皆を探すのは至難の技だな……」
ちなみにスマホは部屋で充電していたのを忘れてきていた。
「どうしよ」
辺りを見回すが、人、人、人! 皆の姿は見当たらなかった。
「あのデカい遼ですら見つけられないとすると……絶望的だ……」
落胆する私には、気付いていなかった。後ろから歩み寄る影に。
~遼side~
「葵はどうだ? 繋がったか?」
スマホで連絡を試みている夏希に優斗が聞く。
「ダメみたい。この喧騒だし、もしかしたら気付いてないかも」
首を振って力なく答える夏希。
「この人混みではぐれるのはマズイな……。アイツちっちゃいから見つけられん」
俺はそんな事を言いながら、内心焦っていた。こんな大イベント、タチの悪い連中が居てもおかしくないからだ。
「はぐれないように、グループになって探そう。僕は日和と向こうを探すよ。3人はあっちを頼むよ!」
晶也の提案により、晶也と日和。俺、夏希、優斗のグループで葵を探すことになった。
~葵side~
「な、なんですかあなた達」
やっべー! マジピンチ! 変な人達に絡まれたー!
「そんなに警戒しなくても大丈夫だよ? ただ、オレらと遊ばないかなって」
見た目からしてチャラい金髪の男がそう言って近づいてくる。
「け、結構です! 友達と来ているので」
「え~? でも、どこにも居ないじゃん? 君みたいなカワイイ娘を置いてどっかに行っちゃう友達より、オレらと遊ぼうぜ? な?」
金髪の男の隣に居る茶髪のチャラい男がそう言う。
「あの……その……」
急な事にこちとら頭の中パニックだよ! 出掛ける時にお兄ちゃんが言っていた言葉を思い出す。
『タチの悪い連中が息を潜めてる可能性が高いからな』
うぅ……ごめんお兄ちゃん。早速捕まりました……。
「な? そうそう、アッチに花火がよく見える所があるんだよ。そこ行こっ」
金髪の男に腕を掴まれた。
「は、離してください!」
必死に男の手から逃れようとするが、強い力で掴まれていて、私の力ではどうしようも出来ない。
「あーこらこら、暴れない……の!」
金髪の男が更に力を入れてきた。
「痛っ……!」
や、やばい。怖い。脚がガクガクして、上手く踏ん張れない。
「おいおい、そんなに怯えさせたら可哀想じゃん」
ヘラヘラと茶髪の男が笑いながら金髪の男に言う。
「おう、そうだな。ごめんねー? 大丈夫だよ? 怖くないよー?」
怖いっ。自然と目に涙が浮かんでくる。体の震えが止まらない。誰か……助けて……。
そう願っても、周りの人は面倒事は嫌だとばかりに、私を無視していく。
誰か……助けてよ……。
「んじゃ、行こっか」
そう男が言って、無理やり肩を抱かれる。その瞬間、私は持てる力の全部を声に出して叫んだ。
「遼ー!!!」




