不安
最近、葵がなんだか冷たい気がする。
『別に』 『なんでもない』 『用があるから』
いつもだったら、何でもない言葉。だけどそれが、今は冷たく感じる。もしかして、嫌われた? 俺の気持ちが知られたって事か? だとしたら、やっぱり気持ち悪いとか思ったのか……。
俺は部屋の天井を見上げる。
「葵……」
そう呟いた俺の右手には、夏祭りと書かれたチラシが握りしめられている。
~次の日~
「夏休みもあと2週間! というわけでやって参りましまた!」
優斗の提案で俺達は遊園地に来ていた。
ここは全国的に名の知られている遊園地だ。なんでも日本一のアトラクションが沢山有るとか。
「よっし! つーわけで、まずはジェットコースターだろ!」
テンションの上がった優斗が、ジェットコースターに向けて走り出した。
「わ、私、怖いのは苦手ですのよ……」
「大丈夫! 僕が隣に付いてるから!」
いつの間に仲良くなったのか、晶也が日和を勇気づけていた。
「よーし! 葵、あたし達も行こ!」
「うん」
夏希が葵の手を引いて走っていく。
「……………俺も行くか」
「おせぇぞ遼!」
「おー、わりぃ」
優斗がジェットコースター前から俺を見つけて駆け寄ってきた。それに対して、適当に返事する。
「な、なんだよ? テンション低いなおい」
「いつもこんなもんだろ」
適当に優斗をあしらいつつ、ジェットコースターに乗り込む。
「いやー! 流石日本一の高さを誇るジェットコースター! ちょー面白かったな!」
「おー、そうだな」
優斗に適当に返事を返しながら葵を見る。
夏希が葵に抱き着き、なにやら話しているが、ここからだと声が周りの喧騒に紛れて聞こえなかった。
その後も色々とアトラクションに乗ったが、正直そんなに覚えてない。昼飯も食ったけど、その味すら覚えてない。楽しかったかどうかなんてのは、今の俺には至極どうでもよかったんだ。
「男と女で分かれるか」
観覧車の前にやってきた俺達は、葵の提案で3:3に分かれることになった。流石に6人全員で乗るには狭すぎる。てか、観覧車って4人乗りとかそんなのだろ。
そんな事を考えていると、ゆっくりと上昇していく観覧車。1つ下のカゴには葵達が楽しそうに話している姿が見えた。
「なぁ遼。お前さ、今日どうした?」
急に優斗がそんな事を聞いてきた。
「んー? どうしたって……別になんともねーよ」
体調は悪くないし、あーでも腹は減ってるな。
「でも、今日は葵ちゃんと一言も喋ってないよね? 葵ちゃんと何かあった?」
晶也が心配そうに俺を見ている。
「……別に」
そう答えるのが精一杯だった。何かあったか? そんなの俺が聞きたいぐらいだ。
「そ、そっか。ごめんね、変なこと聞いて」
そう言って晶也は外を眺める。
暫しの沈黙。それを破ったのは…………俺だった。
「最近さ、葵が冷たい気がするんだ。避けられてるっつーか」
なんで話したのか分からない。俺と葵の問題なのに。
俺はことの顛末を2人に話した。葵が最近冷たい事。俺が葵の事を好きなこと。嫌われたく無い事。全部話した。
「そうなんだ……」
俺の話を聞いて、晶也は考え込んでいる。
「あのさー、俺バカだけどさ、聞いてくれる?」
優斗が急にそんな事を言い出した。
「なんだよ」
とりあえず聞いてみるか。優斗にはあんまり期待してないけど。
「お前が思ってる事と同じ事を、葵が思ってるんじゃねーのかなって。だからお互いに食い違いしてて、お互いがお互いを避けてるっつーか……。あー! 上手く伝えられねぇ! なんとなく俺の言いたい事を察してくれ!」
優斗の意見は、俺にとって新鮮だった。俺と葵の思っている事は同じ。ということはーー
「葵は俺のことが好き……なのか?」
そう言うと、2人は「コイツ何言ってんだ」みたいな目で見てくる。
「気付いてなかったのかい?」
「俺もバカだけど、遼もバカだな。下手したら俺よりバカだな」
葵が俺のことを……。そんな事ある筈ないと、初めに切り捨てた考えだった。そもそも、それを否定する為に俺はこんなに苦しんでいたんだ。
「まぁ、なんかよく分かんねーけどさ、お前の気持ち伝えたら? やってみないと分からねぇこともあるしさ」
優斗に諭されるとは思ってなかった。コイツ意外と考えてるんだな。
「分かった。伝えてみる」
来春の夏祭り。そこで俺は想いを伝える。そう心に決めて、遊園地を後にする。
ちなみに、葵達の所でも似たような会話をしていたのは、遼の知るところではない。




