案外あっさり!?
ピンポーンと家のチャイムが鳴る。
「はーい」
玄関を開けると、晶也が立っていた。
「いらっしゃい! 上がって!」
晶也を部屋に招き入れ、座らせる。
「葵ちゃん、話ってなんだい?」
「うん、実はさお前に聞きたいことがあって」
晶也は頭の上にハテナを大量に浮かばせたような顔をして私を見る。
「いやさ、ずっと気になってた事があってさ。お前とひよりんって許嫁なんだろ? なのになんで仲悪いのかなって」
なるべく自然に話を切り出す。晶也の眉がほんの少しだけピクリと動いた気がした。
「そうか……そういう風に見えるんだね」
「というと?」
「確かに、僕達は許嫁同士にしては仲が悪いかもしれない。でも、お互いに幼い頃からの付き合いで、兄妹の様に育った。そのせいか、悪い所ばかりに目がいってしまってね。僕にとって日和は、ワガママな妹といったところかな。日和も、口煩い兄だと思っているんじゃないかな?」
苦笑いを浮かべながら晶也は続ける。
「お互い、許嫁というよりも、兄妹という方がしっくりくるというか……」
「ほえ~……そうなんだ」
晶也は、苦笑いしつつも、どこか嬉しそうに話している。
「あ、もしかして……紺野から何か聞かされたかい?」
ギクッ
「そ、そんなことないよー」
「図星だね。葵ちゃんは嘘が下手すぎるよ」
アハハッと笑う晶也。なんでだ……なんでバレた……。
「紺野から何を聞いたか、話してくれるかな? 大丈夫、だいたい予想はついてるから」
私は紺野さんとのやりとりを、晶也に聞かせた。正直、話していいのか分からなかったけど、本人に感づかれているなら隠してても無駄だと思った。
「そっか……やっぱり紺野にはバレてたか~。完璧に演技してる筈だったのになぁ」
なんて言いながら晶也はため息を吐く。
「ってことは、紺野さんが言ってたことは本当なのか?」
「本当だよ。だから……というか、その、一つ頼みがあるんだ」
いつになく真剣な表情の晶也。私も頷いてそれに答える。
「ありがとう。実は、もう少しなんだ。もう少しで縁談が無くなりそうなんだ。だから、それまで……葵ちゃんと遼君には、僕達に利用されて欲しいんだ」
「ワガママを言っているのは分かってる。でも、どうか……協力してくれ!」
晶也はその場で頭を下げる。
「ちょっ!? 頭上げろって! 分かったから! 協力するから!」
慌てて晶也の顔を上げさせる。
「葵ちゃん……ありがとう。それと、ごめんなさい」
「ほえ? なにが?」
急にお礼と謝罪をされて、私の頭はハテナでいっぱいだ。
「ほら、その、キス……しちゃって。君の気持ちも関係なしに、僕は君を利用してしまった……本当にごめんなさい!」
またしても頭を下げる晶也。今度は、止めなかった。私にも思うところがあるからだ。
「晶也、私ね、あれが初めてだったんだ。正直に言うと、利用されて、あんな事されて……私は怒っているのですよ」
晶也は黙ったまま、頭を下げ続けている。
「私にだって、いずれ好きな人が出来たら、私の初めてを捧げたかったよ。でも、それも叶わない。お前の自分勝手な行動のせいで」
「だから。1発殴らせろ! それで、許してやる!」
ガバッと顔を上げた晶也は、非常に困惑した顔をしている。
「そ、それで……許してくれるのかい? 僕は君に酷い事をーー」
「るっせぇー!!!」
「痛っ!?」
殴った。思いっきり頭頂部を上から。その衝撃で晶也は床で、おでこを打った。
「仮にも! 元男だ! こういうのは1発で済ますのが男ってもんだろ!」
なんか分かんないけど、急に男だった時の血が騒いできた。
「あ、葵ちゃん……ありがとう」
顔を上げた晶也は泣いていた。
「うっし! じゃあ、歯ァ食いしばれ!」
「ちょっ、ちょっと待ってよ!? さっき殴ったじゃん!?」
「バッカ野郎!!! あれは気合を入れてやっただけだ! 本番はここからだ!」
その日、晶也は左頬を真っ赤に腫らしながら帰っていった。
「ちょっと強く殴りすぎたか? いやいや、そんなことないな!」
ヒリヒリと痛む右手を氷で冷やしながら、ふと麗華さんの事を思い出す。
「そういえば、麗華さんのアドバイス……あんまし意味無かったな……」
心の中で、麗華さんに謝る。
「さて、晶也は何とかなった! 次はひよりんだな」
葵の1発は全体重を乗せたので、かなり痛かった筈です




