あの日のこと
「ふんふんふ~ん♪」
スキップをしながら屋上へ向かう。大学内の売店で甘いものを買ったらおまけしてもらって気分がルンルンなのだー!
「あ、あの!」
急に呼び止められ、つまづきそうになりながらも声のした方を向く。
「あの……えっと……」
目の前には、この間の3人組が居た。
「な、何用でござりやがりますか!?」
ザザっと後ずさりして、不格好に構える。
「あの……その……この間は、ごめんなさい!」
「ごめん……なさい……」
「ごめん…………」
「へ?」
急に3人に頭を下げられ困惑する。
「な、何事でやがりますか!?」
さっきから訳の分からない喋り方をしてるけど、ホントに困惑してて頭の中ハテナ状態なんだよ。
「反省したんだよ。髪を切るのは……やりすぎた……」
頭を下げたままで狐目の女がボソボソと言う。
「あのさ……これ、信用して貰いたいから……自分で消して」
とはギャル風の女だ。カメラを私に差し出している。
「え? え? なんだかよく分からないけど……えっと、消せば良いんだよね?」
カメラを受け取って覚束無い操作でこの間の動画を消す。
なんとか頭の中を整理して、改めて3人組に向き合う。
「えっとさ、折角謝ってくれてるところ悪いんだけどさ、動画を自分で消した程度じゃ信用は出来ないよ。バックアップ取ってたりしたら意味無いわけだし」
やべー! 頭の中整理したら目の前の3人組がスゲー怖くなってきたよ!? 脚プルプルしてるよ!? いやいやいや! 平常心……平常心……。
「じゃ、じゃあ! どうやったら……アタシ達のこと信用して貰えるかな?」
ギャル風の女が今にも泣き出しそうな顔をして言う。
「信用云々の前にさ、君達がやったことは許せないよ。そんな相手の事を信用なんてさ……出来るわけないじゃん」
当たり前だ。髪は切られたし、腹は蹴られたし、そんな事をしたコイツらを許す訳ないし、信用なんて以ての外。
「そ、そう……だよね……ごめんなさい……」
ギャル風の女は下を向いた。その時ポタポタと床に水滴が落ちた。
「泣きたいのはこっちの方なんだけど?」
少し強めに言い放つ。
「あ、あの! もう……関わらないから! さっきの動画もバックアップも何もしてないし……だから!」
「許せって? ふざけるのもいい加減にしろよ。もう関わらないから? 当たり前だろ。関わったこともないお前らに、良く分からん言い掛かりで絡まれて、挙句髪を切られ、腹を蹴られ、動画を撮られ…………」
だめだ。頭の中真っ白になってきた。
「お前らに同じことをしてやりたい気分だよ……いや、それ以上か……」
手から下げていた袋を床に落とした。そして、腕が狐目の女の首に伸びていく。
「ひっ……!」
狐目の女が小さな悲鳴をあげる。後は力を入れるだけ……。
ガシッと、とても強い力で腕が何者かによって掴まれる。その腕を辿って、掴んできた人の顔を見る。
「葵、それ以上やったらお前はコイツらと同列だ。俺はそんなの見てられない」
「えっ……? ゆうと……?」
私の腕を痛いぐらいに掴んでいる優斗。
「えっ……? あっ、ごめん!」
優斗に止められて初めて自分が何をしているのかを理解した。
「あ……あぁ……」
狐目の女はガタガタと震えながら尻餅をついた。
「ご、ごめんなさい!」
そう言って3人組は逃げていった。
「葵、いくらなんでもやりすぎだろ」
「うん……でも、気がついたら体が勝手に……」
優斗に軽く怒られながら、ついさっきの出来事を思い出す。
「私……あの人の首を締めて……」
「いーや、締める前に俺が止めた。ったくよー、たまたま通りがかったから良いものを……」
ため息を吐きながら優斗は、やれやれといった様子だ。
「ごめん……あの時、頭の中が真っ白になる感覚があって……それで気がついたら……」
「え……葵ブチ切れたのか……アイツらやるな……」
ブチ切れた? 私が?
「よくわかんねー、みたいな顔してるなぁ。お前さ、昔っから滅多に怒らない人間だけどさ、キレたら記憶が飛ぶ程キレるんだよ」
「えぇ!? マジで!?」
そんなの知らなかったんですけど!?
「マジだよ。しかも当の本人は覚えてねーから、次の日はケロッとしてるんだよ……。当初はワザとやってると思ってたから、怒らせた次の日とかビクビクしてたんだよ。いやマジで」
「な、なんかごめん」
私、キレたらヤバいのか……。今度から気を付けよ。あれ? でも、記憶が飛ぶなら気を付けるも何もないような気が……。
「まぁ、あんだけやったらアイツらも関わって来ねーだろ。変な噂は立ちそうだけどな」
ケラケラと笑いながら私の頭をポンポン叩く優斗。
「うぅ……明日から気が重いよ……」




