彼女の心は苦痛を叫ぶ
コンコンとドアをノックする音が部屋に響く。
「葵? 優斗君達がお見舞いに来ているぞ?」
お兄ちゃんだ。私は今風邪を引いたと言って大学を休んでいる。心配した優斗達が来てくれたみたいだ。
「うつすと悪いから、ごめんだけど帰ってもらって」
力なくお兄ちゃんに頼む。
「わかった」
大学でのあの件以来、ずっと部屋に引きこもっている。1週間は休んでるんじゃないかな? お兄ちゃんには気分転換だと言って髪のことを誤魔化した。
でも、優斗達は……きっとそうはいかない。変に心配もかけたくない。
「なんであんな事に…………」
私はあの日の事を思い出す。
『欲張りすぎだよぉ』
どういうことだろう。私はただ優斗達とは友達で、一緒に居るだけなのに……。一緒に居ること自体が欲張りって事なのかな……。
あの日の事を思い出すだけで、勝手に体が震えてきて涙が出そうになる。
ピロリン
不意になったスマホにビクリと体を跳ねさせる。
「あ……夏希からだ……」
『葵~? 1週間も風邪で休んでるけど大丈夫? 皆心配してるよ?』
夏希のこの優しい文面を見ただけでさっきよりも涙が溢れてくる。
「ぐすっ……大丈夫だよ、なかなか体のダルさが抜けなくって…………と」
送信。夏希達に嘘をつくのは心が痛いけど、それ以上に迷惑はかけたくない。
ピロリン
『そっか~。早く元気になってね! 駅前に出来た新しいカフェに行きたいねってノワちゃんと話してるんだ~。だから、葵も早く良くなるように!』
「ひっぐ……ごめん……皆…………」
ポタポタとスマホの画面に涙が落ちる。皆に嘘をついている罪悪感と、あの日の恐怖が入り混じって頭の中がぐちゃぐちゃになる。
まだ、戻れそうにないな……。




